プロローグ
私は38歳、3人の子持ちの母――
……だったことを思い出した。
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私の名前はアリア・フルール。12歳。
五大公爵の一つ、アクア家の長女で、まさに白百合とかすみ草が似合う美男美女甘々夫婦に愛情を注がれて優しく育てられた。
兄弟は、兄二人と年の離れた弟が一人。
そして、今日はそんな両親に連れられて、婚約者となるウェントゥス公爵家の御子息に会うためにお相手のお屋敷まで来ていたところだった。
……のだが。
約束より早めの到着で、相手方のご好意により一人庭園を散策させて頂いていたところ……
――会ってしまったのだ。
シオン・ガルシア。
眉目秀麗、才色兼備。黒髪・ダークブラウンの、切れ長の醒めた瞳。五大公爵の中でも今一番勢いのあるとされるウェントゥス家の二番目の息子だが、長男を差し置いて家を継ぐのは彼だろうと言われている、女性でなくとも誰もが思わず溜め息をついてしまうであろう美貌の持ち主。
そして……
――「日本人」として生きていた「私」がハマっていた、とあるゲームの王道ヒーローであるその人に。
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一度にいろいろな情報を思い出し、処理速度の追い付かなくなった頭はショートを起こして私は倒れた。
倒れる直前、私のことなど全く興味を示さない冷めた瞳が酷く印象的で……
それはそうだ。
その時点ですでに彼には忘れられない人がいた。
――このゲームの主人公。
少女と見まごうごときの美少年が――。