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9 遺体発見!

「外れかな……」

 と土屋が呟く。

 岡田樹との言い争いを目撃された相手が小池宗治であれば、話は簡単なのだが、そうではないようだ。しかし岡田樹の写真を見、小池は内心動揺した、と土屋には思える。けれども、理由がわからない。小池と樹の繋がりも見えない。

 岡田樹が疾走したのが三ヶ月前……。その後すぐ自殺したとしても樹は三ヶ月前まで生きていたことになる。それどころか、現在でも、まだ生きているのか。行方を晦ませたままで……。

 何故だ?

 岡田樹が遺書に書いた内容は嘘だが、実は、謎の組織に追われているのかもしれない。遺書に嘘を書いたのは組織との関わりを世間に知られたくないからだ。

 土屋は考えたが、自分でも馬鹿々々しい陰謀説に思えてくる。それよりは、土佐島豪遊の愛人と樹が知り合いであり(或いはもっと深い関係であり)、樹が豪遊自身を、或いは彼の死後、親族を強請っていた、とでも考えた方が、まだありそう話だ。だから、小池は樹の顔を知ってたのだ。強請の交渉相手として……。

 立志伝中の人物に愛人がいるのは珍しくない。いや、逆に、良くあることだろう。が、世間体を気にする昨今の風潮では、元会長の若い愛人の存在が明るみに出れば、企業イメージに悪影響を及ぼすだろう。たとえ、その夫人が数年前に亡くなっていた、としてもだ。如何にも昔風の企業名、土佐島建設を、耳にエコロジーを感じさせるフォレスト建設に改名したことが無駄になる。イメージ戦略だけでも企業は莫大な予算を投入するのだ。その事実を知っている者ならば、数億の金を要求しても可笑しくない。

 フォレスト建設に対し、強請ゆすりを行っていた張本人が岡田樹……。そんなことがあり得るだろうか。

「土屋さん、遺体が見つかりました」

 そんな折、ある遺体が発見される。

「別の事件ヤマを追っていたんですが、どうやら、土屋さんが探していた人物のようです」

 後輩刑事が言うには、遺体自体は白骨化しており、身元不明だが、服と時計が岡田樹のモノに思える、ということだ。すぐに土屋が鑑識に依頼し、写真等から照合した結果、岡田樹のモノと見て間違いない、と鑑定される。

「いったい、どんな覚悟の自殺なんです」

 遺体の第一発見者である後輩刑事が土屋に言うのも最もだ。岡田樹はガラス瓶に詰めた硫酸を口に含み、自殺している。

 例えば、同じ酸でも塩酸は塩化水素(沸点、マイナス八五℃)の水溶液だから、時間が経てば、すべて空気中に飛散してしまう。けれども硫酸は、それ自体が液体(沸点、二九〇℃)なので空気中に飛散せず、その場に留まる。留まった場所が人間の皮膚ならば、真っ黒に焦がす。経過時間と量にもよるが、皮膚の痕跡は残らない。只の黒後げ……の残骸となるのだ。

「どれだけ苦しい思いがしたかったんですか」

 後輩刑事が土屋に問うが、

「さあてね」

 と彼も答えられない。

「しかし、硫酸は何処から調達したのでしょう

「矢本総合学園の高校か大学部の化学室からだろうな」

「ちょっと待ってください。高校でも大学でも薬品量は管理されているはずでしょう」

「向精神薬や青酸カリならグラム単位で管理されるが、化学の授業で用いる薬品は、そこまで厳重ではないよ」

「しかし一本を盗んで誤魔化すことはできないでしょう」

「常に開栓した試薬瓶が一本ならば、それは不可能だろうな。けれども生徒や学生が、そんな決まりを守るとも思えない。在庫の硫酸が仮に十本あるとして、三本が開栓あったら、そのそれぞれの瓶から別のガラス容器に中身を移しても気づかれることはないだろう」

「実際に犯罪を犯した人間の言葉のようですね」

「好きに取ればいいさ」

 約束したので、警察病院に移動した岡田樹の遺体を矢本啓子に見せることにする。同時に、岡田森にも声をかける。土屋には森がわざわざ、自分の知らない弟の遺体を確認しに来るかどうかわからなかったが、森の心境は複雑らしく、警察病院に現れる。

 そう言えば、しんもりであり、フォレスト(もり)と繋がる。同様に、いつきは樹木を意味するから、やはりフォレスト(もり)と繋がる。

「こちらの時計、服の切れ端に見覚えは……」

 土屋が矢本啓子を警察病院に呼んだのは岡田樹の遺品確認の意味もある。

「どちらも間違いない、と思います」 

 一通り見分し、矢本啓子が乾いた声で断定する。彼女は泣いていない。惑いもないような声音だ。

 が、それが土屋には不自然に感じられる。矢本総合学園の理事長室で自分に見せた涙を何故、矢本啓子は再現しないのだ。

 発見された岡田樹の遺体は土に埋められたものではないので殺人の線は薄い。逆に、覚悟の自殺の条件が揃う。更に言えば、土に埋めらていないので腐敗が早い。

 遺体の発見場所は国家管理の森林地帯だ。滅多に人が立ち入らない。国の関係者以外では、関連する建設会社の人間しか知らない土地だろう。

 その場所の気温や土の状態、また遺体の白骨化具合から、発見された死体は死後二月から四月以上経過している、と推定される。岡田樹は、まさか、自分の失踪前から死んでいたのか?

 この世には容姿がそっくりな人間が三人いると言われるが、まさか、その内の一人が、この死体なのだろうか。

 ……とすれば、やがて、もう一人の岡田樹の目撃例が報告されるのだろうか。


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