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明日はきっと晴れ

「おい…っ、待てよ…!」

「なによっ、追いかけて来ないでよ…っ!」

なぜか追いかけてきたルークから、リリアンは全力で逃げていた。

否、ルークが自分を追ってきた理由なんてわかっている。

父親にリリアンを頼まれた。それだけだ。

公爵家の子息であるルークは、リリアンよりも身分は上のはずなのに、そんな素振りを見せたことは一度だってないから、ついついいつも我が儘放題に接してしまう。なぜ怒らないのか。それが不思議で堪らない。

いくらリリアンの父親に頼まれたからといって、立場上ルークがそれを守る必要なんてどこにもないというのに。

ルークは、優しい。悔しいかな、それだけは知っている。

「待て、って…!」

「なによ」

結局は追い付かれ、腕を取られてリリアンは諦めたように立ち止まる。

運動神経のいいルークと競争をして、自分が勝てる見込みなど始めからありはしない。

「…えっと……?」

泣いて、いるのかと思った。

けれど、自分を見上げてきたリリアンの表情は思ったよりも元気そうで、どこか不貞腐れた感じもするその顔に、ルークは一体どんな声をかけたらいいのか言葉に迷う。

リリアンが、幼い頃からずっと一人を想っていたことを知っている。知っているからこそ、安易な言葉はかけられない。

苦手な野菜を克服したのも、嫌いな習い事を頑張ったのも、全て好きな人と釣り合う自分になる為だ。その努力を、ルークは昔からずっと見てきたから。

だから。

「…カッコよかった」

さっきの。と。

正直に、ただ思ったことだけを口にする。

身分が上の王女様へと働いた無礼(・・)には苦笑いを洩らすしかないものの、それでも、真っ直ぐ誰かを想うその姿はとても好感が持てるものだと思う。

「お前には、お前のいいところがあるぜ?」

ニカッ、と笑ったルークは、太陽のような明るさを持っていた。

そんな腐れ縁の励ましに、リリアンはなんとも言えない苦虫を噛み潰したような表情(かお)をして、ジトリとその顔を見上げてみせる。

「…ユーリ様を好きなくせして」

「だ…っ?な…っ?今はそれは関係ないだろ……っ!?」

途端、面白いように真っ赤になったルークへと、リリアンは大きな溜め息を吐き出していた。

「…お互い同じ人がライバル(・・・・)だなんて笑えるわね」

リリアンが好きな人も。

ルークが気になっている人も。

二人とも、同じ人を想っている。

こんな皮肉、笑う以外なにができるのか。

「あんな小猿、どこがいいのよ」

「おま…っ、マジで容赦ねーなっ」

リリアンの想い人と、最近はセット扱いになりつつある元気な姿を思い浮かべ、リリアンは理解できないと肩を落とす。

「…いつからそっちの趣味になったわけ」

嘘が苦手ですぐに顔に出るルークだから、なにかと理由をつけて足を運んでいる先にいるユーリのことを好き(・・)なのであろうことはすぐにわかった。

けれど、ユーリは女の子じゃない。

だから、冷静な声色で突っ込めば、

「オレだって男なんて願い下げだ!」

焦ったように自分はそうゆう趣味ではないと否定され、ますます顔をしかめてしまう。

「…でも、顔は可愛いだろ?」

「…()

顔、と言われ、なんとも唖然としてしまう。

自分だってシオンには一目惚れで、その性格など知らずに恋を始めたのだから、人のことは言えないけれど。

「ユーリは性格だってカッコいいだろ…!?」

次いで、言い訳するかのように付け足され、リリアンは空を仰ぐ。

「…まぁ、どっちしても、私もルークも同じ穴のムジナよね」

二人とも、失恋は決定だ。

素直にそれを認められる日が来たのなら、一緒に自棄酒(やけざけ)をするくらいならばいいかもしれない。

「……アリア様に勝てるとこなんてない」

きゅっ、と悔しそうに唇を噛み締めて、リリアンはぽつりと足元へと小さな諦めを洩らす。

それにルークは「ん~?」とわざとらしく考え込む仕草をする。その言葉の使い方、ちょっと違わないか?という冷静な突っ込みは、今はとりあえず置いておく。

そうして。

「……胸?」

ちら、と。

自分を抱き締める仕草をしているリリアンの、その、幼さの残る顔に不釣り合いな、腕の上にある柔らかそうな胸元へと視線を投げていた。

ユーリのことは確かに好きだ。

けれど当然、男には興味はない。

ユーリの男の身体より、大きな胸の方が好きなのは、男としての本能だ。

「んな…っ!?」

至極真面目で嘘のないルークの発言に、リリアンは途端真っ赤になって、ルークの視線から逃れるように身を捻ると己の胸を庇うように手で覆う。

「さいってーー!!」

結局男はそれなのかと、羞恥に滲む瞳でルークを睨み付けると全てを振り切るようにつかつかと背中を向けて歩き出す。

そんなリリアンを再び追いかけながら、「それだけ元気があれば大丈夫だな」とケタケタと笑うルークがいた。

最初からリリアンのこの役どころは決まっていました。

やっとここまで来ることができて感無量です。


追伸。「同じ穴の(むじな)」は、悪い意味で似ていること、のようですが、この場合の使い方は合っているのかどうか、ルークではないですが、悩むところです(笑)。…悪いこと…、ではないですよね?

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