表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ステラマリスが聞こえる  作者: 有沢真尋
Fairy tale 2
255/405

好きが天元突破

前話で「椿屋騒動編」が終わっています。

ここから「海の星」

Fairy tale(第236部分 粉雪の舞う夜)直後のエピソードです(一度活動報告で公開したのと同じ内容です)

 酒に弱いというのは聞いていたのに。


(酔わせてしまった)


 きっかけは、東京一泊二日旅行の顛末を聞いていたときのこと。

「旅行も、ディナーも、全部椿に先を越された。俺は大人になった明菜と飲んだこともない」

 思わず本音が漏れた。

「あ〜っ、それに関しては言い訳出来ないんですけど……私も春さんと飲んでみたいとは思ってましたよ。あの頃は未成年で、飲酒は出来ませんでしたけど、今なら」

 少し焦った明菜はそう言ってから「明日、お店休みなんですよね。開けちゃったハウスワインとか、飲んでも良いお酒、残ってません?」と、笑顔で続けた。

 それなら、といざ二人で飲み始めたは良いものの。


 後悔混じりにちらりと視線を向けると、目元をほんのり染めた明菜がにこりと笑い返してきた。


「春さん、グラス空いてますけど、飲みますか? お注ぎしますよ?」

 そうは言うものの、いざローテーブル上のワインボトルに手を伸ばすと、いかにも手つきが覚束ない。持ち上げた拍子に取り落としかけて、「あ、あれ?」と一人で慌てている。


「もういいから。手元危な過ぎ。ひっくり返す」

 横から手を伸ばしてボトルをテーブル上に置き直し、はずみで明菜の手を掴む。そのまま、考えるより先に引き寄せてしまった。

「あっ……」

 ソファに並んで腰掛けていて、位置的には明菜の左側。引いた手は右側で、動きに沿って明菜が体ごと向き合ってきた。


 並んで座っていたから、視界に極力入れずに済んでいたというのに。

 潤みを帯びた瞳で見上げられた瞬間、ジリっと理性が焼け焦げた。

 引き寄せた手に唇を寄せて、中指に口づける。そのまま、舌を這わせ、甘噛みした。


「やっ、んっ、春さん……っ!?」

 戸惑う声に誘われるように、ソファの上に押し倒し、覆い被さる。


「明菜、可愛すぎだって」

 見下ろしながら両方の手首を両手で掴んでソファに押しつけたが、体に力が入らないのか、抵抗は全く無い。罪悪感を覚えるほどにされるがままの明菜は、濡れたような瞳で見上げてくる。

「春さん……」

「なんだ。『やめて』を言うなら今が最後だぞ」

 理性を総動員して、止まれるかどうかの瀬戸際。かなり危うい。

 はあ、と吐息しながら明菜は目を閉ざした。


「違うの。怖くて」

「俺が?」

「そうじゃなくて、好きになりそうで」

 もどかしげに唇を噛んでから、閉じていた目を見開いた。


「春さんのこと、今でも好きなのに。これ以上好きになったら、どうしようって。怖くて……。もう、声聞くだけで無理なのに。もっと好きになったら、仕事出来なくなっちゃう……。春さんしか見えなくなって、周りに迷惑かけちゃうと思う……っ」

 言っているうちに感情が昂ぶってしまったらしく、涙が滲んできている。


 由春が、掴んでいた手首を放すと、これ幸いとばかりに両手で顔を覆った。


「好きなの、どうしよう。春さんのこと好き過ぎて怖い……」

 手が、震えている。号泣五秒前くらいに声まで震えている。


「明菜……、酔ってるだろ。かなり」

(俺より理性飛んでる)

 素面じゃ絶対言わないだろうし、言ったことを覚えていた場合、恥ずかしさが天元突破して「二度と顔を合わせたくない」とでも言いそうだ。

 理不尽な気もするが、この予想はおそらく当たらずとも遠からず。


 お互い少し酔っていて。時刻は深夜、二人きり。翌日は休日で予定は無し。

 女は、相手の男が好き過ぎると言って、今にも泣きそうな状態。

 躊躇う理由は、何一つない。

 普通なら。


「酔って……酔ってますよ。酔ってて悪いんですか!? 私だって春さんと飲みたかったんです!! 自分だけむすっとしちゃって。私だって、私だって……!! 別に香織さんは悪くないし嫌いじゃないけど、初めては春さんが良かったです!!」


「あのな、明菜。今のはいろいろと問題がある。かなり相当問題がある。椿にも申し訳ない。椿もあの性格だし『恨まれるくらいなら、明菜ちゃんの初めてなんかいらなかったよ。そっちでどうにかしてよ、俺を巻き込まないで』って言うだろうよ……」


「香織さんと『別に嫌いじゃないけど、好きでもない』両思い過ぎる……。初めてを捧げた仲なのに」


「なんだろう。俺の頭が働いてないんだろうか、明菜が何を言っているのか、理解できていない。今までここでなんの話をしていたかすら思い出せない……」


 とりあえず、

 飲み直そう。


 ソファに座り直し、手酌で赤ワインをグラスに注ぐ。やけ酒のようにあおってはみたものの、味がしない。


(まさか今の会話で、結構ショック受けてる?)


 それなりに良いワインのはずなんだが……と納得いかない気分のまま、グラスをテーブルに戻してから、明菜に目を向けた。


「寝……、るなよ! このタイミングで!? 俺にどうしろって言うんだ、投げっぱなしにも程があるだろうが!!」


 さすがに怒るぞ、と思ったのに。

 起こしたらかわいそうだという考えが働いたせいか、声は音量控えめ。

 もちろん明菜は起きない。安らかに寝ている。ある意味、完璧すぎる寝落ち。明日になったら、いろんなことが有耶無耶になっているはず。


「俺にどうしろと」


 恨み言をぼやいても返事はなく。

 明菜が寒くないように毛布を被せてから、ボトルが空くまで飲み直した。


 独りで。








続けて38章一話目をUPします。


なお、ステラマリスのサイドストーリーとして「発信」という短編を公開しています。

西條聖と穂高紘一郎の過去エピソードですのでよろしければどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ