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009 曳馬城での軍議


姫騎士……

アンジェリーク……

最低の屑……

うっ、頭が……




曳馬城へお市、もとい、姫騎士アンジェリークを連れて戻った俺は城の門番に義元のおっさんが書いた書状を見せた。

すると、下まで話が通っていたのかすぐに城内へ通される。

何やら軍議の前に会いたいのだそうだ。



「よお。おっさん。どんな感じだ?」


「おう、お主のおかげで傷もなくなって、動いても何ともないわ」


云いながら義元のおっさんが肩を回してみせる。


「時にお主、変わった御仁を連れておるようだな」


「こいつは俺の護衛だ。

 南蛮人の一族に紅毛人というのが居るのだが、その紅毛人の一派に耳長人というのがいてな。

 これはその耳長人の姫騎士でアンジェリークという。まぁ、アンジーとでも呼んでやってくれ」


そう言って俺がお市のことを紹介すると、お市は黙って頭を下げた。

義元のおっさんはそれを見ると、「ところで」と本題に入る。

俺はアンジェリークに廊下で待つように指示して追い払うと、おっさんは重い口を開いた。


「明日には諸将皆戻って来よう。それで明日の軍議のことで相談があるのだが……」


「どんなことだ?」


「うむ。はっきり言ってしまうと此度の戦は負け戦であった。

 なので信賞必罰もかなり厳しいものになるだろうと思う。

 思うところがあるのならば聞かせては貰えないだろうか?」


義元のおっさんは俺を食い入るように見つめている。

それを見て俺も方針を決めた。


「粛清や処刑はしない方が良いだろうな。

 うっかりこれをやってしまうと疑心暗鬼が広まって家中不和になるおそれがある。

 いや、それだけならまだいいが、それどころか身内を追い落とすために濡れ衣を着せる者も出て来かねない」


「だが、それでは負けたことの責任がうやむやになってしまうぞ」


「ああ、それはわかる。

 だから負けたことよりも負け戦の中で奮戦した者の武威をまずは顕彰しよう。

 要は、これだけ敵が強大だったけれども、負け戦のなかでも俺達はこれだけ勇敢に戦ったんだという物語で敗戦を上書きしてしまうんだ。

 その上で義元のおっさんが引退して後継に跡を継がせてしまう」


俺の意見を聞いて、義元のおっさんは苦い顔をした。


「氏真に家督は継がせたが、あれはどうしようもないほどの蹴鞠狂いだ」


「それならそれでやり様はある。俺に任せてくれ。結論はそれからでもいいだろ?」


こんなのはただの先送りだが、解決を時の流れに委ねるというのは意外と効果を発揮する場合があったりする。



「これより軍議をはじめる」


開けて翌日、集まった諸将を前にして義元のおっさんが口上を述べていった。

諸将の奮戦を称え、討たれた者への哀悼をあらわす。

感状と共にささやかながら褒賞がおっさんから手渡された。


「……これで当分の間、今川の瓦解はないか」


表彰される諸将を見て、俺はそんなことをぼんやりと考えていたら、いきなり俺の番になってしまった。

家臣ではないただの客が貰ってしまって良いものかと思ったが、くれるというからには遠慮は不要。

俺達は軍議が終わると曳馬から駿府に移動することになった。

駿府へと移動する途上で、軍勢の一部がその都度離れては故郷へと帰っていく。

その後ろ姿を横目に見ながら駿府への旅は続いた。






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