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007 姫騎士誕生


主人公の認識だとお市に施したのは些細なプチ整形なんです。




ゆっくりとお市の目が開いていく。


「おっ、起きたか」


呼びかける俺の声に、焦点の合わなかったお市の目がかっと見開かれた。


「貴様っ!」


叫ぶと同時にお市は飛びすさる。

反射的に右手を剣に伸ばして一気に引き抜くと俺に突き付けるが、そこでお市は「うん?」とつぶやいた。

おかしなものを見てしまったという表情で剣の刀身を何度も見返しては瞬きを繰り返し、おそるおそる片手を自分の髪に。


「わ、私の髪が、し、白髪になった……」


落胆のあまり、気を失いそうになりながらも気丈にお市は俺を睨みつけ、お前がやったんだろうと言わんばかりの態度で詰る。

そしてお市は再び刀身を見つめてさらなる驚愕に包まれた。


「……な、なんだこの目の色と長い耳はっ!!」


「ああ、俺が弄った」


俺の言葉を聞いてお市はぱっと立ち上がると剣で打ちかかる。


「よくも私の体をおもちゃにしてくれたな!」


「してない!」


「嘘を言うな! 弄ったと言っただろうが!!」


「弄ったとは言ったけど、おもちゃにしたとは言っていない!」


「同じことだ!!」


がむしゃらに剣を揮うお市を避けながら俺は説得を試みるのだが、お市は聞く耳を持ってくれない。

説明すればするほど逆上して斬りかかってくる。


「う……うううぅっ」


やがて剣を振り疲れたお市は両膝をついてしゃがみこんでしまった。

息を殺し肩を震わせて力無く涙を流すお市に俺はかがみ込み、右腕を掴む。


「……好きにしたらいい。お前が好きにできるのは私の体だけだ」


「お前の体なんか要らない。別に欲しくもなんともない」


俺の言葉にお市の白い肌がみるみるうちに怒気に染まっていく。


「こ、この私の体が欲しくないだと……っ!!」


恥辱に震えてお市が俺を睨んだ。

確かに面差しは信長に似ているとは思う。


「じゃあ、お市、お前の体を俺にくれるのか?」


「誰がやるかっ!!」



肩で息をしていたお市はがっくりうなだれると小さな声でつぶやく。

そしてその呟きを聞き逃す俺ではない。


「どうしてこんなことに……」


「それはお前の兄、信長が当面の間俺の敵だからだ」


「だからこんなことをしたというのか……!」


そうだ、お市。お前がいなくなれば浅井長政との婚姻同盟の線は薄くなる。

下の妹を嫁に送り出す前に長政はどこかから正室を迎えるかもしれない。

だから俺はお前を手放すつもりはない。


「どうだ? 辛いか?」


お市は無言のままだ。


「どうだお市。お前は俺を殺したいか?」


こう問いかけた瞬間、お市は顔を上げるとすさまじい炎の宿った瞳で俺を射貫こうとする。


「……殺したい。殺してやりたいッ!!」


「なら殺したらいい。

 お前を俺の傍に置いてやる。

 そして片時も離れずに俺の後をついて来い。

 そしていつか、俺が隙を見せたら何時でも遠慮なく殺すがいい」


お市の瞳を覗き込むようにして俺はささやいた。

一度、お市は瞼を閉じると、かっと眼を見開いて挑むように吠える。


「ああ、約束する。必ずお前を殺してやるとも……最低の屑がっ!!」


「お市、お前の手に掛かって死ぬのならそれもまた本望。

 ……やれるものならやってみろ」


こうして俺とお市は、憎しみで繋がった、尋常ではない太い絆を持つことになった。




異世界では治癒魔法による遺伝子改変技術が発達していて美容整形に使われていることによるカルチャーギャップが主人公とお市の間にはあります。


そしてお市の中には孝経の「身体髪膚、これを父母に受く、あえて毀傷せざるは孝の始め也」という思想があるので主人公のしたことは絶対に受け容れられないのです。


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