抱き枕SSSSSSS
★いつもお読み頂きありがとうございます(๑•̀ㅂ•́)و✧
今回は本編とはそんなに関係ありません。
おはようございます、齋勝光樹(16)です。
うちのろくでもない姉がろくでもないことをやってくれました。
「そんなにろくでもない、ろくでもないって言わなくていいじゃない。二回も」
「じゃあ『ろくでもない姉が、やってくれました』で」
「そっちの『ろくでもない』を残すんだ!?」
姉弟の頭の悪い会話を披露していても仕方ないので先に進めますね。
(illustration:exaさま)
「一枚からプリントできますっていうのを見つけて、作ってみたの。この間の誕生日のときの写真を使って、椿香織抱き枕(貴族服ver.)。作ってから気づいたんだけど、これ、使いみちないよね?」
「作ってから気づくことじゃないよね。注文する前に気づこうね。だいたい、一枚から注文できる抱き枕カバーってなんだろう……どこの誰がなんの目的でそういうマニアックなもの作るんだろう」
あ、うちの姉か。目の前にいた。
でも使用目的は特に考えてなかったっていうから、悪用するつもりはなかったみたいだし、ぎりぎりセーフかな。
悪用?
「最初は面白いかなーって思ったんだけど、冷静になってみると『面白いかな?』って。哲学だよね」
「哲学ではないし、冷静になるタイミングが遅過ぎる」
「光樹、お姉ちゃんに厳しいよね!?」
「今に始まったことじゃないよ。昔から俺は姉ちゃんを甘やかしたことはない」
「『年の離れた弟がドSです。デレるのはお姉ちゃんの彼氏にだけってどういうことですか!?』」
ラノベタイトル風に空に向かって吠えてるけど、面倒くさい。
だいたいそれラノベっていうか腐女子視点のBLっぽいよ?
「そういうわけで香織抱き枕、お姉ちゃんの手元に置いておいても使いみちないからあんたにあげる」
「俺も使わねーよ」
「そんなこと言ったら、香織がかわいそうだよぉぉぉ。香織を助けるためだと思ってもらってよぉぉぉ」
「これを俺が引き取って助かるのは姉ちゃんであって、香織さんには何一つ関係なくない!?」
※結局押し付けられました。
* * *
「いらない」
柳奏先輩です。
本人曰く、「椿香織とは浅からぬ仲で」とのこと。香織さんの会社である椿屋で最近働き始めたのですが、どう見ても香織さんを意識しています。
そのへん俺としては複雑な気持ちもあるんですけど、私情を挟まず考えた結果、香織さんの抱き枕を一番使いそうな相手として思いついたのがこのひとだっただけなんですが。
「なんかリアルで怖い。そういうマニアックなものはべつに……。部屋に置いておくと見られているみたいで怖いし。これ、写真自体は加工してないんだよね? わー……睫毛長い。鼻筋まっすぐ。目は奥二重か。目元がすっきりしているのに、大きな目してるんだよね。三十歳で自分じゃオッサンっていうけど、肌綺麗。規則正しい生活だからかな……。あ、手が大きいなぁ。指が長いんだよね。手の指長いひとって足の指も長いんだよ。椿香織って、靴のサイズ大きいし。背も高いんだけど」
「先輩、抱き枕、いらないんですよね?」
あまりにも熱心に見ているので、一応確認してみた。
柳先輩は「いいい、いらないって言ってんでしょ」とどもりながら投げ返してきた。
「置き場所にこまる! 着替えのたびにひっくり返さないといけないし、部屋でも気の抜けた格好してらんないし、夜だってどこに寝ればいいかわからないし!!」
「……? え、なに? なんのはなし?」
「だから!! どこに寝ればいいかわからないって話!! 一緒に寝るわけにいかないけど、床に寝させるわけにもいかないし、だとするとわたしが部屋を出ていかなきゃって話になるでしょ!?」
ええと? なんの話だ?
「あの……、それ枕ですよ? ……枕で、枕ですよ? なんで枕に遠慮して着替えて、枕に遠慮してベッド譲って、枕に遠慮して家庭内別居しようとしているんですか? 枕と暮せばいいじゃないですか、ふつうに」
「無理ーーーーーーーー!! 枕と一緒に暮らすの無理!! だってそれ、椿香織じゃん!!」
「まあその、香織さんですけど。どこかの印刷屋さんが高額でプリントした世界で一つの枕です」
「無理!! いらない!! 枕無理!! 椿香織がずっと部屋にいてわたしの帰りを待ってるとか無理!!」
「待ってないです。枕です。擬人化しなきゃいいだけの話……」
「とにかく!! いらない!! わたしが欲しくなる前にどっかに持っていって!! 大切にしてよね!?」
……女心複雑すぎねぇ?(そして俺はなぜかちょっと傷ついている)
* * *
枕の行き先に困りすぎて、枕を持って市内をうろついています。
大切にしてくれそうなひと……。
「それ、俺が引き取ると結局静香の手元に戻るのと同じことになるんだよね。べつに俺は使ってもいいんだけど、静香のことだから『香織がベッドに入ってくる!! 三人!! 三人って無いと思う!!』って騒ぎそう」
伊久磨さん、いつもながらくすって感じ良く笑っていますけど、えぐいです。その光景はすごく思い浮かぶんですけど、なんか生々しい……。弟としてはあんまり聞きたくなかったです。
「ほんとどうしよう……。うちに置いておくのも微妙。これ、なにかのタイミングでうちの母親が見ても親父が見てもすごい空気になると思うので……」
「隠しておくのも、『後ろめたいです』って感じになりそうだしね。死後に見つかったりして」
死後? 死後って言った。いま、青春方面の「家族に見られたくないもの」の話じゃなくて、終活方面の「後ろめたいものの処遇」の話をしたぞこのひと。
「まださすがにそこまでは考えていないんです、けど……」
「死ぬ死なないに関しては、若さなんて何も関係ないから。遺品整理は家族の責務だけど大変だぞ」
絶対俺が死ぬ想定で話してる。なんでだよ。
平均寿命って言葉もあるわけだしだいたい普通は年取ってるひとから死ぬわけで、自分の周りにそうじゃなかった例があるからって容赦なく義弟にまでその前提ぶつけてくるなよ……。
「とにかく、光樹の部屋に置いておけない事情もわかった。うちにも置いておけないし。それで、その枕を大切に保管してくれそうな場所っていえば、もうあそこしか思いつかないな」
そう言って、伊久磨さんと伊久磨さんの第二の故郷的な何かに向かうことになりました。(ちなみに「第一の故郷はもう消滅しているんだけどね」って笑顔で言った後、伊久磨さん少しの間闇落ちしてました。カジュアルに闇落ちしないでください。すごい気を使うんで……あの……)
* * *
「あの、香織さん、もし良かったらこれどうぞ。俺が持ってても、なんか」
さすがに本人は本人を雑に扱えないと思う、って伊久磨さんが言ったんです。伊久磨さん発案ですよ。
だけど、自分が印刷された抱き枕が自分の元までたどりついた経緯を聞いた香織さんは目を大きく見開いて力説してきました。
「いらないよ??? もし良かったらって何?? 何もよくないよ???? 何が悲しくてみんながいらないって押しつけあった自分の抱き枕カバーを、自分で引き取らなくちゃいけないの?? もし良かったら要素何もなさすぎて本気で泣くよ????」
まぁそうなりますよね。
どうするんですか伊久磨さん、この空気。
「香織、こう考えたらどうかな。『家族が増えた』って……」
「枕だろうが!! っていうか、増えたも何もこれ自分だし!! 自分がもう一人いて喜ぶようなナルシストじゃねえよ!!」
怒った。
その後、椿邸に置き去りにされた抱き枕がどうなったのか。
それはまた、べつの機会に。
おしまい。