こんな揺れる馬車の中で狙えるかい!
あ、そろそろストックが。また書き溜めしないと。
そんな火の自転車操業的な小説です。それでいいのか、ワタシ。
「な、ガルダだと! こんな所に出るなんて情報は無かったぞ……!」
どこに潜んでいたのか、教官がうろたえた声を出しながら暗がりから現れた。背中には身の丈ほどある大きな弓を背負っている。
「ブ、ブランくん、どうしよう……」
マロンが僕の片腕を握って聞いてくる。正直僕もパニクッてて正常な判断ができないでいる。と、目の前にポップアップが。
>どちらのルートを選択しますか?
>A. ガルダを避け、街に逃げ込む
>B. ガルダを倒す
>制限時間:10秒
「え? え? どういうこと?」
更に混乱していると、
《ブランさん、このゲームでは進むルートを選択できる場合があるんです! この場合は二択ですが、三択あったり、それ以外の場合もあるんですよ。更に、状況によっては素早く判断しないといけないので、こんな感じで制限時間が付きます》
ヘイムダルさんが説明している間に、その制限時間が減っていく。ただ、時間の流れを遅くしているのか、減り方はゆっくりだった。
《今回はガルダと戦わず街に逃げるか、ガルダを倒して安全を確保してから街に向かうか、の二択です。ミッションは街までの護衛なので、ぶちゃけ逃げてしまっても問題ありません》
「え? そうなんですか?」
《そうなんです。ガルダ自身もレベルがそれなりに高いですからね。空飛んでますし、戦いにくいと思いますよ。ただ、倒してしまえば追加で大きな経験値が貰えるのと、サブ目標を達成することによる追加報酬がありますよ?》
「あ、さっきの『Sub Objective』って……」
《そういうことです。別に達成しなくても良いですが、達成しておくといい事があるものが、『Sub Objective』にあたります》
ここで制限時間が九秒になる。
《さ、どうします? 選ぶのはアナタです。最善だと思う方を選んでください》
という声を最後に時間が元に戻る。時が急速に刻み始めた。どうするか。安全を取るか、それとも報酬を取るか。ゲーム的に言えばそりゃあ、報酬は多いに越したことは無い。……でも、それでも。
>A. ガルダを避け、街に逃げ込む
依頼は『馬車の護衛』だ。それが最優先だ。だから、
「みんな、ガルダから逃げるよ! 急いで!」
全員に呼びかけた。
>『A. ガルダを避け、街に逃げ込む』が選択されました
◇◆◇◆◇-------------◇◆◇◆◇
「想定外の事態が起こったんで、俺も参加する。無事に馬車を送り届けるぞ!」
試験官が声を上げた。
「ブラン、すまないが俺ともパーティーを組んでくれ。『ユニオン』を組む」
「はい、『ユニオン』、ですか?」
《ブランさん、『ユニオン』っていうのは、いくつかのパーティーが一つのグループになることです。知っての通り一つのパーティーは六人が定員なので、それ以上の人と一緒に行動するには、もう一つパーティーを組むしかないんです》
試験官の横からヘイムダルさんが割り込んだ。
「あ、そうですよね」
《で、組んだ二つのパーティーを一つの『ユニオン』にするんです。こうすると六人以上のパーティーを組める、というわけですね》
「ほうほう」
《『ユニオン』の組み方は、既にパーティーに所属している人なら誰でもいいので、一人が別のパーティーに参加するだけです。注意として、二つのパーティーに参加している人が戦闘不能になると『ユニオン』は切れてしまいますので、その人のHPには気を付けてくださいね》
「わ、分かりました」
《じゃ、試験官、オウロさんからパーティーに誘われるので、参加してください》
>「オウロ」からパーティーに誘われました。参加しますか? <YES NO>
僕は言われるまま『YES』を選択しました。
>「オウロ」のパーティーに参加しました。ユニオンが組まれます。
「よし、ベルデは馬車を出させる手伝いをしろ。マロンはその護衛。残りは付いてこい!」
オウロさんの号令で、僕たちはガルダに向かう。僕は長剣を抜いた。
「いいか、馬車が走れるようになるまであいつの注意を引くぞ。俺が弓で翼を狙うから、降りてきたところをそれぞれの武器で狙え。行くぞ!」
オウロさんが矢継ぎ早に指示を出し、弓を構えた。ガルダは自分達の上を飛び回り、時折こっちを見ている。
「フッ!」
気合一閃。オウロさんの放った弓はガルダの左翼を捉えた。すごい!
「ギィェェェェェェ!!」
ガルダはたまらず悲鳴を上げ、高度が落ちた。
「今だ、行け! 無理せず当てられるところに当てろ!」
その声と共に僕たちは走り出した。
シンザは大楯をぶちかました後正面に回る。そのままガルダの気を引き始めた。
その後に続いてロッソとアスールが、それぞれの得物を思いっきり振り抜く。
僕も更にその後に続く。長剣を左から右に振り抜く。
それぞれの剣はガルダの左翼を引き裂く。
ロッソ、アスール、僕はそのまま走り抜けて方向転換。その先にはガルダの右翼が。
同じように右翼を切り裂く。
「ギィヤァァァァァ!!」
ガルダがまた悲鳴を上げる。その大きさに耳を塞ぎたくなる。
と、ガルダが飛び立った。翼にそれなりのダメージを与えたと思われたけど、まだ飛行能力を奪うまでは行かないようだ。
(ヘイムダル:唐突ですが補足です! ガルダみたいな大型のモンスターは、HPの他に各部位ごとの耐久力というものを持っています。ガルダの場合、右翼と左翼にそれぞれ耐久力が設定されているので、これを0にしないと飛行能力は奪えないのです!)
飛び上がったガルダは僕たちに向かって風を巻き起こした!
飛ばされないように耐えるけど、風が刃となってHPを奪う。
そのうち、バリンという音がした。
HP <|----|---|>
ゲージが一本割られてしまった!
「回復薬を持っていたら使っておけ! また来るぞ!」
今度はガルダが低空を飛んで突撃してきた!
衝撃とともに地面を転がる。
今度は音がしなかった。
HP <|----|->
回復してる暇が無い! オウロさんは何とか避けたのかダメージは負っていないようだが、戦闘に参加している仲間たちのHPは全員がゲージ一本分割られてしまっている。
「俺がカバーするから、その間に回復しろ!」
シンザがガルダの正面に大楯を構える。僕たちはその影に入った。
ショートカットキーから回復薬を取り出し、使う。
HP <|----|---|->
何とかゲージ一本を取り戻した。ガルダがまた巻き起こした風をブロックしていて、手が空かないシンザにも回復薬を使った。
「すまない、助かる!」
「マロン、馬車はまだか!」
「待って、まだ馬が走れるくらい落ち着いてない!!」
馬車の方も準備が終わらないようだ。
「もう一回行くぞ!」
オウロさんが弓を放つ。狙いが逸れたのか、胴体に刺さった。ガルダは落ちてこない。
「クソッ!」
もう一射。と同時にガルダがまた低空から突撃してくる。
ふと、ガルダが突撃するコースを見る。そして、自分達の後ろを見る。
自分達が避けたらその後ろは……、馬車!?
「シンザ、楯! 後ろ馬車!!」
「何!?」
めちゃくちゃだったけど、何とか伝わったらしい。慌てて大楯を構え直す。
「みんなで後ろからシンザを支えて!」
「おう!」
ロッソ、アスールと僕でシンザを支える。
「来るぞ!」
オウロさんの矢が刺さる。一瞬だけ、勢いが鈍る。そして。
大楯に、ぶつかった。
「「「うわぁ!!」」」
僕たちは後ろに吹っ飛ばされた。でも、ガルダの突撃も止まった。地面に落ちている。チャンスだ!
「みんな! 馬車の用意ができたよ! 飛び乗って!」
「お前達、良くやった! 立て、馬車まで走るぞ!」
その時、マロンの叫び声がした。僕たちはそれぞれ腕を取り、特に重たい大楯を持っているシンザを引きずるようにして起こし、馬車まで走った。
「みんな、乗って!」
体重の軽いロッソから飛び乗る。その後ロッソが。オウロさんも自力で飛び乗り、シンザは大楯を馬車の中に放り投げて、ロッソやオウロさんに引っ張りあげてもらった。それを確認した後、僕も飛び乗った。誰かに腕を掴まれて引っ張られたので、楽に登れた。見ると、掴んでいた手は、マロンのものだった。
「ガルダが飛び上がるぞ……」
言われて外を見ると、モタモタしながらもガルダが飛び上がろうとしているところだった。
「何か迎撃できそうなものは?」
「今回の積み荷に、試作のボウガンがあったはずです! 使ってください! ついでに後で感想もよろしく!」
商魂たくましいセリフに僕たちは苦笑しながら、積み荷の中から目当てのものを探し当てた。
これで飛んでるガルダを狙うのか……。ガタガタいってる馬車の中で? あれ、大丈夫かなぁ……。
┏── Progress ──┓
《Mission Objective》
・街まで馬車を護衛する
《Main Objective》
〇 装備を整える
〇 パーティーを組む
〇 簡易広場まで進む
〇 馬車の周囲を見張る
〇 敵襲を凌ぐ
・ 街へ向かう
・ 街まで逃げ延びる
《Sub Objective》
・ 怪鳥ガルダを討伐する
┗──── ────┛
今回はひたすら逃げます! でも追加で報酬があるって聞いたら、やっぱり挑む方も多いのでは?