番外編2 誰にも言えない私の本心6(ニーナ視点)
よろしくお願いします。
そしてコンラートとユーリ様も婚約した。コンラートは私の後ろ盾を作るためにもユーリ様との結婚を急ぎたいと言っていたけど、きっと本心は違うと思う。
コンラートも孤独で、その孤独を埋めてくれる人を求めていたのだろう。それがユーリ様なのだと。
私はその事実を受け入れることができるようになった。辛くないと言えば嘘になる。だけど、それ以上に、コンラートには幸せになって欲しい。
だから私はコンラートとユーリ様のために、二人の行き違いをなんとかしたいと思っていたのだけど──。
◇
「クリス様、どうしたらいいと思う……?」
行儀が悪いと思うけれど、私は頬杖をつきながら向かいに座るクリス様に尋ねる。
クリス様は両親の信頼も厚く、今はメイドもいない。応接室に二人きりだ。だからこそ、こうしてついつい淑女らしくない振る舞いをしてしまうのだけど、クリス様は苦笑するだけで注意をしない。このまま自分が駄目になっていきそうで怖かったりする。
「何のこと?」
案の定クリス様は頓着することなく答える。私は勢いよく顔を上げると、クリス様に訴えた。
「コンラートとユーリ様のことよ。私、ユーリ様に言ったのよ? 噂は噂であって、コンラートとは友人だって。だけど、ユーリ様に、コンラートはニーナ様と結婚した方がいいのかもしれないなんて言われたの。コンラートにもユーリ様には話した方がいいって言ったのに、まだ話せないって言うし……
私はどうすればいいと思う?」
「どうすればって……何もしないのが一番だと思うよ」
クリス様は清々しいほどすっぱりと答える。思わず私が恨みがましい目でクリス様を見ると、クリス様は苦笑しながら理由を説明してくれた。
「二人の間に入って、君がお互いの気持ちを代弁でもするつもりかい? それはやめた方がいい。人伝えの言葉なんて心に響かないだろう? 君が捏造したように思われて余計に相手を信じられなくなるかもしれない。これで駄目になるのなら、所詮その程度の関係でしかなかったということだと思うよ」
クリス様の優しそうな顔から出てくる辛辣な言葉に、私は言葉を失った。
──この人は本当にクリス様なの?
クリス様は続ける。
「……僕はね、君が好きだよ。だから、君が振り向いてくれるまで待つと言った。だけど、嫉妬しないわけじゃないんだ。君の口からコンラート様の話を聞くのも、君がそうやってコンラート様のことばかり考えるのも面白くない。そんな僕を心が狭い男だと軽蔑されても仕方ないとは思うけど、君には知っていて欲しいんだ。それも僕だから」
「クリス様……ごめんなさい。私、無神経だった……」
私はクリス様の気持ちに甘えて、クリス様のことを考えていなかった。私が頭を下げると、クリス様は慌てる。
「ニーナ、君が謝ることじゃないだろう? 心が狭い僕が悪いんだから」
「いえ、やっぱり私が悪いわ。クリス様はちゃんと私に気持ちを伝えてくれていたもの。私にも嫉妬する気持ちがわかるのに、クリス様は違うって勝手に思っていたのかもしれない。本当にごめんなさい」
「いいんだって。僕が最初にそれでいいって言ったんだよ。ただ、君にいいところばかり見せても、それはそれで信じてもらえない気がしたんだ。完璧な人なんていないからね」
クリス様の言葉に私は頷く。
私はずっとコンラートが年頃の女性たちに人気がある、完璧な人だと思っていた。将来有望で、格好良くて。そんな彼の表面に恋をしていたことと、私が妻子持ちの男性とお母様との間に生まれた望まれない子どもという事実で、自分が悲劇の主人公にでもなったような、その状況に酔っていたところもあった。
だけど今、コンラートは等身大の彼でユーリ様にわかってもらおうと頑張っている。その姿はみっともないところがあるかもしれないけれど、そちらの方が私は好感が持てる。
クリス様もそうだ。こうして優しいだけの彼ではないところを知って、親近感が湧いて私は嬉しい。
「……私はクリス様のそういうところが好きです」
ぽろっと言葉が零れ落ちて、私は慌てた。だけどそれ以上にクリス様が驚いて、前のめりで私に詰め寄る。その勢いに私は反対に仰け反ってしまった。
「それはどういう意味だい?」
「え、いえ、クリス様の率直なところは素敵だな、なんて……」
言っていて恥ずかしくなった私の顔に徐々に熱が集まる。反対にクリス様の顔は嬉しそうなものに変わった。
「その言葉だけですごく嬉しい。だけど、気は遣わなくてもいいよ。僕はコンラート様と違ってパッとしないからね」
最後にクリス様は苦笑した。だけど、私はそうは思わないから否定する。
「気を遣っているわけじゃなくて、本当にそう思ったの。私は思ったことを口にしてしまうから。それに、コンラートと比べる必要なんてないと思うわ。コンラートとクリス様は違う人だもの。それぞれにいいところがあるのだから、それでいいと思うわ」
クリス様は満面の笑みを浮かべて、頭を掻く。
「……まいったな。他の誰に言われるよりも、君にそう言ってもらえるのが嬉しいよ。本当にありがとう」
「お礼なんて……私は反対にクリス様に申し訳ないと思っているの。あなたの好意を利用しているのだから」
「それは気にしなくていいって言っただろう? 僕はそんな君に付け込んでいるんだから。あわよくばってね」
茶化すようなクリス様の言葉に、私は首を振る。
「私はそれで救われたからいいの。それに、これで初恋を終わらせることができそうだもの」
「それはどういう?」
怪訝なクリス様に、私は小さく笑う。
コンラートに気持ちを残したままではあなたの気持ちに応える資格なんてない。だから、もう少しだけ待っていて。答えはもう出ているようなものだから──。
あと一話で完結の予定です。
読んでいただきありがとうございました。