1話
「お疲れ様でしたー。」
やっとファミレスのバイトが終わり、やり遂げたという達成感とともに1日で蓄積した疲労感が押し寄せてきた。腕時計は10時を指している。
ファミレスの外は当然真っ暗で建物の中に長時間いた影響からか、青黒い空一面に星々が確認できるほど一層暗さを感じられる。
高校生の帰宅時間のリミットは既に過ぎているのだが毎日のルーティーンのようなもので行くところがある。そこまでは自転車で約10分かかり、距離は2キロ程である。
なに、心配は要らない。高校入学からバイトを始めて現在まで補導は一回しかされていないから!(母さん、あの時はご迷惑おかけしました。)
早速、自転車に乗り目的地へと向かった。
ブーン…
1台の車が横を通過する。国道ということもあり、日中は車が目紛しいほど通るのだが夜は両手で数え切れるほどしか通らない。さすが田舎町。
車が通り過ぎてからは鈴虫の鳴き声がはっきりと聞こえるくらいの静寂がしばらく訪れる。
いつのまにか橋のところまで辿り着いていた。ここまで来ると、書店が目の前に見えてくる。相変わらず電力を無駄に使ってるな。しかも、24時間営業。環境の事など、これっぽっちも考えていない。
どんどん近づいていくにつれてアニソンみたいな歌が聞こえ始めては大きくなっていく。 着いた頃にはゲーセンかと思うほど大音量であった。近隣の皆さまご愁傷様ですなんて思いながらも入店する。
※もう一度言っておくけどここは書店です。アニメ専門店でもゲーセンでもありません。
ここの書店に入った時1番困るのはアブノーマルな事にフロントにエロ本が置いてあるということだ。普通の高校生なら
「やべー、エロ本じゃん!」
「今日はこのエロ本で…ムフフ」
と釘付けになるのだが俺はそんなものに興味が無いので目もやらずにスルーする。そして、右奥にあるグルメからモデルが載っているものまで幅広いジャンルのもので埋め尽くされている雑誌コーナーへと向かった。
毎月欠かさず愛読している雑誌、月刊ホップを手に取る。
この月刊ホップにはス◯ブラなどのゲーム情報やラブ◯イブなどのアニメ情報といった旬な情報が掲載されている。
今週発売のシャンプやライトノベルも見たかったのだが、その欲望を心に抑え込み、時間も時間なので泣く泣く諦めて会計を済ませた。
家までは約5分で着く。約1キロ。
厳重に付けてあった自転車のワイヤーロックを解除し、自転車を走らせる。
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「ただいまー。」
家の中には青白いかつ、夜の美しさの1つでもある月の光が射し込んでいる。家族はみんな寝たらしい。
電気を付けるとテーブルにはラップが被さった夜ご飯が置いてある。ラップに水滴が付いているので結構な時間が経っているだろう。 今日はハンバーグか。レンジで温め、有り難くいただく。やはり、母の料理が一番である。バイト先のファミレスなんて目じゃない。
あんな所で二度とハンバーグなんか食わないからな!いや、食べます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー入浴を済ませ、部屋に行き、ベッドの上にある小型の時計を見ると時計は11時半を指していた。
もう11時半か。明日も学校だな。キリがいい12時に寝るか。それまで、俺は書店で買ってきた月刊ホップを読むことにした。
俺がホップを読んでいる間の時間を使って自己紹介をしておこう。
俺の名前は松浦朝日。高校1年生である。背が170センチと高くも低くもなく、これといった特徴はない。どうでも良いが周りからは「目大きいね!」とよく言われる。
ちなみに中学の頃は野球部に入っていた。なので、運動には少々の自信がある。あとは…(諸事情により割愛させていただきます。) まあ、自己紹介はこれぐらいだ。
雑誌のページの終盤まで差し掛かった。そのページには職業関連の記事が載っていた。
高1の終盤ということもあり、親からも先生からも何度も早く進路を決めなさいと催促される。そんな事もあるので一応見て見ることにした。
まず、ページをめくると、高校生がなりたい職業ランキングが載っていた。1位は教師。2位はスポーツ選手などと自分にはどれも当てはまらない。
昔は「そうりだいじんになりたい!」「ぷろやきゅーせんしゅになりたい!」などと可愛いげな夢を語っていたが、今となってはそれらは現実味がない。かと言って夢という夢がない。
そんな事を考えながらも無思考のまま次のページへと進んでいく。
1ページ。また1ページ。そしてまた1ページとめくっていくが、警察。消防士などとぴんとこない。楽しそうな職業ないな。起業でもしようかな。
と考えていた時、一つの職業が目に留まった。その瞬間、心の奥から興味と好奇心が湧いてきた。一目惚れだ。
まるで、街中で運命の女の子に出会ったようだ。
「俺、この職業に就きたい!」
俺は興奮のあまりに思わず声をあげてしまった。
開かれたページが一瞬で俺の世界を180度変えた。
俺はゲームをしているかのように夢中になり、ページを読み進める。
時間の事などさっぱり忘れていた。もちろん、明日、学校があることも。
そして今日、誰から見ても現実味のある、ちゃんとした夢を見つけた。
この職業のことをもっと知りたい。この職に絶対就きたいという思いでページを読み続けた。その職業の情報はそのページだけに留まらず、次のページ、その次のページ、そのまた次のページへと続いていた。どんどん読み進めると同時にその職業への想いが強まっていった。
俺は情報が載った最後のページを読み終え、に霞切った目をスマホの画面に通すと右上のデジタル時計は3:30と表示されていた。
「オール確定路線だ…!」
俺はそう決意した。まっ、明日眠くなるだろうけど、授業中に寝ればいいからね!the 睡眠学習とか言うしね!
パソコンの前へ座り、電源ボタンを押す。パソコンが静かに起動音を立てる。起動までに大体、数十秒といったところだろうか。 wi○dowsが立ち上がる。
オールをついさっき決意した俺だったが、目を覆っているシャッターが意思に反して自然と降りてくる。
何度も何度も耐えていたのだが、眠気の悪魔には勝てない。天下の徳川家康だって勝てないだろう。
俺はそのまま、パソコンが置かれたデスクに身を乗せた。
その瞬間、周りの音が徐々に聞こえなくなり、意識がどんどん遠ざかり、夢の中へと吹き飛んでいった。