ルークの事情。その2
黒い細身のパンツ。長めの白いシャツの上にはグレーの少しダボついた羽織モノ。中性的なその服装は、ただでさえ性別不明なユーリの魅力を最大限に引き出している。あまり服に興味のないというユーリのコーディネートは、主に母親の趣味からきているというが、そのチョイスにルークは悶絶する。
(犯罪級……っ!)
もう、ルークの目にはユーリのその姿は完全に女の子にしか見えない。
元々、ユーリの"美少女"な容姿はどストライクでルークの好みだった。すぐに男だと知った時のあの衝撃を、どう言葉にしたらいいかわからない。
せめて、性格が悪ければよかったのに、と本気で思う。どんなに見た目が好みでも、さすがに性格が悪ければお近づきになりたいとは思わない。
ただ。ユーリは。
ルークが望む方向性とはまた別に、めちゃくちゃ性格が良かった。こんな男前、惚れない方が嘘だと思う。
同じ男としても、ユーリは惚れ惚れとしてしまうほどカッコいい。
これで、どうやったら好きにならずに済むというのか。
「悪い。待たせた」
ニカッ、と、太陽の光を浴びて自分の元までやってきたユーリに、ルークは思わずどぎまぎしながら言葉を返す。
「いや、今来たとこだし」
デートの定番中の定番なその会話に、思わず胸が高鳴ってしまうのを感じる。
別段、ユーリと二人きりで会うのはこれが初めてというわけでもないのに。
「付き合って貰っちゃってごめんな」
向けられる純真な瞳にドキドキしてしまう。
「いやっ、全然っ!」
「今日はシオンも用事があるっていうから」
ユーリに"親友"認定されているルークの先輩の身体が空いていれば、こうしてルークに声がかかることもなかったのかと思うと複雑な気分になる。
別段、嫉妬、というほどのものでもないのだけれど。
「オレなんかでよければいつでも付き合うしっ!」
自宅の門前でわざわざユーリを待っていたルークは、ユーリを中へと促しながら己の気持ちを主張する。
なんならなんの用事がなくても会いに来てくれて構わない。
そしてそんなルークにユーリは「あはは」と高らかに笑い、ニコッと満面の笑みを浮かべていた。
「ルークはマジでいいヤツだなっ」
仮にも一学年上であるユーリは"先輩"のはずで、普段ならば砕けていても敬語を使うところだが、何度か交遊を深めているうちに気づけばその垣根を越えていた。
それも一重にユーリのこの天真爛漫な性格が成せる技だと思えば、本当に好ましい性格をしていると思う。
「あ。お菓子用意しといたけど」
ユーリの好きそうなヤツ。と、ふと思い立ったように振り返れば、キラリと獲物を捕らえた瞳が甘く輝いた。
「ルーク最高!」
キラキラ輝くその表情は本気で可愛い。
出会った頃に比べると確かに背も少し伸びて、やっぱり少しだけ"男の子"っぽくはなっているけれど。
それでも、ルークの目にはまだまだ充分"可愛い"部類だ。
本当に。これで、どうして女の子じゃないのだろう。
「んじゃ、今日はよろしく」
最近のユーリは、己の魔法操作力を磨くことに精を出している。
強くなりたいのだと、そうルークに告げたその顔は、思わずドキリとしてしまうほどとても男前だった。
「手加減なしな」
そうは言われても。やっぱり惚れた弱味でそれはなかなか難しい注文だと思いながらも、ルークは「わかった」と言葉を返していた。