表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/399

"相棒"

空間転移でアリアを自室まで送ったギルバートは、なんとも居心地の悪そうな表情(かお)でアリアを見下ろした。

「…悪かった」

「?」

きょとん、とした顔がギルバートを見上げ、コトリと首が傾げられる。

そんなアリアの綺麗に治された両腕をみつめ、ギルバートはぐっと拳を作っていた。

「アルが、酷いことをした」

自宅に置いてきた"相棒"の攻撃的な態度を思い出し、ギルバートは胸へと(よぎ)ったざらりとしたものを振り切るように軽く頭を振る。

「それはギルバートのせいじゃないでしょう?」

そんなギルバートの姿にくすりと小さな笑みを溢し、アリアは穏やかな瞳を向けていた。

「それに、結果的に助けられてしまったし」

セオドアから記憶を奪うことを望んだのは他でもないアリアだ。

それを叶えて貰ってしまった以上、今回は「貸し借りなし」の関係だと思いたい。

「っつっても…」

「私とアルカナは不仲(・・)だもの。気にしてないわ」

痛々しい表情を浮かべるギルバートへと、アリアは緩やかな笑みを浮かべてみせる。

そう。気にはしていない。

元よりアリアはアルカナの残虐性を知っている。

知っていて、黙って"仲間"となる道を選んだのだから。

ただ。

これがきっかけとなって、少しだけでも構わないから、アルカナに疑いを持ってくれれば、と願う。

用済みになれば。足手まといになれば。ギルバートの"相棒"は、いつでも"仲間"を切って捨てられる残忍性を持っていることを。

「…それでも、謝らせてくれ」

自分の"相方"が犯したことは自分にも責任があるからと、ギルバートはアリアの両手を手に取った。

「…ギルバート…?」

「……傷が残らなくて良かった」

真っ赤な血は、ギルバートの心の傷(トラウマ)だ。

いつでも"誰か"を守ろうとする穢れを知らない綺麗な手。

傷一つない白い手を見つめて、ギルバートは苦しげな表情(かお)をする。

戸惑ったような少女の指先を、無意識にぎゅっと握り締める。

「…アンタに、傷ついて欲しくない」

それは、ここにはいない、幼い頃から共にいる"相棒"に、始めて僅かな負の感情が湧いた瞬間だった。





*****





『まぁ、しばらくは様子見だな』

少女を"仲間"として迎え入れることには今もまだ反対ではあるけれど、それでも前回に引き続き今回もそれなりには役立ったと皮肉る相棒に、ギルバートはいつになく厳しい目を向けていた。

"なにか"を知っているらしい少女へと、アルカナが初めから敵対心を持っていたことは知っている。

それでもあの少女を"仲間"へ引き入れることを決めたのはギルバートだ。

「…なんであんなことをした」

『あれが一番手っ取り早いだろう』

「アル…ッ!」

いっそ、なにを言っているか理解できない、というくらいの声色で、事も無げにさらりと口にされたその言葉に、ギルバートの責めるような声が上がる。

「…まさか、殺す気だったのか…?」

消す、と言った。

それは、アリアが望んだような「記憶」ではなく、「存在」のことを示すに違いない。

この相棒には、人の記憶を消去できる能力がある。ならば正体を知られたからといって、わざわざその相手を「消す」必要などどこにもないはずだ。

背筋に冷たいものが流れるのを感じながら、ギルバートはひたりと視線を合わせてくる相棒へと祈るような瞳を向ける。

もし、殺す、つもりだったなら。

それは、幼いあの日の。

血に濡れた古い記憶の…。

『目的の為には手段は選ばない。それはお前も同じだと思っていたが』

「っ」

軽蔑にも似た冷たい瞳が返されて、ギルバートは僅かに息を呑む。

今まで、アルカナと共に"闇の者"を散々狩ってきた。

両親の(あだ)を討つ為。(かたき)を見つける為。

けれど、「人殺し」だけは考えたことはない。

それは、幼き日の、小さなギルバートから両親を奪った憎き相手と同じ場所まで堕ちることになる。

「…魔族と人とじゃ話が違う…」

『どう違う?』

消す(・・)ことには違いないだろうと単純すぎるほどの問いかけを向けられて、返す言葉がみつからない。

アルカナは"魔物"。

価値観が、違う。

そんなこと、わかっていたはずだ。

わかった上で共にいた。

それなのに。


ーー『信用できるの?』


初めて会った時に、少女から向けられた疑問符。

赤い血が滴り落ちた、少女の細くて白い腕が頭に浮かぶ。

幼き日の、血に濡れた記憶が重なった。


「…もう二度と、人間(ひと)を傷つけるな」


契約主(あるじ)命令だ、と呟いて。


ーーほんの小さな、疑念の目が向いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ