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真心を貴女に ~シリル・バーン~

バーン家の今後についての話を詰める為、シリルは両親と共にウェントゥス家へと足を運んでいた。まだ成人にも達していないシリルには家の方針について口を出す権利などないのだが、実際にあの件(・・・)に関わった当事者として、何度かウェントゥス家との会合に立ち合わせて貰っていた。

それに、今日は…。

「もしかしたら貴女にお会いできるかもしれないと思いまして」

ウェントゥス家の未来の(・・・)公爵夫人。まだこの家の人間というわけではないのだから、ここへ来たからといって会える可能性はかなり低い。

けれど婚約者(・・・)ということで、もしかしたら、という仄かな期待を抱いていたシリルは、今日のこの日にバーン家と今後の話し合いをするという旨をシオンから聞いてやってきていたアリアへと、柔らかな微笑みを向けていた。

「私に?」

アリアもまたバーン兄妹を心配して、少しだけでも顔が見られたら、と思ってやってきたのだが、一つ年下の純真な笑顔の輝きに、不思議そうに瞳を瞬かせる。

「きちんとしたお礼ができていなかったので」

「…私はなにもしていないわよ?」

バーン家の復興について、実際の舵取りをしているのはウェントゥス家現当主、つまりはシオンの父親だ。そしてそこにシオンも大きく関わっている為、話し合いが進められている今、シオンはこの場にいない。

ウェントゥス家の事業について、子息のただの婚約者でしかないアリアに口出しをする権利はないから、アリアは持て余した時間を庭園の散策をすることで趣味の時間へと変えていた。

「いいえ。貴女がいなければ、今こんな風に穏やかでいることなどできなかったでしょうから」

横に首を振ると、シリルの綺麗な金髪がさらさらと揺れた。

本当に自分の功績(・・)になどなにも気づいていない様子の少女に、自然くすりという笑みが溢れ落ちる。

自分の妹、ジゼルとこの少女の"人間違い"。それは本来、「似ていたので間違えられてしまいました」で済む話ではない。そこにバーン家の過失がなにもなかったとしても、公爵家の令嬢を巻き込むなどそれだけで大問題だ。

それにも関わらず彼女は。

静かに全てを微笑(わら)って許し、ジゼルがひっそりと育てていた身分違いの許されざる恋心に、その手を離すなと言った。

家の復興に関しても、彼女が婚約者に話をつけてくれなければ到底無理だっただろう。

少女の婚約者に対する絶大な信頼と。噂に違わずその溺愛ぶりで少女の願いを叶えてみせたその婚約者と。

その双方には感謝の気持ちしかないけれど、ここまでの全ての道のりを作ったのは他でもない目の前の少女だった。

「貴女への感謝の気持ちを、どう言葉に現したらいいのかわかりません」

「…そんな…」

むしろ自分が油断したせいで却って二人には迷惑をかけてしまったと思っているアリアは、自分へと向けられる真摯な瞳に戸惑いすら覚えてしまう。

もう少し自分が上手く動くことができていたら、別の解決策もあったかもしれないと思うくらいだ。

「私はジゼルがカーティスと幸せになって、貴方が笑っていてくれればそれでいいわ」

復讐に駆られ、その目を憎悪に燃やしていたシリルの姿を知っている(・・・・・)

自分を襲った悪夢から逃れる為に、自ら命を絶ったジゼルの叫びを知っている(・・・・・)

その悲劇を生むことなく、今、三人が幸せに笑っていてくれるだけで、アリアの心はこれ以上なく満たされている。

「アリア様…」

心から綺麗に微笑(わら)う少女から、目が離せなくなってしまう。

ふとした瞬間、シリルの脳裏を掠めるのは、あの時(・・・)の熱に浮かされた少女の姿。

見てはいけないものを見てしまったと思うのに、一度目にしたその映像は、色褪せることなく鮮明にシリルの頭へと刷り込まれている。

泣きそうに潤んだその瞳と。高く響いた甘い悲鳴。

大人と少女との狭間に在る、危うい色香を滲み出して身を震わせていた少女の姿は、忘れなくてはならないと思えば思うほどシリルの心を甘く苛んだ。

これほどまでに、誰かのことを「美しい」と思ったことは初めてだった。

「このご恩を…、貴女に対する感謝を忘れることは、この先一生ないでしょう」

「シリル様」

驚いたように目を見張るアリアへ、シリルは最上級の礼を取って自分の気持ちを形にする。

「これから先、もし貴女が窮地に立たされるようなことがあれば、この命に代えてもお守りすることを誓います」

もし万が一にもそんなことがあったなら。目の前の少女は恐らく一番に自分の身を犠牲にするのだろうなと思えば、その時には少しでもこの時の自分の言葉を思い出して欲しいと願う。

少女を守るその役目は、頼れるあの婚約者であることもわかっている。

それでも、万が一その婚約者も頼れないような事態が起こったその時には。その代わりを務められるくらいには強くなりたいと願う。

「全てを貴女に捧げます」

恒久の誓いを。

シリルは強くなることを少女に誓った。

10/31の0時頃に、ハロウィンSSを活動報告に更新予定です。

予約設定できない為、手動更新となりますので時間は確定ではありませんが…。

とても短いですが、興味のある方は覗いて下さればと思います。

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