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脇役傍観者は今回は重大ではないのでお仕事しない。

 総合体育館。

 リーンハイツ魔法学園最大の建物で、様々な行事を行う体育館という名を借りた巨大闘技場だ。

 雨天なども考えて天井があるが、どこぞの球技場のように開閉式となっている。

 そこに一学年……2-S~Dの5クラス全340人が集まっていた。

 生徒たちは仲良しグループや派閥などで集まり、談笑をしている。

 内容はもちろん魔武器と召喚獣である。

 エメラルドとスフィアも着き、エメラルドが周りを一度だけ見回して後ろの方を指差すとスフィアは頷いて後ろの方の席へと歩いて行った。

 席に着いた2人は、背もたれに背中を預けるとエメラルドはあーと遠い目をする。

「クッソウザかった」

「本当にね」

 2人が毒づいているのは、道中で何かと関わって来る噂のヒロトだ。

 何を思ったのか、王女様とその他大勢に囲まれて常に話しかけられてるはずなのにエメラルドたちに話しかけてきたのだ。

 一緒に行かないかと話しかけてきたのだが、エメラルドもスフィアもノーサンキュー。

 その他大勢からの刺のような視線に負けたわけではないが、断ると一旦引き下がったヒロトだったが少しするとまた誘ってきた。

 それを延々と繰り返し出したので、途中で行きたくもないトイレへ寄ってから来たので既に教師たちは準備を終えている。

 エメラルドたちが居るのは観客席で、舞台を中心にぐるりと囲む様に観客席がある。

 その舞台には召喚に使うであろう魔法陣は3つ。

 複数ある舞台に1つずつ描かれていて、それぞれの舞台のすぐそばに教師が何人か控えている。

 ベタではあるが、召喚獣の召喚は契約をする為に力を見せろとか言うことがあり、その時の為に舞台に魔法陣を描いているのだ。

 全ての舞台に魔法陣を描いていないのは、あれだ。

 魔武器を作ったら試しに戦うっていうお約束だよ。

(どうかヒーロー君と戦いませんように)

 おい、今フラグ乙wって言ったの誰だ。殴るぞ。

 ……さて、気を取り直して魔武器について説明をしよう。

 魔武器とは、自分の魔力から創る特殊能力を持つ強力な武器であり、魔術の初歩であり深淵でもある。

 魔武器を生み出すには高度な魔法陣と明確なる想いと一定以上の魔力が必要となる。

 まぁ簡単に言えば、魔武器は魔力が物質となったものなので何を作るか強くイメージすることが大事ということだ。

 魔法陣は学園側が用意してくれているし、魔力は魔法学園に通っているなら十分あるはずだから問題ないだろう。

 もし魔力が足りなくても、誰かから(今回は教師)魔力を借り受けてもいいので問題ない。

 要は、自分専用であることと作るイメージさえあればいいのだ。

 魔力が足りる人は勝手に作ればいいのではないかと思うだろうが、ところがどっこいそうはいかない。

 作っている最中に魔力が暴走したら、最悪死ぬ。

 暴走した魔力が体を駆け巡り、内臓やら血管やらを傷つけ、放っておけば体が爆散する。

 真っ黒焦げのアフロではなく、内部からドカンだ。

 ……魔武器作成がどんなに危険なのが分かってくれただろうか。

 だから教師監督の下で行わなければならないのだ。

「スフィアはどんな魔武器作るの?」

「槍にしようかなって」

「あー、確かにスフィアの槍術は凄いもんね」

 同年代の槍術使いと比べると、スフィアの槍術は凄まじい……いや、本当に。身の丈以上の鉄の騎士槍を片手でぶんぶん振り回す。しかも笑顔で。

「そういうエメだって、色んな道具を使ってトリッキーに動くの凄くやりにくいじゃん」

「私は力ないからねー」

 それに比べて私は、短剣にワイヤーに薬に毒にお酢などの道具を使って相手を翻弄する戦い方をする。

 卑怯者っていう奴がほとんどだけど、洩れなく全員が私と戦って負けた時の負け惜しみだ。

 勝てば官軍なのだよ、勝てばね。

「それにしても、S組だからってトリに持ってきて欲しくないよね」

「恒例行事らしいけど、待たされる身にもなって欲しいよね」

 あるとあらゆる行事は先にA~D組が行ってから、S組が行うことになっている。

 なんでも初代学園長の意向で始まったのがいまだに続いているらしく、先輩たちが愚痴っているのを何度も聞いているし、実際に体験している身としては本当に辛い。

 担任らしい教師から呼ばれたA~D組の生徒が舞台へと向かい、教師から拳大の石を受け取る。

 これは魔封石という鉱石で、一般的には魔法を封じ込めて任意のタイミングで使用するという少し貴重な物だ。

 魔封石に魔武器作成の魔法を封じ込めているようで、それを全員が聞こえるように声を張り上げた教師の説明がエメラルドの耳にも届いた。

 魔封石を使用し、魔力を注ぎ込めば魔武器が出来るらしい。

 教師の始めなさいという言葉と共に掛け声や熱血的な叫び声を上げながら魔封石に両手でありったけの魔力を注いでいく。

 十分な魔力が注がれると魔封石が砕け散ち、剣や斧などが生徒たちの前に出現する。

 これで魔武器が完成ということだ。

 もし魔武器が折れたり、欠けたりしても元は自分の魔力であるので魔力を注げば修復することも出来る。

 これが初歩にして深淵とも言われるゆえんだ。

 今は色々と技術が発達したから簡単に創れるようになったが、昔は魔力を物にすることなど困難であり、魔力を可視化させることすら出来れば天才と言われるほどだった。魔武器を創ること自体が困難だが、戦闘で使う事もあまり向いていなかった。

 出していても魔力を消費するし、出す度に創る時と同じ量の魔力を使うといえば、どれほど向いていなかったか分かるだろう。

 まぁ、ひと握りの天才の中の天才は息をするように魔武器を使っていたらしいが。

 今は先に言った通り簡単に創れるし、魔武器を別の形に変化させて持ち続けることも出来るようになっているし、出し続けても魔力を消費しないようにもなっている。

 そんないきさつが魔武器にはあるが……今は簡単に創れる武器なのでありがたみは少し薄れている。

 しかし、一生物ではあるので仏壇に飾るくらいのありがたみはある。

 魔武器を創った生徒が魔武器をアクセサリーに変化させると、別の生徒が呼ばれる。

 それを何度も繰り返していき、やっとS組の番となった。

「次、エメラルド・ハーティス!」

「あ、やっと呼ばれた」

「エメ、頑張って」

「んー、頑張る要素は皆無だけどね」

「気持ちだよ、気持ち」

「ん」

 スフィアからの激励に手を振って返事をして、エメラルドは呼ばれた舞台へと向かう。

 同じタイミングで呼ばれたのは、ディオ・チダーヨとハクセン・ツチミカドとウィリアム・クレバーソルとその取り巻き何人かだ。

「ハーティス」

「あ、どうも」

 教師から魔封石を受け取り、それを手のひらで弄ぶ。

(魔力は十分だから、問題はイメージなんだよなぁ……イメージ、イメージ)

 この1週間考えなかったわけではないが、そう簡単に決まるものではない。

 しかも自分にとって使いやすい物でなければいけないので、下手な物を作ったら目も当てられない。

(……ん? 使いやすい物?)

 さて皆さん、お気づきではあろうが私エメラルド・ハーティスは異世界転生者です。

 前世では異世界転生定番のトラックに轢かれて死に、神様っぽい何かの手によってこの世界に転生した。

 もちろん記憶は丸々引き継いだ。

 前世の世界は、多分ヒーロー君と同じかそれに近い世界なのだろう。

 さて、話を戻そう。

 私が思いついた使いやすい物は、前世もこの世界でもよく知られる物。

(イメージは決まったし、とっとと作ろう)

 魔武器のイメージをちゃんとしたエメラルドは魔封石に封じ込められ魔法を解放して魔力を思いっきり注ぐ。

 A~D組とは比べ物にならないほどの短時間で必要な魔力を注ぎ終わる辺り、流石はS組というところだろう。

 魔法が発動した魔封石は砕け散り、エメラルドの前にそれは現れた。

 全体的に白く、細長い筒状の物が2つ付いているそれをエメラルドは片手で持つと、空いている手で取っ手のような場所を掴んで一瞬でそれを身に付けた。

 はい、ただの白いパーカーです。

 チャームポイントは袖が長すぎて手が完全に隠れている点……というかそれくらいしか特徴は見当たらない。

 白い金属で出来たチャックを閉じずにフードを被ると、エメラルドの頭の中にパーカーの持つ能力の情報が飛び込んでくる。

 その全てを理解したエメラルドは、教師の方へ目を向ける。

「もう行っていいですか?」

「あ、あぁ」

 驚くというより放けていた教師から許可をもらい、そのままエメラルドは観客席へと足を向ける。

「次、スフィア・ロインハーツ!」

 エメラルドと入れ替わりにスフィアの名が呼ばれ、戻る途中でエメラルドはスフィアとすれ違う。

「エメの魔武器、面白いね」

「あはは、でしょー……頑張ってね」

「うん」

 そう短く会話を交わすと、エメラルドとスフィアはそのまま各々の目的地へと歩いて行った。

「さて、と」

 ダブダブの袖のままに頬杖をついてエメラルドはスフィアの魔武器作成を眺める。

 スフィアはエメラルドと同じく少し考えてから魔封石へと魔力を注ぎ込んだ。

 一気に注ぎ込まれた魔力に呼応して魔武器がスフィアの前へと現れる。

 遠目から見る限りでは、巨大なハンマー。

 ただ刃はデコボコとした歪な金属で出来ていて、それが異様ではある。

(スフィアなら槍だと思ったんだけどなぁ。まぁスフィアは怪力だし問題ないだろうけど)

 エメラルドは予想とは違う武器にスフィアが何を考えているのか分からずに肩をすくめ、スフィアの持つ魔武器へと目を向ける。

(しっかし、あの叩く部分はなんだろ。まるで別のパーツを無理やりくっつけたような───っ!?)

 そこで気付く。

 あのくっついてる金属、まるで鎧じゃないか。

(変形機能……待て待て待て。確かなんかの漫画でこんなのあったぞ)

 エメラルドは前世で読んだ漫画の1つを思い出し、その知識がないはずのスフィアがそれに辿り着いたということに驚き、そしてもう1つの感情で思わず身震いした。

(私対策? それとももっと汎用性のあること?)

 どちらだろうと、エメラルドにとって全身鎧はやりにくいことこの上ないものだ。

(ふふふっ……さすがスフィア、私に身震いさせるなんてやるようになったね)

 勝負すると決まってはいないが、それでもエメラルドは自分の感情を抑えきれなかった。

(やってやる。勝負になったら、1877戦939勝938敗の勝ち越しを維持させてもらうよ!)

 武者震いをしたまま、エメラルドはスフィアを見つめ続けた。

 ちなみにヒロトは黒い鞘の刀を創っていたが、別に戦うつもりはないのでエメラルドは気にしていなかった。


「これより召喚獣の召喚に移る!」

 全員が魔武器の作成を終えると、すぐに教師が魔法陣のある舞台へと集まっていくと4人がかりで1つの結界を形成する。

 前にも言った通り、召喚獣との契約では力を示せとかそういうこともある。

 その余波や暴走した召喚獣が外に出さない為に、舞台を覆う結界を何人もの教師たちが協力して張るのだ。

 教師全員は魔武器作成時とは打って変わって真剣な表情をしていることから、いかに危険であるのかが窺い知れる。

 呼ばれた生徒も待っている生徒も誰1人としてふざけておらず、全員が魔法陣のある舞台に目を向けている。

 召喚の手順は自分の一部を供物に捧げる。これだけだ。

 供物は抜け毛でもいいし、血でも眼球でもなんでもいい。

 その供物に反応した召喚獣を魔法陣がここへと呼び寄せるというわけだ。

 ただ、召喚獣というのはこの世界のどこかに居る何らかの種族であり、強制的に呼ぶので怒っているのが大半。

 その時が殺さずに倒す……生け捕りにしなければならない。

 これがもし強力な召喚獣だったら、大変だ。

 もっとも強力な召喚獣は、そのほとんどが人間と同じく理性を持っているので話が通じるので平和的に解決することが出来る。

 強力と言われるのは、ランクの中で上から3つ目の最上級以上。

 ランクは上から神級、伝説級、最上級、上級、中級、下級だ。

 召喚獣も生涯を共にするパートナーなので、反応するのは今の実力ではなく秘めている力も含めて。だから、とても弱くても神級の召喚獣が召喚されるということもありうる。

(ここ30年で召喚されたのは伝説級まで。最後に神級が召喚されたのは約500年前の邪教集団。まぁその神級は禁忌である複数人の供物によって呼び出されて混ぜ合った合成魔獣(キメラ)であって、本当の神級じゃなかったらしいけど)

 そう、複数人の供物を捧げるとそれぞれの供物に反応した召喚獣がまとめて召喚される。

 出口が1つしかないパイプに別々のジュースを別々の入口から注ぎ込むようなイメージだろうか。

 結果、混ざり合った異形の召喚獣───合成魔獣が呼び出される。

 この合成魔獣は混ざり合った生物が持つ力を単純足し算した存在で、召喚獣のランクとしては数によるが最低でも中級、最高で神級。

 魔物や魔獣やそれらの群れに当てはめられている災害ランクでは最下級の殺人級から天災級となる。

(500年前の神級の合成魔獣は、複数の国が力を合わせて何とか倒したらしいけど……ここでそんなのが出て、万が一暴走でもしたらまずいんじゃないかな)

 今召喚を行っているA~D組の生徒たちではなく、エメラルドはヒロトを見る。

 彼は確実に神級かそれに近い何かを召喚するだろう。

 それが暴走するかしないか、それはまさに神のみぞ知ること。

(どうか暴走しませんように)

 自分が何を召喚するかよりも、エメラルドはヒロトが召喚した召喚獣が暴走しないことを祈った。

 中級と上級の召喚獣が召喚され、その全てと無事契約を結んでいくA~D組の同級生たち。

 全員が最上級の壁を越えられず、とうとうS組の番となった。

「では、エメラルド・ハーティス!」

「頑張ってね」

「うん」

 呼ばれたエメラルドにスフィアは魔武器作成の時と同じように激励を送る。

 その顔は真剣で、本当にそう思っていることが分かったからこそエメラルドは頷いて舞台へと向かう。

「何を供物にする?」

「血にしようかと思います」

 教師の問いにそう答えたエメラルドは、懐から血の入った小瓶を取り出す。

 今回の為に前もって用意していたのだ。

「では、それを魔法陣に垂らせ。量は関係ないからな」

「分かりました」

 小瓶の中身を明滅する魔法陣にぶちまけると、ほんの少しだけ光が強くなる。

 魔法陣に起こった変化はそれだけだ。

 だが、魔法陣の上。

 そこにそれが現れた瞬間、結界内の空気が変わった。

 ビリビリと空気が震えているのは気のせいか、それとも本当に震えているのか。

「ボクを呼んだのはお姉さんなのかな?」

「呼んだというよりは、召喚しちゃったと言った方が正しいのかも」

 居るだけで空気がビリビリと震える上に普通に喋っている。つまり、上級以上は確定。

 あまり目立つたくないんだけどな、とエメラルドは思いながら目の前の召喚獣……緑色の髪をしたショタに契約について尋ねた。

「契約ならしてもいいよ」

「あ、いいんだ」

「うん」

 あっけなく契約に了承してもらえ、エメラルドは拍子抜けをした気持ちになるがそうは問屋が下ろさない。

「ただし、ボクに触れられたらね」

「あ、やっぱり?」

 案の定、条件を突きつけて来た。

 条件はショタに触れること。

「じゃあ、行くよ?」

 ショタの合図。吹きすさぶ突風。向かい風。

 エメラルドはそれで確信する。

 間違いない、あのショタは風の精霊だと。

 魔術はテンプレ通りに属性があり、それらをどの種族よりも自由に操るのが属性の精霊(エレメンタル)だ。

 精霊には森の精霊とか海の精霊とかが居るが、それらはその場所にある魔力が意志を持った存在であり、その場所以外では存在できないので召喚獣として召喚されることはない。

 だが、属性の精霊は違う。森の精霊などと何一つ変わらないが、問題はその場所。

 場所は世界全体。つまり世界のどこだろうと存在することが出来る規格外の存在だ。

 ただ、属性の精霊は世界全体に居ることが出来る分、数が多い。

 そして属性の精霊は生殖行為で増えるのではなく、増えすぎた力の一部を切り離し、その力が自我を持つことで増える。

 だから、全ての種族に言えることだが親が誰かやいつ生まれたかで強さが決まる。

(くそっ見た目はショタのくせに強い!)

 気を抜くと風に飛ばされて場外に飛ばされそうなほどの強風の中、エメラルドは少しずつだが確実に風の精霊に近づいている。

 それに気づいた風の精霊は楽しそうに目を細め、さらに風を強くし、それによってエメラルドは進むことすら出来なくなり飛ばされないようにするだけで精一杯だ。

 このままでは悪戯に体力を消耗するだけだと感じたエメラルドは踏ん張る足に魔力を纏わせると、態勢を低くして風の精霊に向かって全力で走り出した。

「当たって砕けろだ!」

 さらに風が強くなったが、既にエメラルドはトップスピードにまで加速していたので対した妨害にはならず、風の精霊の目の前まで辿り着くと同時に触れた。

「おぉー、おめでとうお姉さん。これで契約だね」

「────!」

 目の前だというのに、強風によって声がかき消される。

 それだというのに風の精霊の声は不思議とエメラルドに聞こえ、それは風の精霊も同じだ。

「早く風を消せって?」

 エメラルドの言葉を聞いて、風の精霊は唸りながら少し考えると笑みを浮かべる。

「やだ♥」

 憎たらしくも可愛らしい笑顔を最後に、エメラルドは風に飛ばされて場外へと吹き飛んでいった。


「大丈夫?」

 場外へ吹き飛ばされたエメラルドは、空中で一回転して体勢を立て直すと余裕で着地したので怪我はない。

 だが、強風の中に居たせいで喉がカラカラに乾いてしまい今は周囲の目も気にせずに水をゴクゴクと飲み続けていた。

 そのエメラルドの膝には小さな猫が丸くなって乗っている。

 この猫が先ほどの風の精霊で、名前はショタ。

 この世界ではショタという言葉は存在しないので、意味が分かるとすればヒロトくらいだ。

「ふぅ、満足満足」

 大量の水を飲み終えたエメラルドは一息つくとショタの首根っこを掴む。

 契約をしたショタが召喚者と頭の中で会話の出来る念話を使って、色々と自分の事を聞いてもいないのに話して来たのでショタが何者かは十分理解できている。

 風の精霊王と呼ばれる神級の存在の118番目の息子(分身体)で、精霊王が割と本気で創ったらしい。

 こういうのは主人公の取り巻きが契約するものだが、してしまったのは仕方ないので契約破棄とかもせずにショタを飼うことにした(字面だと不穏)。学園内でショタは色々と面倒なので猫に変身させているのだ。

「ご飯とかいるのかな」

「どうかな、精霊だから食べれるんだろうけど」

『ボクは何でも食べるよー』

 言外にご飯を寄越せと言うショタにデコピンをして躾を行う。そこでスフィアが呼ばれたのでエメラルドはショタの頬を引っ張りながらスフィアを見送る。

「頑張ってね」

「うん」

 スフィアが舞台へと上がり、血を垂らして召喚を行う。

 そして出てきたのは、氷の女王。

 全身が氷で出来ていて、衣服も氷、氷で出来た王冠を被り、氷で出来た笏も持っている。氷の女王以外に適切な表現がない程に氷の女王感満載の召喚獣だった。

 だが、女王様感満載でありながら割と話が分かるらしく、すぐに契約をしてしまった。

「アンタもあのくらい正直だったら良かったんだけどね」

『風は自由奔放なんだよ。あ、そこそこー』

 ショタの頭を掻きながらぼやくが、ショタはどこ吹く風で気持ちよさそうに目を細めている。

 気楽というかなんと言うか、自由過ぎる召喚獣だ

 戻ってきたスフィアに召喚獣のことを聞くと、どうやら氷の精霊様だとさ。

 上級に当たるレベルだ。

 魔王なのかと思ったが、魔王だと伝説級になって大騒ぎになるのでそうでなくて良かった。

 ちなみに魔王は、その全てが人間と敵対しているのではなく、むしろほとんどが人間と友好的な立場に居る。

 だがたまに人間に害をなそうとする馬鹿が居て、その馬鹿によって戦争が起きた事もあるらしい。

 今はそんな馬鹿が居たら他の魔王が叩き潰しているので、滅多にそんなことは起きないようだが。

 ちなみにショタは最上級で、成長すれば神級となる。

 エメラルドは召喚されていく召喚獣のランクを予想しながら時間を潰す。後、途中で禁忌を犯すような馬鹿も居なかった。

 そして最後の大トリとしてあのヒロトが舞台へと上がった。

 早くもヒロトの噂を耳にしていたらしく、生徒たちも注目をする。

 ヒロトが指から血を垂らし、それが魔法陣に付いた直後に魔法陣が眩く光り輝いた。そしてその光が晴れるとそこには、動きやすい軽鎧に装飾のある剣を腰に差した神々しい雰囲気の美人が跪いており、その背には純白の翼が生えている。

戦乙女(ヴァルキュリア)……?」

 誰かが呟いた言葉が、広いはずの総合体育館に響き渡る。それほどまでに静まり返っていたのだ。

(伝承に残っている有名な神。人間界が荒れると天界から降臨して、その力で平定すると言われている戦の神。確実に神級に入るね)

 思った以上に強力な召喚獣を召喚したヒロトは、テンプレ通りに戦乙女と戦うことなく契約をして帰還させる。

 これで全員が召喚を終えたので、次は魔武器を使っての戦闘だ。

(ヒーロー君はもちろんだけど、出来れば変なのと当たらないと良いんだけどなぁ)

 エメラルドは再びそれを切に願うしかなかった。当然、フラグである。

召喚獣ランク(説明の次の一言は戦った時の感想です)

 神級  神か同等クラスの実力を持つ存在。無理ゲー。

 伝説級 伝説に残るほどの実力を持つ存在。はっ!?。

 最上級 名のある龍や天使や悪魔など。めっちゃ強い。

 上級  普通の龍や天使や悪魔など。やべぇ。

 中級  ちょっと強い奴ら。強い。

 下級  ウルフとかスライムとか。ちょっとうざったいかな。


災害ランク(説明の後の一言は出会った時の感想です)

 滅亡級 世界を滅ぼすことの出来るレベル。神も手を出せない。絶望しかねぇ。

 天災級 大陸か複数の国が滅びるレベル。出来るのは、嵐が過ぎ去るのを待つことだけ。

 災害級 国が滅びるかそれに近い被害が出るレベル。王よ、お逃げください。

 城砦級 堅牢な要塞や大都市が滅びるレベル。生きるか死ぬか、どちらか選ぶがいい。

 軍団級 都市や街などの人口密集地が滅びるレベル。ゴブリンの軍勢などがこれ。総員、配置に付け!

 殺人級 個人から複数人を殺せるレベル。ちょっとした群れや一匹狼など。頑張れば、勝てるんじゃね?

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