5 さて、どうしたものか?
「困っちゃって……」
RBSテレビ旧館六階の広くはない通路で桜が寿実とすれ違う。丁度、昼食時だったこともあり、社内食堂へ向かう。桜は次回ドラマの打ち合わせ、寿実は『出会わなくても良いですか?』スタッフとの打ち合わせ後、移動前の空き時間だ。
注文を決め、席に座り、一口水を飲んでから、
「行き詰ってるの……」
と寿実が問う。
「まあ、それもあるけど……」
自分から口を滑らせたわけだが、適当な接ぎ穂が見つからず、桜が言葉を濁す。その態度に、寿実が訝しむ。
「今日は時間がないけど、言うだけ言ってみたら、すっきりするかもしれないから……」
「ありがとう」
桜は答え、悩んだ末、
「実は……」
と自分が西条美貴に告白されたことを白状する。寿実は一通り、桜の話を聞いた後で、
「いいわね。モテて……」
と、そっけなく感想を述べる。
「わたしなんか、恋の『こ』の字もないからさ」
「でもね、そういう気持ちの相手じゃないから困るのよ」
「商社マンなら、お金に困ることないじゃない。結婚したら、好きな作品が選べるよ」
「そうか、その視点はなかったな」
「桜は男に甘えない人だからね」
「いや、不器用なだけ。できるようならやってるよ」
「じゃ、手始めにひらひらの服でも着てみたら……」
「そういう問題じゃない気がするけど……」
「男に愛される女の形から入るのよ」
「そりゃ、愛されれば気分はハイになるけどさ」
僅かな間の後、寿実が問う。
「桜は、これまで何回告られた」
「そんなにはないよ。小、中、高、大、で一回ずつ……」
「ふうん。で、付き合ったのかな」
「小学校の頃は、その気はあったけど、何となく無視して……」
「そう」
「中学校のときも同じ……」
「男かよ」
「高校のときは相手が強引だったから成り行きで付き合って……」
「いろいろと経験したとか……」
「ご想像に任せます」
「気になるな」
「もう昔のことだから時効だけど、お父さん以外で初めて見た」
「うそっ」
「単に見ただけだけどね」
「いったい、どういう展開……」
「それこそ、ご想像に任せます」
桜が言うと、寿実が再度、目を見開く。
「桜って、顔に似合わず、することはしてんのね」
「いったい、寿実にはわたしがどう見えてんのさ」
桜がそう文句を述べたときのことだ。
「久し振り、藤本さん……」
牧村組、撮影助手の山浦幸助に声をかけられる。
「寿実ちゃんと内緒話ですか」
「ああ、山浦さん」
そっけなく、桜が返事をすると、
「藤本さんには、そろそろ、山ちゃんとか、幸ちゃんとか、友人っぽく、呼んで欲しいな」
と、お道化て幸助が桜に願う。
「いや、でも、それは……」
幸助の言葉に桜が困っていると、
「そういえば、朝倉さんがアンタのこと探していたわよ」
寿実がすっと助け舟を出す。
朝倉は牧村組のメインカメラマンで幸助が尊敬する師匠でもある。
「えっ、本当……。どこで……」
「わたしが見かけたのはGスタジオの前だったけど……」
「あんなところに用があったのかな」
寿実の言葉に幸助が左右に首を捻る。
「そこまでは知らないけど……」
「わかった。とにかく行ってみる」
言うが早いか、幸助が桜と寿実の許を去る。その後ろ姿を見送った後、
「いいの。あとで困らない」
桜が寿実に問いかける。
「いいのよ。山浦くん、佳苗さんにモーションをかけ始めたらと思ったら、今度は桜にでしょ」
「単なる社交辞令かもしれないし……」
「それに朝倉さんがアイツを探していたのは事実だし……。さっきの打ち合わせの前だけど……」
寿実の言葉はどこか遠い。桜は、そこにある種の雰囲気を感じるが、口にはしない。
暫く経ってから、
「まあ、考えても損はしないから……」
明るく桜を見、寿実が言葉を紡ぐ。桜と美貴の件だろう。それから急に思いついたように、
「そうだ。いっそのこと、噂を流してあげようか。桜が昔の知り合いから告られたって……」
「えっ」
「だってさ、もし牧村さんが少しでも桜に気があるなら、そんな噂を聞いて急接近して来るかもしれないじゃない」




