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勇者の踊り子  作者: どくぽん
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エピソード3(旅立ち)

「よし、これで全部揃った!」


 勇者は夢も希望も不安も入った大きな荷物袋を両肩に背負った。長旅を想定し多くの物が詰め込まれている為、やたらと重い。しかも慣れない鎧を着用しているのも相俟って、直立していてもふらふらと千鳥足のようになってしまう。


「勇者殿、中々の量の荷物だな」


 格闘家が城の待合所にて勇者に話しかけた。


「格闘家様、どれだけ荷物を持っても不安が込み上げて来るのです。ご飯は足りるだろうか、武器が壊れたら予備が1本で間に合うのだろうか、怪我をしたら薬草は足りるだろうか。多くの事が頭をぎるのです......」

「分かるぞ勇者殿。最初は俺も不安が多かった。この鎧の厚みで人に肌を見られないだろうか。甲冑の隙間から肌は見えていないか、金色に塗り忘れた部分は無いだろうかなど、多くの事が頭をぎり前回の旅の前日は眠れなかった」

「全然違います!そうじゃないです!そんなの絵の具持ち歩いて、隙間があったら手ぬぐいでも捲いてといてください」

「そんな破廉恥な!」


 勇者と格闘家が他愛も無い話をしているとダンサーと僧侶が入ってきた。どこにそんな力があるのか、僧侶は勇者の用意していた荷物袋の3倍はあろうかと思われる大きさの物を何食わぬ顔で背負っていた。勇者はダンサーが入ってきた事で鼓動が早くなるのを感じた。勇者は城での一件以来、ダンサーの姿を見るだけで動揺してしまう。それは恐怖心からなのか、それとも懐疑心からなのか。早く慣れなければと自身を戒めた。


「ダンサー様。荷物の用意が出来ました。聞いた話では今日の出発は中止するとの事ですが、何か問題でもありましたか?」

「ああ、仔細無い......が」


 そう言い、ダンサーは後ろを振り返り天井を見上げた。その瞬間、ダンサーの腰蓑が遠心力により浮き、ふんどしのような物がちらりと見え勇者はいらっとした。


「興が乗らんのだ!今日は駄目だ!」

「分かります、ダンサー様!私も本日旅立つのは早計だと思っておりました!あの勇者が決めた日ですもの、間違いなく厄日です!」


 勇者はこのままダンサーと僧侶が2人の世界に入って、話が長くなってしまっては困ると思い、すぐさまダンサーに質問を続けた。


「しかしダンサー様。出発が明朝であるのなら、本日ここに集めたのは何故ですか?まだ行っていなかったお店巡りを打ち切って来たんですよ!」


 勇者がダンサーに少し険がある言い方をすると僧侶がダンサーの後ろ蓑からじっとりと睨む。隠れ蓑にされているダンサーは髪をたくし上げながら、こちらへ向き直った。腰蓑の前部分は流石のダンサーも手で蓑が上がらないように配慮していたのが勇者は更にいらっとした。


 突然ダンサーが大きく両腕を上げ右手には黒い球体。左手には白い球体を作り出した。


「オテテノ! アトラクションゲート! リプラッションゲート!を合わせてハッピーゲート!ナムゥウ!」


「なぜこんな所で魔法を詠唱するんですか!?」

「案ずるな勇者殿。通常【アトラクションゲート】は闇の引力にて全てを飲み込み永劫の無を与えるものだが、ダンサー様はそれに加え光の斥力の力【リプラッションゲート】も加えた独自の合成魔法だ。無限の闇の空間に物を入れ、それを斥力を使い、いつでも取り出す。つまり無限の道具入れをお持ちなのだ。まぁ、たまに無くなるのが玉に(きずだが」

「無くなるのなら嫌なんですけど!?」


 僧侶が背負っている荷物を床に置いた。石造りの強固な床がぴしっと軋むのを聞いて、勇者は相当な重量だと想像した。


「ダンサー様!お願いします!」

「うむ」

 

 ダンサーは両手の2つの球体を合わせながら、手をそのまま腰より下に落として、左右に開いた。手の間の空間に穴が開いたと思えるほど真っ黒な円ができた。その円は次第に黒く輝きだし、何故かダンサーの着けている腰蓑も白く輝きだした。それはまるで光と闇が呼応し、互いを求め合うかのようである。最後には闇と光が融合して、ダンサーの腰の前で渦になって回転し始めた。僧侶と勇者の荷物はたちまちその渦に吸い込まれてしまった。


「ちょっと!私の荷物!」


 そう言って勇者は格闘家の方を見た。


「大丈夫だ。ダンサー様に言えばすぐにまた出してもらえる。量や大きさに限りもない。このように我らの荷物もダンサー様に全て預けているのだ」

「無くなったり、私の下着に何か細工をしたりなんかしませんかね!?」

「あれでも元は英傑様だ。多分大丈夫だ」

「多分て!」


 しかし冷静に考えれば、無限の応用が効くとんでもない能力である。ただ、自分の荷物がダンサーの股間に吸い込まれたように見えて、勇者は気味の悪さを感じていた。


「ダンサー様、とりあえず今日は一旦お開き、という事でよろしいでしょうか?」

「うむ、この量の荷物だ。先に回収しておいた方が2人にとって気が楽かと思ったのだが、お節介が過ぎたか、な」


 な、の部分で髪をたくし上げる様が癇に障る。


「流石【私の希望】!私だけでなく、ここまで反抗的な勇者の気遣いまでされるだなんて、何て慈悲深きお方なのでしょう!」

「うむ、僧侶よ。勇者とも楽しく旅をしたいのだ。皆、今日はしっかり休んで、明日からの旅に備えるがよい!」


「はい!」

「御意」


 僧侶が目をうるうるさせ両手を握り合わせながらダンサーへ返事をしている。格闘家も慣れているのだろうかダンサーへ向かい拳を胸に当て敬礼のような姿で応えていた。そして勇者は肩を落としながら小声で呟いた。


「荷物返して......」


 その後、結局返って来なかった荷物を諦め、勇者は街をぶらついていた。今日旅立つと思っていた感情の高ぶりが肩透かしを喰らったような気持ちになり、少し不貞腐れていた。本通のまだ見ぬ店を回り時間を潰していると勇者はふと思い出す。


「あー、忘れてた!広場で福引を引かなきゃ!」


 そう思い立ち、勇者は広場に向かった。広場では色々な出店が並んでいる。券を片手に、どこで使えるのか探し回っていると、看板に大きく【竜の魔法具店~福引所~】と書かれている店を見つけた。


「福引所、ここだ!すみませーん!福引券持ってきました!」

「はーい、福引券1枚ですね!」


 木造で出来た可愛い細工が多い工房の出窓から帽子付きの外套がいとうを着ている可愛らしい女性が顔を出していた。見た目は占い師のようにも見えるが、勘定台にある立て札には【アトリエ】と古代語が彫られていた。


「では、玉が1つ出るまで回してくださいね!」

「はい!」


 勇者は腕まくりをし、絶対1等を当ててやると鼻息荒く挑んだ。そして勇者がぐるぐると取っ手を回すと回転抽選機が回りだし、がらがらと中に入っている玉が音を立てている。勇者はこの種の遊びをした事が無く、出るまでと言われて回転抽選機を何回も回すが中々出てこない。どきがむねむねして鳴り止まない。そして、10回転を迎えた頃。


 ことん


「おおおおぉぉぉぉおおお!?」

「え?え!?」

「凄いですよ!大当たり~!」

「ええええぇぇぇぇぇ!?」


 女性は万歳をして大げさに声を張り上げた。


「一等が出たあなたにはこちらの商品を!」


 そう言って出したのは、鉄製の小さな箱だった。かなり複雑な文様と装飾がされている。


「うわー、綺麗でいて不思議な文様ですね。細部まで施されている装飾も見たことが無い物があります!こんな高価そうな物、本当に景品としていただいて良いのですか!?」

「もちろんですよ!この文様は古代語のようで、その古代語の中でも特別古い象形文字と言うみたいです。これは開封者に合った物が中から飛び出してくるびっくり箱!正午の日が高い時にだけ開けられるので、明日になったら開けられますよ」

「へぇー、不思議な箱!明日が楽しみです!」


 見ただけで分かる高価な物を突然受け取り少し戸惑った勇者だが好奇心の方が勝っていた。勇者は明日の楽しみを片手に広場を後にした。


 翌朝、昨日に予定された通り、街の出口に集合した。そこには10匹はいようかという犬に似た魔物の群れが、そりに縄で繋がれていた。そりの上には格闘家が座している。その横に使い魔に直接乗っている僧侶がいた。使い魔は僧侶より少し大きいくらいで、毛むくじゃらで体に比べて顔が大きく四足で立っていた。毛の部分が毛糸のようなので、幼児用の熊のぬいぐるみのように見える。少し遅れて、ダンサーがいつも通りの腰箕で腰を振りながら登場して、3人に挨拶をした。


「おっはー」


 両手の人差し指と親指をくっ付けて丸を作り「お」。両手を全開に広げて「っはー」と元気に挨拶した。


「これまた古い挨拶の手法ですね」


 なんとも気の抜けた挨拶だろうと思ったが、勇者は朝の挨拶を皆にした後に格闘家に質問をした。


「この使い魔達はどこに繋げていたのですか?」

「ダンサー様の股間の渦は生物すら収納でき、尚且つ使い魔達の居住区もあるので、街にいる時は我らが使い魔もダンサー様の渦の中に入れてもらっているのだ。長旅になるので、勇者殿も使い魔がいた方がいいかもしれんな。冒険をする者ならば大体従えているぞ。戦闘用に使う者もいるが、我らは主に移動用に使っている」

「そうなんですか!?使い魔がいないと移動についていけないのでしょうか?」

「ダンサー様も徒歩なので、特に心配することはないだろう。我らはダンサー様に全てを合わせているからな」

「ええ!?」

「以前はダンサー様にも使い魔がいたのだが、訳あってな」


 そうして勇者の魔王討伐の旅が始まった。目指すは魔王がいるという暗黒大陸。途中にいくつかの街や拠点があるのでそこを経由しながら進んでいくことになっている。ダンサーは移動しながらダンスの練習を永遠としている。それに合わせて歩を進めているため、勇者はこの速度で大丈夫か心配になっていた。ただ勇者は勇者で慣れない鎧で歩いているため、この速度でも疲れを感じていた。


 お昼すぎに昼食のために休憩することとなった。勇者はダンサーの股間から出てくる食料を食べるのは気が引けたが、いずれ慣れるだろうと思い、我慢して食べた。


 食事が終わると、勇者は昨日の福引のことを思い出した。


「何が出るかな、良いのが出るといいなー!」


 勇者はそうひとりごちて、箱を開けてみた。すると青色の閃光が勇者を包んだ。勇者はこんな大仰なことになるとは予想だにしていなかったのでぎょっとした。


「この光はまさか!ダンサー様!」


 格闘家もその光を見て、少し焦ったようにダンサーに言った。


「うむ、封呪箱か、何がでるかな」

「メス犬のことだから、どこからか拾ってきたのかしら」


 そこから出てきたのは、小さな虎だった。勇者は驚いて箱を落としてしまっていたが、その代わりに虎を両手で抱いていた。


「あ~びっくりした。魔法具って聞いていたけど、まさか動物だなんて、それにしても可愛い子」

「幼児虎か」


 そう勇者に言って格闘家は箱を拾い上げた。


「この文様……暗黒大陸と特級迷宮でしか見たことがないものだ。普通は伝説級の魔物がでるはずだが、どこにでもいる幼児虎だとはな」

「普通ならメス犬も即死だったのに残念だわ」


 勇者はその言葉を聞いて一瞬ぞっとしたが、幼児虎があまりに可愛いので癒やされていた。


 ダンサーが勇者の所まで歩いていって言った。


「勇者よ、ほれ、危ないからその幼児虎を私によこすんだ」


 そう言ってダンサーが手をだそうとすると、幼児虎は毛を逆立てて威嚇している。


「むう」

「よしよし、怒らないであげて」


 勇者がそうやって体を撫でると、幼児虎は落ち着いたように目を閉じた。


「あり得ない!なんでよ~!!」


 近くの崖の上から女の大声が聞こえた。そこに立っていたのは魔法具店にいた女だった。


「あー!あの人です!あの人がこの箱を渡してきたんです!」

「私のシナリオだと伝説級魔物が出てあんたら全員殺すはずだったのにいいいい」


 とても物騒な物言いに、早くも魔王軍の襲撃だと思った。


「ダンサー様!あれが魔王軍の者なのですか!?」

「いやあれはうちのごん助だ」

「......え!?」

「お~い、ごん助~、何をやっている~」

「えーい!その名前で呼ぶな!」

「何を怒っているんだ?ほれ餌もやるぞ~」


 そう言って渦から出した骨を放り投げた。


「犬扱いするな!もう面倒なことはやめだ!今度こそお前ら全員殺してやる!」


 ごん助と呼ばれた女はそう言いながらも、ダンサーが投げた骨に反射的に飛びついていた。ごん助は自分の本能的な行動に地団太を踏みながら、そのまま巨大な竜に変化した。


「勇者殿!まずい!逃げろ!」


 格闘家が叫びながら、ノロノロと走りだした。


「死ねー!」


 ごん助はそう言うと火球を口から吐き出した。


「きゃ!」


 すんでの所で火を避けたが、僧侶とダンサーは火で見えなくなっていた。


「格闘家様!ダンサー様と僧侶様が!」

「問題ない!よく見てみろ!」


 火がパっと消えて、そこには防御壁に身を守られたダンサーと僧侶がいた。


「僧侶よ、いつも言っておろう防御壁などいらぬと」

「い~え、ダンサー様に少しでも傷が付けたくないのです」

「傷など付いた事ないであろうに」


 勇者はその姿を見て安堵した。


「よかった」

「よくないぞ、これからが本番だ」

「え!?僧侶様の防御壁があれば問題ないのでは?」

「あいつは自分とダンサー様以外に防御壁をしない!」

「そんなー!」


 竜がさらに火を吐き続けている。先程とは違い、僧侶の防御壁に当たって火の玉が様々な方向に反射されていた。


「見ろ!今度は反射壁にして嫌がらせをしてきたぞ!」


 勇者は鍛えられた身体能力で、なんとか避けていたが、どこに反射されるかわからない火の玉に捉えられるのは時間の問題だった。


「うわあ!」

「勇者殿危ない!」


 勇者に火の玉が当たる直前、格闘家が身を投げ出して火の玉の前に飛び出した。


「格闘家様ーーー!!」


 格闘家は仁王立ちでそのまま立ち尽くした後、ばたりと倒れた。勇者はすぐに格闘家に駆け寄った。


「大丈夫ですか!?……あ……」


 兜の隙間から見える肌は黒く焦げていた。どこからどうみても生きているはずがなかった。


「洒落にならない……」


 勇者はその現実をすぐに受け入れなければいけなかった。こうしてる間にも歴戦の格闘家を一撃で殺す火の玉が空中を舞っているのだ。英雄譚を聞いただけではわからない真実の死。人は死ぬのだ。竜と一緒になってこちらを殺しにきている僧侶と、何を考えているかわからないダンサーは当てにならない。絶対に敵わないのはわかっているが、勇者は立ち向かう決意をした。剣を握る手に力が入る。勇気がある者、それが【勇者】なのだから。


「ごん助よ~!お前の火の玉は効かないのは知ってるだろー!」

「うるさい!うるさい!うるさい!」


 ごん助は我を失っているようで、このままでは死ぬまで火を吐き続けるかのように見えた。ごん助が狙っているのはダンサーなのだから、僧侶が火の玉の反射さえしなければ、勇者や周辺地区に被害はないのに、と怒りが沸いた。


「やるしか......ない!」


 王国からそれほど離れていないこの場所で、これ以上の被害を出させるわけにはいかない、と勇者は自分を奮い立たせ、全力で走りだした。ごん助が我を失っているのは勇者にとっては唯一の幸運であった。狙って火の玉を吐かれたら、すでに死んでいただろう。流れ球を避けながら、勇者は崖の麓まで走った。そこは丁度ダンサー達がいる場所からは死角となっているので、流れ球がこれ以上飛んでこない場所である。崖に着いて登っていくと、度重なる火球の爆発の衝撃で何度も落ちかけた。


「そもそもごん助よ、何故怒っておるのだ~?」

「あれほどのことをしておいて覚えていないのかー!ゆ る さ な い!!」


 勇者はダンサーとごん助とのやり取りを尻目についに崖を登りきり、ごん助よりもさらに高い位置に陣取った。そうして機会を伺っていると、なんとごん助が勇者の方を振り返った。


「な!?」


 下でその様子を見ていた僧侶が笑みを浮かべた。 


「バカねえ。いくらごん助が怒ってたってね、【隠密】なしで近づかれたらわかるわよ。さよならメス犬」


 ごん助の口の端から火が漏れているのを勇者は見ていた。ごん助の口の火が大きくなったとき、勇者は剣を頭上に掲げ、【光り輝く】を発動した。そしてすぐさま崖からごん助に向かって飛んだ。剣を目くらましにして、ごん助の目を槌矛で一突きして、空中で体を一回転させて着地をした。


「やったか?」


 ごん助にはまったく効果がなかった。


「呆れすぎて怒る気が失せそう。新勇者様、とりあえず死んで」


 今度こそ殺されると思い、勇者は死を覚悟して走馬灯が見えた。ほとんどが鍛錬のことばかりだったが、時に厳しく時に優しく育ててくれた祖父の顔が浮かんだ。


(自分は勇者として恥ずかしくなかっただろうか、おじい様、志半ばで死んでしまう私をお許し下さい。どうか新しく勇者になる者が世界を救いますように)

 

辺獄舞踊リンボダンスだ!!」

 

 ダンサーが目の前に立っていた。

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