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021 甲相駿越四国同盟



試合終了後の挨拶の中で氏真は言った。


――このサッカーに興味がある大名家はこのまま残っていただけますか。


グラウンドに折り畳みの机と椅子が持ち出されて並べられる。

それぞれの大名家から代表が一人づつ出て椅子に座ると即席で説明会が始まった。

この時、小田氏治と偶然居合わせた結城晴朝はぎょっとして問う。


「なぜお前がここに居る?」


「おう! サッカーがやってみたくなったからよ!!」


屈託のない氏治を見て毒気を抜かれた晴朝はがくっと肩を落とす。

仮想敵に囲まれているというのに平然としている氏治を見て、結城晴朝は色々と考えるのが馬鹿らしくなってきた。


「そんなにサッカーがいいか?」


色々と諦めた口調で訊く。


「いい。気に入った!

 いくさ場での一騎討ちは一度決着がついてしまえば二度とはできんが、

 このサッカーならば勝っても負けても同じ相手と何度でも戦いが楽しめるではないか!!」


「何を当たり前のことを……」


「その当たり前ができんのがいくさ場ではないか!」


何をバカなことを言っているんだと言わんばかりの氏治を前にして晴朝は答えに詰まった。


そんな遣り取りで場がざわめく中、氏真が現れて講演が始まる。


「……さて、このサッカーにおいて最も大事なのは、試合が終わればノーサイド、敵味方無しということです。

 これがどういうことかと申せば、試合の中では対戦する相手方は敵となりますが、それと同じく、共に一つの試合を作っていく相方だということ。

 対戦する相手の組が居なければサッカーの試合は成り立ちません。それゆえ、試合が終われば「敵味方無し」なのです」


この氏真の公演を聞いた聴衆の反応は様々だった。

成程と思う者、サッカーが天下の情勢にどう影響を与えるかに思いを馳せる者などなど……

いずれにせよ、サッカーの試合を観戦した各大名家の反応を見るに好感触を得たのは間違いない。

今のところは時期尚早ではあったが、それぞれの家中において競技人口が増えた段階で各大名家内にサッカー協会が設立されることが合意された。

無論のこと、将来的には各協会が加盟する大日本サッカー連盟の創立が念頭に置かれてのことである。


そして各領地へと帰っていく代表団にはそれぞれ、サッカーのルールブックが一冊づつ手渡されたのは言うまでもない。

いうまでもなくこれは、「近日中にコーチを派遣するから、それまでの間にルールブックの写本を作っておけ」ということを意味していた。




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帰還する代表団を見送っていた俺は後ろを振り向いた。

残った者達が居住まいを正して座り直す。


「ではこれより甲相駿越一和のための話し合いを始めとう存じます」


ホスト役の氏真がまず最初に口火を切り、居残った長尾家、武田家、北条家の各代表団に会議開催を宣言した。


「ますは予備折衝の段階で判明している、それぞれの当座の政治目標を再確認しとうございます」


氏真の問い掛けに皆が頷く。


「北条家は坂東における騒乱を鎮め、武田家は信濃を一つに纏めたい。

 長尾家は越後の開発と一向宗の浸食の防止で、我ら今川家は三州の安定と領土開発……ここまではよろしいですか?」


「異論はござらん」


「我らも」


「同意にござる」


……とまぁ、こんな感じで同盟交渉の出だしはスムーズだったんだが、やっぱり武田と長尾の間でちゃぶ台返しがあってモメた。

北条は関東に専念だから長尾との競合は発生しないんで当たり前っちゃ当たり前なんだが。

そして仲介役はホスト国の今川氏真に回ってくる。


「まずは確認なのですが、春日山から信濃川沿いの長岡への本城移転までの長尾家による暫定統治に武田家は御同意いただけないと?」


「そうではない。二十年とは長過ぎる」


「そうは言いますが、新城を縄張りからとなると移転完了まで二十年というのも無理はないのでは?」


纏めなきゃならない立場の氏真がこう言ってフォローを入れるんだが、舌戦はそう簡単には終わらない。


「ならば今ある城に移ればよいでしょう」


と言ったのは真田幸綱。

それに言い返そうする長尾景虎を手で制して氏真が尋ねた。


「なぜそのようにせっついておられますか?」


これに対して信繁は答えて言った。


「村上勢の残党が力を蓄えて攻め込む恐れがある」


「……違いますね」


胸を張って堂々と主張する典厩信繁をじっと見た氏真がやや間をおいてから断言する。


「甲斐の土地の病がため、ではないですか?」


「なっ……」


氏真の淡々とした攻め口に典厩信繁は黙り込んてしまう。


「田に入った百姓や牛が病にかかる。

 それがために米の取れ高も増やせないというところですかな。

 土地の病の無い信濃に手を伸ばしたくなっても仕方は無い……と」


甲斐の風土病について俺から話を聞いた氏真は、それだけで武田信玄が採った膨張政策の動機にたどり着いていた。

甲斐源氏伝統の内紛が起きたのもこれがためなのかもしれないと思いつつ、俺は今川氏真の洞察力に驚く。

と、そこへ聞き捨てならぬとばかりに長尾景虎が割って入った。


「待て、甲斐の土地の病とはなんのことだ?」


「甲斐の土地には変わった病があるのですよ」


こう言って話し始める氏真の説明を驚きの目で聞いていた景虎は聞き終えると嘆息を漏らす。


「それでわかった。なぜ信玄が信濃の土地にこだわるのか」


「……」


知られたくないことを知られた信繁はバツの悪そうな顔で下を向く。



「では事は簡単ですな」


ぱんと手を打ち合わせた氏真を武田、長尾家の面々が見た。


「農業振興のために武田北条長尾今川の四家で手を組みましょう。

 塩は越後と駿河から甲斐信濃に流し込みます。

 あと今川家としては、甲斐の土地の病を滅ぼすお手伝いもできますが?」


「……できるのか!?」


氏真が最後の言葉に武田家の面々は激越な反応を示した。

飛び掛からんばかりの勢いで武田信繁が詰め寄る。


「ええ、できますとも。

 抑も(そもそも)この病は甲斐だけではなく筑後や備後にも見られますので」


「……なんと」


「まぁ、そういう訳ですので北信濃の年貢米は武田家に譲渡ということで手を打ちませんか?

 長岡に本城移転後、武田家に変換ということで如何ですか?」


とまぁ、こう言った感じで多少の紆余曲折があったものの、なんとか甲相駿越四国同盟は出来上がった。




これはなろうだけに限った話ではなく、歴史小説全般そうだとは思いますが、自然環境の変化や生態系によって歴史の流れが形成されるという観点に立ったものは少ないように思います。

多少はそういった要素を取り入れているものもあるとは思いますが、あくまでも個人の意志や営為によって歴史イベントは引き起こされるものであって、「その歴史的人物は環境に翻弄されるだけの存在てあったわけではない」という歴史観が主流ではないかと。

その人物、武田信玄ならば信玄なりの努力を描くという意味では間違いではないんでしょうけども、全体の流れを見てないというか……


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