プロローグ
「ぬはははは!人間共よ!その程度か!」
5万の魔物の群れのその先の丘の頂上で、魔王軍総大将【炎のドヴォルザーク】はそう叫んだ。勇者一行は大軍勢を前にして最早立ち上がる力すらないほどに疲弊していた。
剣士は言う
「剣を持つ力も残ってないわ」
格闘家は言う
「絶対絶命だな」
しかし僧侶だけが凛とした目をして言った。
「希望はあるわ!」
ここにいる3人はいずれも一騎当千の強者である。その3人が力尽き、5万の魔物に囲まれているこの状況において、どこに希望があるのか。
「そろそろ終わりにしよう。魔物共よ、早い者勝ちだ!喰らうがよい!」
ドヴォルザークがそう言った直後、遥か彼方の空より強烈な光が辺り全体を照らした。
「ぬおおお!なんだあの光は!」
その眩い光は大群の真上に止まり、そこから大きな声が聞こえた。
「ギ◯デイイイイイイインンン!!!」
光の塊から放たれる強烈な閃光の後に巨大な雷槌が魔物の群れに降り注いだ。それはさながら天の怒り、その後に起こった衝撃は地球全体を震わせるかのような振動。これは音だ!勇者一行が気付いた頃には5万の魔物の軍勢は跡形もなく消え去った。ドヴォルザークを除いて。
ドヴォルザークは光の塊を呆然と見ていた。やがて光が小さくなり、そこに現れたのは、やや細身の体に簡素な布の服を着ただけの青年であった。雷槌を起こした影響か、左の肩の部分の布が焦げ落ちて、胸の部分がはだけている。ほとんどそこいらの村に歩いていてもおかしくない風貌であるが、巨大な剣を片手で軽々と持っていることだけが異様であった。
「皆よく耐えてくれた!」
とその男は3人の仲間に呼びかけた。
「勇者様!」
目を輝かせて僧侶が答えた。
苦々しい顔で、拳を握りしめていたドヴォルザークの眼の前に勇者が空から舞い降りた。
「覚悟しろ!!ドヴォルザーク」
勇者は大剣をドヴォルザークへと向けて、鋭い眼光で睨みつける。
「何故わたしだけ生かした!尋問しようとしても無駄なのはわかっているはずだ!殺せ!」
ドヴォルザークは勇者の強さを分かっていた。しかし、それは分かっていたつもりであり、対峙して初めて感じた底が見えない強さに自身の命は無いと即座に察した。
「貴様の懐に大事そうにしまっている物が気になってな」
「なぜそ...。」
ドヴォルザークが次の言葉を発する前に、彼の頭と胴体は切り離されていた。身の丈はありそうな剣がはやぶさのごとし速さで一振りされたのだ。
ドヴォルザークの体はまるで切り離された事に気づいていないかのように直立したままであった。勇者はその体に近づき懐に手を入れてドヴォルザークが隠していた物を取り出そうとした。すると切り離された頭だけのドヴォルザークが口を開いた。
「ふはははは!勇者よ...それがどれだけ危険なものか、貴様ならわかるだろう。精々苦しむがいい、ふははははは!」
そう言うとドヴォルザークの体と頭を青い炎が覆った。勇者が素早く懐の物を取り確認すると、それは1冊の分厚い本であった。燃えさかるドヴォルザークに目もくれず本の表紙を確認した。
「未知の言語、恐らく旧時代の言語か。言語解読熟練度128の俺からしたら...っく、所々難解だな。題名は……」
【ダンスダンスエブォルューソン ジ・ワールドダンス ハァーストエデソン 著:リューク・既家】
「エブォルュー...?分からん。ダンスというのは踊りのことか。」
踊りなど、どこの時代、どこの国にもあるもの。音楽の間隔に合わせて体を動かしたり神への感謝の気持ちを表したりなど表現の方法でしかないのだ。勇者はこれが何故危険なものなのかまったく理解できなかった。
魔王討伐の旅は魔王が魔界へと逃げて行ったことで突然の終焉となった。勇者一行は自国へ帰り世界から讃えられ英雄と呼ばれた。勇者は多大な功績から英傑と呼ばれ、今まで魔王に脅かされていた世界は開放され、大いに賑わった。
どくぽんと申します。
可能な限り毎週土曜日の更新を目標にさせていただきます。
初めての執筆となりますので、どうか御贔屓にお願いいたします。