小話 ~警告~
我が物顔で自分の家に居座っていた友人に、シオンは思わず顔をしかめていた。
こんな風にユーリが自分を睨み付けている時の話など一つに決まっている。
「大抵お前が悪いんだ」
「…なにを言っている」
開口一番放った言葉に眉根を潜められ、ユーリは上目遣いでシオンの顔を睨み付ける眼光に力を込めた。
「わかるだろ」
ここ数日、アリアは明らかにシオンを避けていた。
婚約者同士だからといって、一緒にいる姿を見かけないことなど不思議なことでもなんでもないから、他の生徒たちは気づいていないに違いない。けれど、ユーリにはわかってしまう。
シオンから醸し出される僅かな負の空気と、なにかに怯えるようなアリアの瞳。
今度は一体なにをしているのか、と。
「喧嘩するほど仲がいい、とか、お前らの場合はそういうことじゃないんだ」
アリアとシオンだって喧嘩くらいするだろう。それはそれは、きっと馬に蹴られるくらいとても下らない内容で。だから、本当の意味での喧嘩にはならないという確信がユーリにはある。
けれど、今はそうじゃない。
二人の間にあるものは、喧嘩、という文字ではなくて。
「だから、お前が悪いに決まってる」
びしっ!と追い詰めた犯人を指差すように立てた指を向け、ユーリはハッキリと判決を宣言した。
「その上身体で陥落しようとか終わってる」
ユーリがシオンを見る目はもはやジト目だ。
二人の遣り取りなど一切見ていないにも関わらず、まるでその場にいたかのような言い種で断言して、ユーリは先を続ける。
「オレだって男だ。お前の気持ちはわからなくもない」
守りたいと強く思うからこそ苛立ちは大きくなる。
けれどあの少女は、そう簡単に守られる立場に甘んじてはくれないだろう。
だから。
「本気で手に入れたいのなら、お前のやり方は間違ってる」
好きにさせること。甘やかすことだけが全てじゃない。
だから、本気で怒ったっていい。
その本気は。想いはきちんと伝わるはずだ。
けれど。
「だから、全部お前のせいだ!」
まるで八つ当たりのように叫んで、ユーリは肩を上下させる。
冷静沈着。無表情。そんなシオンの鉄壁な感情は、たった一人の少女にだけは簡単に崩れてしまう。
激情のままに迫って、腕の中に閉じ込めようとする。
真綿のように繰るんで守り続けることが、却って少女を壊しかねないことに気づいていない。
「誰かに横からかっ浚われても知らないからなっ?」
その言葉に、ぴくりと反応を見せたシオンに、ユーリは満足気に微笑んでやっていた。