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短編集

あかちゃんは見ていた?

作者: 海水

長岡更紗様主催『パパママ誕生企画』参加作品です。

私の奥様は年上だ。


世間一般に言う2.3歳ではなく7つほど上だ。

かなり特殊だろう。


で、そのくせ結婚も遅かった口だ。

私が30ちょいの時に結婚して,何とか30代で嫁に行けた、という話が義母から出たほどだ。


歳が歳であるので普通妊娠は早々に見切りをつけた。

不妊治療という奴だ。


奥様は試験管ベイビーと言って嫌がっていたが、なんとも時代を感じる言葉だ。

試験管で受精させるわけでは無かろうに。


何故、嫌がっているのに体外受精を行ったのか。

これは奥様に夢があったからだ。



『〇〇おばあちゃんと呼ばれたい』



つまり、()にそう呼ばれたいのだそう。



マジか!


つーことはだ。

孫の前に()()だろ?

子供をつくらないかんわけで。


ということで体外受精に踏み切った。

新宿にある、結構有名なクリニックだ。


初回は失敗。

2回目も失敗

この時点で男性側、つまり私の方も精子の検査を行った。


不妊の原因は()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()の可能性だってある。

私の場合も精子の尻尾が曲がっているなどの奇形が見られた。

体外受精失敗の原因は、()()()()()()()

卵子と違い精子は日々生産される。

ストレスなどでも奇形ができるのだろう。日々の体調管理を心掛けるべきだ。


個人的には不妊の原因の男女比率は()()()()ではないかと思う。

声を大にして、言いたい。

不妊治療をするのなら、()()()()()()()()()()

自分の妻にだけに精神的負担を負わせるな。

自分も負え。



おっと話がずれた。


体外受精3回目で着床。

奥様は既に齢40に突入していた。



つわりもほとんどなく、かなり平和で穏やかな妊娠期間だったと記憶している。

ほかの方の壮絶な状況を聞くに、よりそう感じる。

私が妊娠しているわけでは無いので、実際のところは分からないが。


だがお腹が大きくなるにつれ、年齢からくる体力の衰えが腰痛を呼んだ。

元々冷え性で血行が悪いから腰が痛くなるのはよくあったが、かなりきつそうな様子だった。


予定日は3月半ば。

バレンタインも過ぎ去ったころには寒さもあり腰は爆発しそうに痛んでいたらしい。


で、奥様は探した。

()()()()()の鍼灸を。



足立区にある鍼灸が評判が良いということで、電撃的に予約して突撃した。

鍼灸ということで、やはり目の見えない方が施術されていた。

でも出張鍼灸もするらしい。

妊婦さんには人気なようだ。

先生も助手の奥さんも、結構な御年だった。

ベテランならではのアドバイスもあるんだろう。


予定日は3月中旬だが、心配性で完璧主義者の奥様は2月にはお泊りセットは作成済み。

いつでも持ち出せるようになっていた。

私の仕事も忙しく、なかなか休みが無かったが、それもひと段落着いた2月末、そこにお邪魔した。

奥様の腰が限界だったのだ。


針をうって腰の痛みがすっかり取れたのか、スッキリ爽快な顔をしていた。

針効くね、と大絶賛していた。

上機嫌で帰宅したその数日後の3月1日の真夜中に、突如破水した。

揺すられ起こされ「どうしよう破水した」と告げられ急いで病院に電話。

今から向かうと告げ、車で出発。

運転する横で「いたた」と唸る声に不安になりながらも、安全運転せにゃ、と飛ばすのは控えた。

夜中で車は少ないけど、事故ったら病院に間に合わない。

不安なのは私も奥様も同じだった。


病院に着いたのは明け方前の4時ころだった。

日赤で設備は申し分ない。

心配は部屋があるかどうかだ。

奥様は神経質でもあるので高くても個室を希望し、たまたま空いていたので直ぐに確保して貰った。


陣痛は来ても子宮は開いていないのか、待機する部屋で結構待たされた。

分娩室に運ばれたのは看護士さん達が引継ぎをするような時間だった。


分娩室に一緒にいて傍にいたけど、手を握って声をかけるくらいで、できることはほぼない。

勝手に動いても邪魔になるだけだ。


格闘する時間は分からなかったが、初産にしては短時間だったらしい。

産まれてきた赤ん坊の、予想以上に力のない泣き声に、こんなに小さいんか、と驚いたのを覚えている。

まぁ、大きくなると泣き声も大きくなったんだけども。


母乳の出が悪くて赤ん坊がやばかったりもしたが、すくすくと育っていた。

しわくちゃでお猿さんだった顔もパンパンになっていた。


ふと奥様が言った。


「やっぱりこの子、()()()()()体調がいい時を狙って出てきたんじゃない?」


と。

予定日よりも2週間ほど早い出産。

あの腰痛の酷さでは出産は無理だと判断したのかもしれぬ。


「だって俺出られなくなっちゃうじゃん」


とでも思ったのか。

狙いすましたかのように、鍼灸後の体調が安定した時に産まれてきた。


「まぁ、考えられなくもないけど、体が本能的に"いましかない〟とでも思ったんじゃない?」


私はそう思った。


「まぁ、いいタイミングだったね」


奥様はこういう。

終わりよければすべてよし。

人体は謎に満ち満ちているのだ。


息子に聞いてはいないが、その時の記憶などないだろう。

何度か聞いてみようかと思ったが


「そうそう、あの()()()()()しかなかったんだよ」


と言われても怖いので聞いていない。

真実は謎のままが良いのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 父親目線の体験談は、母親とは着眼点も違っていて興味深かったです! 日本の不妊治療の成功率が低いのは、偏った知識やイメージで治療しているカップルが少なくないのも要因なのかもしれませんね。 …
[良い点] わかりやすく、読みやすい文章で書かれていて、奥様への優しい気遣いが感じられて、 とても温かい気持ちになりました。 奥様だけに負担を負わせないという、旦那様側のお気持ちや体験も思いきって、書…
[良い点] それで赤ちゃんは見たけいこだったんですね。^^ 高齢出産、うちの双子も日々その域に近づいています。 やっぱり体力的にきつくなりそうですね。 でも本当に無事に生まれてよかったよかった。
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