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悲しい嘘  作者: 海星
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番外編2 誰にも言えない私の本心2(ニーナ視点)

よろしくお願いします。

 そしてコンラートとの初対面を果たしたけど、それは私が思っていたものとは違っていた。敵を見るような冷たい視線。私を嫌っているのは一目瞭然だった。


 少しばかり話すと、彼はさっさと両親と行ってしまい、話が終わると私に会うこともなく帰ったのだ。悔しい。結ばれることはなくても、せめて妹としてなら仲良くなれるかもしれないという私の期待は打ち砕かれた。


 それから両親と話はまとまったようで、コンラートはクライスラー邸を訪ねてくるようになった。最初の敵愾心剥き出しの視線は無くなったものの、相変わらずよそよそしくて、思わず私はコンラートを呼び止めた。


 二人で話しているうちに、私は我慢していた気持ちを彼にぶつけてしまった。


 ──私は誰かの荷物になりたいわけじゃない。どうして誰も彼も私を守ると言って、私の気持ちを聞いてくれないの?


 生まれた時点で決められた運命なんて私には関係ない、そう思いたかった。だけどそう思ってしまうことは、お母様の人生を否定してしまうこと。


 私はやっぱりお母様が大切で大好きだった。それに、私を守って育ててきてくれたお父様も。だから、二人が私のためにしてくれていることが、私には辛かった。


 その上、コンラートは私の存在を否定しようとする。父親が浮気してできた子どもを憎む気持ちはわからなくもない。だけど、私だって環境を選んで生まれてきたわけじゃない。


 そうして話すうちに私は気づいた。コンラートとシュトラウス卿の間にも埋められない溝があるのだと。コンラートもわかってくれたのか、私を無視しないと約束してくれた。それからは少しずつ話すようになり、距離が近づいていった。


 ◇


 そうして迎えた社交界デビューの夜会。


 私は予めコンラートと打ち合わせをしていたから、ファーストダンスの誘いに来ることは知っていた。それでも驚いた振りをして彼の手を取る。


 一斉に向けられる羨望と嫉妬の視線。メリッサ様は憤怒で顔を歪め、今にも掴みかかってきそうなところを、周囲の令嬢が取り囲んで止めていた。ここでメリッサ様が乗り込んだら場の空気が悪くなる。なんといっても王族の方々もいらっしゃるのだから。


 だけど、誰も真実を知らないからこそ向けられる感情は恐ろしくもあり、私に仄かな優越感を与えてくれる。絶対に結ばれないとわかっていても、恋心を完全には捨てきれない。我ながら未練がましいと自嘲を込めて笑ってしまった。


 令嬢たちに感謝しつつも周囲を見回すと、ユーリ様を見つけた。ユーリ様は伯爵令嬢でありながら、男爵家の娘である私を見下したりせず、さりげなく助けてくださる優しい方だ。


 いつものようにユーリ様に声をかけようとしたけど、できなかった。ユーリ様は悲しそうに顔を歪めていたのだ。だけど、私の視線に気づくと、何もなかったかのような無表情になってしまった。


 私たちを見るユーリ様の顔で、ユーリ様の気持ちに気づいてしまった。女の勘というものだ。同じ人を思うからこそ、その痛みがわかる。


 ──ユーリ様もコンラートが好きなのね。


 私がユーリ様を見ていることにも気づかず、コンラートは私をホールの中央に誘う。きっと彼も自分のことで一所懸命なのだろう。笑顔は笑顔なのだけど、張り付いた笑顔が緊張していることを物語っていた。


 そしてダンスが始まった。コンラートのリードはうまくて、私がステップを間違えそうになってもフォローしてくれた。その際、コンラートがさりげなく私を引き寄せて耳元で囁く。


「……君から見て周囲の反応は上々だと思うかい?」


 話している内容が聞こえていないだろうから、周囲から小さく悲鳴が上がる。コンラートにとってはこれもある意味では仕事。事務的な言葉に胸が痛んだけど、私もコンラートの耳元で囁く。


「……ええ。女性たちは信じているようです。それが狙いなのでしょう? 女性の方が噂を広めてくださるから」

「そうだね。ただ、君には不名誉な噂だから申し訳ないとは思うよ」

「いえ、そんなことはありません……」


 あなたと噂になることができて嬉しい。そんな言葉が口をついて出そうだった。だけど、コンラートは私が建前を言っているのだと思っているのか、申し訳なさそうに言う。


「……この後のことも考えている。ちゃんと責任を取るから信じて欲しい」


 これだけを聞いたら、コンラートが私に真剣な付き合いを考えていると伝えているように思える。そこまで演技をしなくてもいいのにと、悲しくなった。


 コンラートの中では完全に線引きされているのだろう。私は異母妹だと。


 血が繋がっていることを否定できなくても、せめてコンラートが事実を知らなければ、同じ台詞を違った形で聞けたのかもしれない。そんなどうしようもないことを考える。


「……ありがとうございます」


 信じてはいるけど、信じたくない。あなたが責任を取る時が、私とあなたが決別する時なのでしょう?

 恋人にもなれない、妹としても求められていない。それは私にも理解できる。


 そして、社交界デビューは成功し、私と彼の別れは一歩近づいたのだった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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