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Break Time 1

"ゲーム"の中で、サイラスに会いに来たシャノンが"誰か"と待ち合わせをしているらしきユーリを見かける場面がある。

もちろん姿を見かけるだけで、会話はない。

……けれど。


(うそ……っ!?)

基本的にユーリが生活している寮は学園内にある為、ユーリが放課後に()へ出ることはあまりない。

だから、帰宅の馬車へ向かうアリアが校門付近でユーリの姿を見かけるようなことは、今まで片手で数えられるくらいの数しかないのだが。

そこで見つけた二人(・・)の姿に、アリアはなにかの見間違いかと大きく目を見開いていた。

(ユーリ……、と、シャノン……ッ!?)

シャノンの横には親友であるアラスターもいるのだが、もはやアリアの目にそこまでは入ってこない。

大好きな"ゲーム"の"1"と"2"の"主人公"のツーショットなど、歓喜に打ち震えるなという方が無理な話だろう。

(嘘嘘嘘嘘……っ!どうしよう……!?)

一体なにを話しているのだろう。

そもそも顔見知りでもない二人が、なぜ会話をすることに至ったのか。

ユーリはシャノンとアラスターの存在自体は知っているものの、シャノンはユーリのことをなにも知らない。

相変わらず素っ気ない態度のシャノンに、ユーリは満面の笑顔で話しかけている。しかも、一度寮に戻って着替えたのか、今のユーリは私服姿だった。

(……写真……っ!撮りたい……っ!)

もちろんこの世界にそんなものは存在しない。

近くで二人の会話を眺めていたい願望と、空気のようにそっと見守りながら二人を愛でたい気持ちがせめぎ合う。

思わず物陰に隠れて二人をみつめてしまっていたアリアだが、そんなアリアの不審な行動を見つけて近くに寄ってくる影があった。

「……お前は一体なにをしてるんだ」

「!」

完全にユーリとシャノンに気を取られていたアリアは、突然かけられた低い声にびくりと肩を震わせたものの、その声の主に気づくとほっと胸を撫で下ろす。

「シオン……」

驚かせないで。とアリアは仄かに微笑むが、それほどのことをしたとも思えないシオンは、訝しげに目を凝らすと先ほどまでのアリアの視線の先を追っていた。

「……ユーリ?と……、一緒にいるのはシャノンとアラスターか?」

まず目に入ったのは、笑顔で誰かと話すユーリの姿。そしてその相手の顔を認識すると、さすがのシオンも少しだけ驚いたように目を見張る。

だが。

「……こんなところでこそこそなにしてる」

気になるのは、顔見知りでもない三人が会話を交わしていることよりも、アリアの不審な行動だ。

「えと……、特になにも……。……なんとなく……?」

まさか、"主人公"二人のツーショットに歓喜に悶えていました。などと言えるはずもないアリアは、不自然な笑顔を浮かべて小首を傾ける。

完全に目が泳いでいるアリアがなにかを誤魔化していることはわかるものの、そこに危機的なものは感じられず、シオンは小さく肩を落とすとアリアへ「行くぞ」と声をかけていた。

「あ……っ、ちょっと待って……!」

「……なんだ一体」

歩き出しかけたシオンの腕を取って引き止めて、アリアはシオンがそのまま動かないようその腕へとしがみ付く。

完全に柔らかな胸に包まれるようになったシオンの腕だが、ユーリとシャノンの二人に夢中なアリアは、それに全く気づいていない。

「……アリア」

「なぁに?」

一体なにを考えているのか、二人の観察に余念がないアリアはシオンへ顔を向けることもなく返事を返してくるが、そんなアリアを呆れたように見下ろして、シオンは溜め息混じりに口を開いていた。

「……胸、当たってるぞ」

「――――っ!?」

途端、真っ赤になって慌てふためいた様子で絡み付いていた腕を解放したアリアへと、シオンはなんとも言えない微妙な表情を浮かばせる。

今更なにを、という気持ちもあるが、ここにいたのが自分以外の誰かでも同じことをしているのではないかという疑いもある。

ただ、なぜか今回に限っては咎める気にならないのは、あまりにもアリアの行動が理解不能なせいかもしれない。

「あ……っ、行っちゃった……!」

羞恥に思考回路を止めている間に別々の道へ歩き出した三人の姿に、アリアは哀しそうな目を向ける。

"主人公"二人のツーショット姿を少しだけ堪能したら、その後は混ぜて貰おうと思っていたのに。

もはや、シャノンとアラスターがなにをしに来たのか、と、シオンに勘ぐられるかもしれないなどという危機感は最大の"萌え"を前に完全に忘れ切っている。

とはいえ、もはや消えてしまったその後ろ姿に、結果的に守った(・・・)ことになるのかもしれないけれど。

「……だからお前はなにがしたいんだ……」

この少女の理解不能な行動など今更で、今回に関しては全く危機感のようなものは感じられないことだけはわかって、シオンは完全に呆れたような視線をアリアに送っていた。

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