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悲しい嘘  作者: 海星
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王都に帰って

よろしくお願いします。

 結局、帰りの馬車の中でもコンラートは仕事のことばかり考えていたようだ。揺れる馬車の中でも資料に目を通そうとするので、酔いそうで止めた。それでも話しかけても生返事。それに、どこかよそよそしい。そうしてまた王都へ帰って来た。


 ◇


 深夜になって王都の子爵邸に着くと、時間が時間なのにオスカーやサラ、メイドたちが出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ」

「ああ、ただいま。遅くなってすまない。それで、変わりはなかったか?」


 コンラートはオスカーと話しながら先に行ってしまった。残された私はメイドたちに荷物を渡して、サラと一緒に自室へ向かった。


 廊下を歩きながらサラに話しかける。


「ごめんなさい、サラ。連れて行けなくて。留守中に変わったことはなかった?」

「……はい」


 サラは眉間に皺を寄せて何か考えていたようだったけど、それだけしか言わなかった。恐らく人のいるところでは言いにくいことなのだろう。だから、部屋に入ってから改めて聞くことにした。


「それで、サラ。何があったの?」


 自室に入って扉が閉まったのを確認してからサラに問いただした。だけど、それでもサラの口は堅い。


「……ちょっとここではお答えしにくいのですが……」

「じゃあどこなら話せるの?」

「どこならというか、コンラート様に聞かれると問題が……」


 サラはクローゼットの奥の扉を気にしている。確かに行き来が自由だから、話し中に入ってくることもあるかもしれない。


「わかったわ。それなら、明日コンラートが商会に行くみたいだから、その間に話しましょう。それでいい?」

「はい、大丈夫です」


 サラは神妙な顔で頷いた。それから夜着に着替えるのだけ手伝ってもらってから、サラを解放した。


「それじゃあ、あなたももう休んで。遅くまでお疲れ様。ありがとう」

「いえ、それでは。失礼します」


 サラは頭を下げて、部屋を出て行った。疲れた私はベッドに腰掛ける。


「ふう……」


 一人きりの部屋に私の溜息だけが響く。強行スケジュールで疲れているはずなのに、神経が高ぶっているのか、眠気を感じない。


 昨日からコンラートの様子がおかしい。あまり口を利いてくれないし、目を逸らされるのだ。私が何かしたのかと思って聞いてみても、気のせいだと言われては、何も言えなくなる。


 旅行を通じて距離が縮まった気がしたのに、また遠ざかってしまった。


 お互いの部屋の間にある壁のように、私たちの間にも見えない壁がある気がして、私は壁の向こうにいるコンラートを思って嘆息した。


 ◇


「おはよう。コンラートはもう出かけたの?」

「はい。ユーリ様は旅行帰りで疲れているだろうからと、起こさずにお出かけになりました」

「そう……」


 朝食を食べに行こうとして、廊下で出会ったオスカーに尋ねると、そんな答えが返ってきた。避けられていると思うのは勘繰り過ぎなのだろうか。


「ねえ、オスカー。コンラートに変わった様子はない?」

「はい。いつも通りだと思いますが。どうかなさいましたか?」

「いえ、きっと私の気のせいね。少し気になっただけだから、気にしないで」

「それならいいのですが」


 オスカーは怪訝な顔をしながらも、頷いた。

 その後オスカーと別れた私は、一人寂しく朝食を食べて、サラの話を聞くことにした。


 ◇


 サラがあまりにも周囲を気にするものだから、私は自室の人払いをして、戸締りも確認した。振り返って少し離れた位置にいるサラに話しかけた。


「もう、これで大丈夫。それで、何があったのか聞いてもいいかしら?」


 それでもサラは浮かない表情で、中々口を開きそうになかった。


「そんなに話しにくいことなの?」

「……どう、話せばいいのか、わからない、んです……」


 話しながらサラの目から涙が溢れて、驚いた私はサラに駆け寄った。


「サラ? 本当にどうしたの?」

「……申し訳、ございません。実は……」


 サラが泣きながら話してくれたことは、私には到底許せないことだった。


 私とコンラートの留守中に、サラは侍女の仕事が休みだからと、働き者な彼女らしく別の仕事を手伝っていたそうだ。それで、離れの前の掃き掃除をしていたら、義父が見て私に着いて行っていないことを疑問に思ったらしく、サラに話しかけた。サラが聞かれたことに答えていったら、義父がおかしな方向に勘違いしたようだ。


 サラを雇用する際に、平民であるサラの身分の保証を伯爵家の次期当主である私の兄がしたことで、義父はサラを兄の身分違いの愛人と勘違いしたらしい。それで私の結婚とともにサラを厄介払いしたのだと。だから、伯爵邸には連れて行けないのだろうと解釈し、私とコンラートの留守中に、サラに迫ったらしい。


 もしかしたら、サラから伯爵家の内情を聞き出したかったのかもしれない。義父のことはほとんど知らないのに、何か弱味を握れば優位に立てるからだろうと思ってしまった。そんな下衆な考えをする自分に嫌気がさした。


「事実無根ですと申し上げたのですが、信じてはくださらなくて……私はエリオット様とはそんな関係ではありませんでした。ユーリ様は信じてくれますか?」

「当たり前でしょう! あなたとお兄様をよく知っているもの。二人がそんな関係だなんて思わないわ。それよりも、ごめんなさい。あなたも連れて行くべきだった」

「いえ、いいんです。ただ、断ったらどうなるのかわからなくて悩みました。ですが、子爵夫人が助けてくださったんです」

「え? お義母様が?」


 人に興味がなさそうな義母が何故。私には信じられなかったけど、サラは頷く。


「はい。彼女の身元は伯爵家が保証しているのに、その彼女に無理矢理関係を迫ったと伯爵家が知ったらどうなさるでしょうか、とご当主に仰ってくださって。私にはまた迫られるようなことがあればわたくしに言いなさい、と仰ってくださいました」

「……よかった。それならあなたは無体なことはされてないのね?」

「はい。子爵夫人に助けていただいたので」


 ほっとした私はサラに抱きついた。


「本当によかった……私のせいでごめんなさいね」

「それは違います。ユーリ様とコンラート様は私にお休みをくださっただけです」

「それなら私はお義母様にお礼を言わないと。あなたを助けてくれたのだから。今日はいらっしゃるのかしら?」

「どうでしょう? ちょっと本邸の方に聞いてみます」


 そう言って出て行くサラの表情は明るくなっていた。義母に感謝しつつ、私は連絡を待っていた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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