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act.2-2 Jewel of the wind ~風の宝玉~

ギルバート(ZERO)が宝玉を片手に"現実"へと戻った時、辺りへと鳴り響いた鐘の音に何事かと興味を惹かれた野次馬たちが、ウェントゥス家の外壁へと集まっていた。

アリアの知識(・・)通り、アリアたちが姿を消して戻ってくるまでにそう時間が過ぎた様子は見られない。

深い眠りに陥っている使用人たちが起きてくる気配はなく、外に出ている当主やシオンたちがすぐさま駆け付けてくる様子も窺えない。

ただ、広大な土地ゆえに、遠く外壁のあちらこちらに市民たちが何事かと中を覗き込むような動きがあっただけだった。

「アル。先にコイツと戻ってろ」

ギルバート(ZERO)?」

宝玉を差し出され、反射的にそれを両手で受け取りながら、アリアはぱちぱちと目を瞬かせてギルバート(ZERO)を見上げる。

『お前はどうするんだ?』

「少しだけ目を引き付けてからすぐに戻る」

顔を上げた猫目に壁の縁へと足をかけながら、今にも上空へと飛び出していきそうなギルバート(ZERO)へと、アリアは驚愕に目を見張っていた。

ギルバート(ZERO)!?」

「"お嬢"は先に戻って着替えとけ」

帰ったらすぐに送ってやる。と言い置いて、ギルバート(ZERO)は空へと身を踊らせる。

『わかった』

「ちょ…っ」

恐らく、外壁の向こうからは、屋敷でいちばん高い場所にいるアリアたちの姿は、壁面が邪魔をして見えていない。

にも関わらず、なぜわざわざ危険を犯してまでその身を晒そうとするのか。

確かに"ゲーム"では、ウェントゥス家から飛び立つギルバート(ZERO)の姿を、偶々(たまたま)王都に遊びに来ていたシャノンとアラスターが目撃するという場面(シーン)があったのだけれど。

元々、"ゲーム"の中でそんなことをしたのは、ギルバート(ZERO)が空間転移を使えると悟られないための誘導作戦のようなものだった。

外からの浸入だと思わせておいて、"奥の手"として隠している移動手段。

けれどもう、ギルバート(ZERO)はシオンやルーカスの前で空間転移を披露してしまっている。

ギルバート(ZERO)の挑発的なこの行動も、"ゲーム"の強制力とでもいうのだろうか。

『いいからいくぞ』

突如空を舞った人影に、わぁ…っ、と驚きの声が上がり、野次馬の目が釘付けになっている。

それに構うことなくアルカナはくるりとアリアの方へと振り向くと、二人の間へ闇色の転移空間を生み出していた。

(…この中に入ればいいの…?)

ルーカスやリオの瞬間移動は経験があるけれど、闇魔法の空間転移は少し質が異なるように思う。

まるで空間そのものを切り裂いた隙間に入り込むような闇の亀裂に、アリアは恐る恐るその中へと足を踏み入れる。

ギルバート(ZERO)に肩を抱かれて二度ほど経験させられているけれど、その転移魔法を作り出した相手がアルカナとなるとそこには緊張感が伴ってしまう。

絶対的な信用は置けない。

それでも、思わず反射的に目を閉じてその身を全て闇の空間へと滑らせた直後、目を開けた時にはギルバート(ZERO)の自宅応接間が広がってた。



(…ギルバート(ZERO)は大丈夫かしら…?)

どうしてあんな余計なことを、と心中憤りを覚えながらもその身を心配して不安気に瞳を揺らめかせるアリアへと、足元から、じ…っ、と、意味深な視線が向けられる。

「…アルカナ…?」

考えてみれば、今はアルカナと二人きり。

常にギルバート(ZERO)と行動を共にしているアルカナと二人きりになる機会など今まで一度もなく、これから先もあるかどうかはわからない。

自分をみつめてくる鋭い眼光に、アリアは思わず身構える。

ーーアルカナは、間違いなくアリアの"敵"だ。

『…ちょうどいい。お前に聞きたいことがあった』

「…なにかしら?」

緊張に、背中へと汗が滲む。

その気になれば、アルカナは顔色一つ変えることなくアリアを殺すことが可能だろう。

『…お前は、なにを(・・・)どこまで(・・・・)知っている?』

逆立った毛は、アリアに対する威嚇だろうか。

今のこの時点では、アルカナは自分が幼いギルバートへと犯した仕打ちを記憶していない。

アリアに対する警戒心は、恐らく本能から来るものだ。

「…もし、全部(・・)知っていたら(・・・・・・)…?私を殺すの?」

途端、周辺へとゾワッと殺気が滲んだ。

それでもまだ、きっとそれはアルカナの本性の一部が覗いただけ。

「…貴方はギルバート(ZERO)の"相棒(・・)"なんでしょう?」

今は、まだ。

己の記憶すら操作しているアルカナは、今はただ純粋にギルバートの味方をしている。

それでもアルカナが、用済みと判断したものを簡単に切って捨てることができる残忍な魔の存在であることには間違いない。

今すぐにでも掴みかかって罵倒してやりたい気持ちを抑えて、アリアは唇を噛み締める。

「だったら、彼を裏切るようなことはしないで」

それが無駄な願いだということはわかっていても、そう願わずにはいられない。

ギルバートは、真実を知ることを望んでいる。

もしかしたら、知らないままでいる方が幸せなのかもしれない。

真実は、時に鋭い(やいば)となって相手の胸へと突き刺さる。

殺したいほど憎んでいる相手と、もう十年以上の時を一緒に刻んでいる。

それでも、"真実"を望むのか。

起きてしまった過去は変えられない。

時間(とき)を戻すことだけはできない。

だから。

「彼を、再び絶望の淵に追いやるようなことは許さないわ」

『…お前は…っ』

ギルバートの両親を殺した記憶を持たないアルカナが、その時どんな言葉を続けようとしたのか。

「…なんだ。まだ着替えてなかったのかよ」

アリアとアルカナのちょうど中間辺りに現れた闇の隙間から、少しだけ驚いたように目を丸くしたギルバート(ZERO)が帰宅した。

ギルバート(ZERO)…」

「…?なんだ、二人して」

だから、仲良くしろって。と、二人の間に流れる微妙な空気を察し、ギルバート(ZERO)は仕方ないなと苦笑する。

「……」

「お嬢さん?」

アルカナとギルバート(ZERO)を交互に見遣り、何処か切なげに瞳を揺らしたアリアへと、ギルバート(ZERO)はおどけた口調ながらも訝しげに顔色を曇らせる。

「…なんでもないわ」

記憶がなくとも、アルカナが残忍な魔物であることは間違いない事実。

とはいえ、アリアに利用価値があるうちは、処分を考えたりはしないだろう。

ーーギルバートと、同じように。

幼い頃からの自分の相棒(・・)が、用済みになれば二人とも消してしまおうと考えているかもしれないことなど、ギルバートは思ってもいないだろう。

「もしかして、オレを待ってたわけ?」

そんなに脱がせて欲しいのか?と、ニヤリと笑うギルバート(ZERO)の言葉に、アリアははっと我に返る。

「っ!そんなわけないでしょ…っ!」

これだから"18禁ゲーム"の世界はセクハラが過ぎて油断ならないと、アリアはふざけて伸ばされたギルバートの手を叩き落としていた。





七歳の誕生日を、血塗られた両親の死体と共に迎えた絶望。

ただ真実を告げるだけではギルバートは救われない。

そこに、この物語の"主人公"が。心の救済(シャノン)の存在がなければ。

(…私は、ただ真実を知っている(・・・・・)だけ…)

知っているだけ(・・)ではなにも救えない。

だから、ギルバートに話せない。

どんなに、目の前の化け物(アルカナ)が憎くても。

この場に、いることしかできない。

(きっと、シャノンが救ってくれるはずだから…!)

宝玉入手はまだ一つ目。

ギルバートが救われる未来を願って、アリアはきゅっと唇を引き結んでいた。

シオンがアリアのGPS(笑)をチェックしたら全て終わります。

不審がられないように気をつけて頂かないとドキドキです。

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