証。
ワタシは
哀しいことや
苦しいことがあったときに
それを忘れるかのように
髪を伸ばしました
毎日
鏡の中には
驚くほどワタシによく似た
ワタシが映っています
でも
彼女は
ワタシのように髪の毛が長くありません
彼女が動く度に
軽やかに跳ねる彼女の証
その
なんと醜いことか
きっと
世界中の愚民共を集めたって
あそこまで
醜く、穢れてはいないでしょう
だから
ワタシは鏡が好きではありません
ある日
ワタシは
隣の國の王子に
結婚を求められました
ワタシは
然るべき年頃でしたので
お父様と相談をして
了承致しました
王子と一緒に住み始めて
ワタシは初めて
人や動物や植物を愛することを
知りました
愛されるということを
知りました
初めて
この時が永遠に続けばいいと
このまま時が止まってしまえばいいのにと
願いました
なので
ワタシは
王子をワタシだけのものにすると決めました
あの方の
声も
笑顔も
肉体も
全て
全てが
ワタシのもの
ワタシしか見ることが出来ないように
ワタシは
楽しいことや
嬉しいことがあったときに
それを忘れぬように
髪を伸ばしました
ワタシは
鏡が好きでした
鏡の中に映るワタシは
美しくて
気高いからです
でも
やっぱり
この永い証のあるワタシの方が
ワタシは好きだわ
さあ
早く
私の
美しく
儚い
私の証を伸ばさないと…
あの人が眠っていることを
忘れてしまうわ