4 嘘! 告られる
桜のスマートフォンに着信がある。
確認すると西条美貴からだ。大学の頃からの友人で、名前からは想像し難いが男で、当時は良く飲みに行ったものだ。飲みに行く相手は大勢のこともあったし、二人だけのことも少なからずあったはずだ。が、恋人的な感覚は丸でない。あくまでも友人なのだ。
『久し振りに飲まないか。時間があればだけどさ』
シンプルなメール。
『出会わなくてもいいですか?』後半の手直しに四苦八苦していた桜は、
(まあ、息抜きも必要だよね)
と考える。それで、すぐ行動に移る。
『急だけど、今晩はあいてるよ。明日以降はわからない』
とメールを打つ。すると電話がかかってくる。当然、美貴からだ。
「お久し振り、桜……」
「この前会ったのが、もう半年以上前だね。で、何時で、何処がいい」
「昔良く行ったHANAKOはどう? 八時じゃ早い……」
「いいよ。仕事には区切りをつけるから……」
「最近は忙しいのか」
「幸い、仕事に途切れはないよ」
「良かったな、売れて……」
「そっちこそ、外資系の商社じゃ、暇がないでしょ」
「適当にサボってるよ」
「美貴ちゃんは要領がいいからな」
「いやいや、仕事に慣れただけ……。じゃ、八時に、HANAKOで……」
「うん、わかった」
通話が終わり、桜が仕事に戻る。そんな桜を見てニヤニヤ笑いを浮かべていたのが、仕事仲間の逸見健だ。基本はミステリー作家だが、SFや冒険小説にも手を染めている。見た目ぷっくりのお金持ちタイプの三十二歳。独身だ。
「誰? 桜ちゃんの彼氏……」
「残念ながら、単なる友だちだよ」
「男女間に友だちはないから……」
「そういう、逸見さんの価値観をわたしは否定しませんけどね」
「でもさ、おれ、予感がするんだよね」
「あれまあ、逸見さんは預言者ですか?」
「うん、ときどき……」
が、まさか、その言葉が事実になるとは……。
「待った……」
桜がHANAKOに入り、ぐるりを見まわし、美貴見つける。時計を確認すると、午後八時十分過ぎだ。
「十分くらいね」
「ごめん。乗り継ぎを間違えた」
「最近は、こっちの方で遊ばないの……」
「どっちの方でも、あまり遊んでないな」
「大変だね」
「お互いさまでしょ」
HANAKOは酒も出す喫茶店だ。土日の夜はライブハウスになるが、平日は単にジャズレコードを流す。日本の喫茶店にはありがちだが、HANAKOでもナポリタンが旨い。
「じゃ、乾杯……」
「乾杯……」
桜と美貴の二人が生ビールで咽を潤す。ついで近況などを交換する内に二人分のナポリタンが運ばれる。HANAKOではハンバーグ・サンドも好評だ。が、久し振りにHANAKOを訪れる客の九十パーセントはナポリタンを注文する。
「やっぱり美味しいね」
「このペラペラのハムと甘いケチャップの味が癖になる」
つらつらと四方山話を続けるうち、美貴が桜に問いかける。
「桜。恋人は……」
「幸か不幸か、まだ、いないよ。そっちは……」
「うん、おれ方もさっぱりだな。でさ、桜……」
「何……」
「おれたち、付き合わないか」
「えっ」
桜の目に戸惑いの色が浮かぶ。当然、それを予想していたように美貴が言葉を続ける。
「単刀直入に言うと、おれ、桜のことが好きなんだ」
「美貴ちゃん、今日はエイプリル・フールじゃないよ」
「知ってるよ」
「じゃ、まさかの本気……」
「この間さ、おれ、気づいちゃったんだよね。自分の気持ちに……」
「……と言われてもさ。まあ、女としては嬉しいけど」
「急だから、戸惑わせたと思うけど、一度、考えといてくれないか」
「本当に本気なのね」
「できれば、桜と結婚したいと思ってる」
「あちゃーっ」
「でもまあ、今は、その話は一先ず置いといて、呑もうぜ」
「うん、それはいいけど……。だけど、どうして、わたしなのかな。成り行きで寝たことだってないでしょ」
「百パーセントとは言わないけど、身体目当てじゃないから……。桜といると楽なんだよ。ゆったりしていられる。今日だって、約半年振りだけど、まるで昨日も会ったように真っ直ぐ繋がる」
「ああ、それは、わたしもそうだけどさ」




