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act.9-8 GAME

 湯浴みから上がって自室に戻ると、そこには30分後の時刻だけが書き記された紙が落ちていた。

 それだけでは他の人間が目にしたとしてもなにもわからない。

 ただ、それが「迎えに来る」というギルバートからのメッセージだと気づいて、アリアはさすがに顔を潜めていた。

 まだ寝るには少し早い時間帯だ。だが、後は寝るだけ、という時間帯でもある。

 もちろん意味もなくこんなことをするはずもないから、必要に駆られての行動なのだろうが、アリア以外のメンバーはこんな時間まで一体なにをしていたのだろうかとも思ってしまう。

 アリアは、必要最低限以外は呼ばれない。それは、リスクを避ける為でもあるし、アリア個人が"ゲーム"通りに自分以外のメンバーに友好を深めて欲しいと願っているからでもある。

 "ゲーム"の中では、放課後自然とみんなで集まるのが習慣化していたのだから。



「……ノアは?」

「アイツには後で話すからいい」

 集まっているメンバーの顔をぐるりと見回して、アリアは現状で一人足りないノアはどうしたのかとギルバートに窺うが、同じ学校でもあるギルバートは明日会った時に話すから問題ないと嘆息する。

「なにかあったの?」

 "こんな時間に突然"と、アリア的には呼び出しの理由を聞いたのだけれども。

なにか(・・・)あるのはアンタの方だろう」

 ノア不在の理由に"ギルバートとの間になにかあったのか"という質問の意味に受け取ったギルバートから、噛み合わない答えを返される。

「石鹸の匂いさせて、アイツがいたらそのまま押し倒されても責任取れないからな」

「っ!誰のせいで……っ!」

 確かにあの誘い文句の攻撃は困ってしまうが、けれどそれならばこんな時間に呼ばないで欲しいとアリアは瞬時に顔を赤くする。

「それとも代わりに相手してやろーか?」

 くすっ、と、少しだけ身を屈めて意味深に囁きかけてくるのは本当に止めて欲しい。

「……嬢ちゃんは相変わらずだなぁ……」

「……ジャレッド」

 そんな二人の遣り取りを呆れた目付きで眺めているのは、なんだかんだと半分足を突っ込んでいるジャレッドだ。現状、ジャレッドは"仲間"ではなくあくまで"協力者"という立ち位置のはずだが、それももはや"仲間"と同義のような気がしている。

 結局、シリル以外は"ゲーム"通りの展開だ。

「……こんな時間に男だらけのところに来て、少しは危機感てもんをだなぁ……」

「……そんなことを言われても……」

 こんな時間に突然呼ばれたら、逆に何事かと思ってしまう。

 しかも、このメンバーが自分になにか危害(・・)を加えるとも思えない。"2"の"対象者"たちは確かに手は早いけれど、想いが通じるまでは誰か(・・)と違って清い関係を貫いていたのだから。

「……いや、まぁ、サイラスのことで……。なるべく早い方がいいかと思ったんだけど……」

 だからといってそこまで急ぎというわけでもないことを示唆して、アラスターが申し訳なさそうに苦笑する。

 元々ギルバートとアラスターは、遅くまで出歩いていたとしても心配してくるような家族はいない。シャノンに関してはアラスターのところに行っていると言えば咎められることもないから、三人とも本当に自由人だ。

 ――もっともそれは週末の話で、基本的にシャノンとアラスターの二人は、平日は寮生活なのだけれど。

「今日は、そのことで?」

 アラスターのその言葉に、アリアはそうだったと昼間の出来事を思い出す。理由は違えど、サイラスに会いに来てユーリと出逢うなど、本当に"ゲームのシナリオ"という名の"運命"は厄介だと思ってしまう。

 わざわざ学校まで出向いたはいいものの、その後はどうなったのかと目を向ければ、アラスターはやれやれと吐息を溢していた。

「結論から言えば、今回()仲間に入ることは断られた」

「今回()?」

 なんとも意味ありげな物言いに、アリアは瞳を瞬かせる。

 それにシャノンが無言で頷いて、

「……国家反逆罪(・・・・・)に手を出すことへの危険性と、逆に国を翻弄してやりたい野心家みたいな感情が同時にせめぎ合ってるような感じだった」

 と、なにか考え込むかのような仕草をするのに、アリアだけは心の中で大きく納得してしまっていた。

 "ゲーム"の中でアラスターに怪盗団へと誘われたサイラスは、国を手玉に取るスリルを味わっているところがあった。

 元々貴族社会を嫌悪している節があったサイラスだから、国が自分たちに翻弄されている様子を見ているのが楽しかったのだろうと思う。

 結局は、サイラスのその歪んだ性格の元を作ることになった彼の家庭環境を知ることになったシャノンから、ガツンとやられることになるのだけれど。

「ただ……」

 ぽつりと続けられるシャノンの言葉に、アリアはことりと首を傾ける。

「……俺は人の機微に疎いから絶対に、とは言えないけど……」

 顔をしかめて先を続けるシャノンの表情は、なぜかどこか不満そうな気配を滲ませる。

「多分、アイツが俺たちを売ることはない……、と思う」

「本当に?」

 シャノンがそう言うのならば間違いないだろう。

 とにかく一番の不安要素が消えたことで、アリアはキラキラとした瞳でシャノンを見つめてしまう。

 安心感から、顔の筋肉が緩んで笑顔になる。

 いろいろ考え込んで眠れない夜になっていたかもしれないことを思えば、なるべく早くとその情報をもたらしてくれたことはとても嬉しかった。

 今夜はきちんと眠れそうだ。

「……まぁ、恐らくは。売らない、というか、売れない(・・・・)、というか…」

 ちら、とアリアへ視線を投げたシャノンは、頭を抱える仕草で大きな大きな溜め息を吐き出した。

「?」

「……俺の勘違いかもしれないけど」

 一体なにを()んだのだろうと疑問も浮かぶが、必要に駆られない限りは他人の心の内をシャノンは勝手に話したりはしないだろう。

 どちらにせよ、サイラスがZEROの正体を胸に秘めていてくれるというのならそれで充分な成果だった。

「……アイツ、結構な野心家だろ?」

「……そうね……」

 そうして向けられた別の質問に、アリアは少し考えてから苦笑を返す。

 シャノンがサイラスのことをどこまで知ったのかはわからないが、"ゲーム"の流れを考えれば、涼しい顔をしたサイラスが、その実胸の内にどれだけの熱を宿しているのか気づいたのかもしれない。

「バカバカし」

 すぐに容赦なく切って捨てたシャノンへと、"ゲーム"の中での二人の遣り取りを知るアリアは乾いた笑みを溢してしまう。

 どうやら、本当の自分を隠して生きていることに関しては、すでにシャノンの知るところらしい。

 最終的には「バカバカしい」とシャノンにそう一刀両断されてサイラスは目が覚めるのだけれど。

「……それ、サイラス様本人には?」

「言うわけないだろ」

 逆上されて密告されても困る、というシャノンの判断は確かだろう。

 まだ付き合いの浅いうちにはっきり告げても、サイラスの心に届くかはわからない。

 けれど、なにげないシャノンの歯に衣を着せない一言が誰かの心に刺さることをアリアは知っているから。

「いつか面と向かって言えたらいいわね」

 その時のサイラスの表情を間近で見てみたいと、そうくすくす笑うアリアへと、シャノンは目を丸くしていた。

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