パニックになると操作が単調になって、結局やられること、あるよね
チュートリアルはまだまだ続きます。覚えることもまだまだあるんです。
例えいきなり敵襲があったとしても、チュートリアルは空気を読みません。
矢が暗闇が襲い来る。敵がどこにいるのか分からない。どうしよう? どうすればいい? 武器を抜くこともせず、おろおろする僕にマロンが叫ぶ。
「ブランくん、まず物陰に隠れよう! 敵を探すのはそれから!」
マロンは広場の端に置いてある岩の陰に隠れる。
《ブランさん、取りあえずマロンちゃんのいる岩まで走ってください!》
「は、はい!」
ヘイムダルさんにも言われて慌てて走り出し、岩の陰に滑り込んだ。
《バタバタしてますけど大事なことなのでしっかり聞いてください! こういう岩みたいなの、『オブジェクト』っていうんですけど、それにアバターの体の80%以上を隠すと『カバー状態』になります!》
相変わらず矢が雨のように降り注ぐ中、ヘイムダルさんの説明は続く。
《カバー中敵の攻撃はオブジェクトに当たればもちろんノーダメージ、自分に当たっても防御力が上がっているので、ダメージは少なくて済むんです! 他にもカバー状態では敵からの見つかりやすさ、被発見率が下がったり、良い事が多いので積極的に活用してください!》
「分かりました! で、今回はどうすればいいんですか!」
《カバー状態のまま敵を探してください! 矢の飛んでくる方向に敵はいます!》
僕は暗闇に目を凝らす。やっぱり良く見えない。……でも、矢か……。
僕は矢の動きをよく見ることにした。もっと言うと、矢がどの辺りから飛んでくるのか、それを見極めるように……。
すると……、いた! 朝戦ったのと同じような野盗が弓を構えている! 野盗をじっと見ると、野盗の頭上に赤い『▼』が付いた。
《あの赤い『▼』は『スポット』、敵がここにいる! というのを示すマークです。あれが敵だ、と認識しなければスポットは付かないので、気を付けてくださいね》
ヘイムダルさんの説明が終割った頃に、準備を整え終わったらしいロッソ達が出てきた。
「敵は向こうだな! 行ってくる!」
ロッソ、アスールが飛び出していった。シンザは馬車の前で大楯を振り回し矢を止める。ベルデはこちらに近寄ってきた。
「大丈夫? ケガ、してるから、治してあげる……」
僕に対して言ってきた。え? と思いながらHPを見ると、
HP <|---ー|ーーー|>
丁度HPゲージの一本分が無くなっていた。いつの間に! と思ったけど、思い当たる節は最初の矢による攻撃しか思いつかなかった。奇襲されると、ダメージ上がるんだ……。
そんなことを考えてるうちに、ベルデが回復魔法を使ってくれた。僕のHPは100%に戻った。同じ頃、ロッソ達が野盗を倒し終えたらしく、こちらに手を振っている。
>周囲にエネミーの反応無し
>スポットアシストによる経験値を獲得
どうやら、見つけた敵を誰かが倒しても経験値が入るらしい。
《敵を倒す以外の経験値はパーティーに入っているときといないときでは、もらえる量が違うので注意してね》
というヘイムダルさんの但し書きが付いた。
◇◆◇◆◇-------------◇◆◇◆◇
>Main Objective completed
>Checkpoint Reached
>Main Objective Update
>『街へ向かう』
その後特に敵襲は無かったけど、また野盗が襲ってきてはたまらないので、朝食を簡単に済ませて出発した。
「いや~、馬車にも大きな被害が無かったから、助かるよ。この調子まで街までよろしく頼むね」
というハイドさんの言葉を背に受けて、僕たちは街道を進む。今日も天気が良く、空は晴れ渡っている。穏やかな風も、草の匂いも変わっていない。
また野盗が来るかな~、と思いながら、仲間たちと一言二言交わしながら進んだけど、結局敵が来ることは無く、あっという間に野営の時間となった。
今回は昨日みたいに野営に適した広場があるわけでは無いので、街道の端に馬車を寄せてから野営することになる。
さすがに二回目ともなると手慣れたもので、野営の準備はあっという間に完了した。食事を摂りながら時折回りを警戒して、奇襲されないようにする。
そして見張り番。ペアは昨日と変わらないけど、順番が変わった。
一番目:マロン、僕
二番目:シンザ、ベルデ
三番目:ロッソ、アスール
中途半端に寝たり起きたりした上に、明け方には野盗と戦いを繰り広げたロッソ、アスールペアはできるだけ睡眠を取れるようにした。
「いや、ありがたい、助かる。正直、歩きながら寝そうだったんだ」
「うん、もう敵を見つけろとか言われても無理かも……」
順番にロッソ、アスールの弁。何だかゾンビみたいな足取りで寝袋に潜った。
「うぅむ、楯に傷が……。ちょっと寝る前にメンテする」
シンザは矢を防いだときに傷が付いたのを気にしていたらしく、僕たちの横で楯のメンテナンスを始めた。
「でも、別に使うには問題ないんじゃ?」
マロンが聞くと、
「いやぁ、そうなんだが、親父から受け継いだ楯でな……。きちんとメンテしないと気が済まないんだよ」
と手を止めずに答えた。
「ふーん。でも確かにすごい楯だよね。きっちり矢を防いだし」
「おいおい、俺の腕前も褒めてくれよ」
「はいはい」
話を聞いていた僕も含めて、三人で笑い合った。その後「じゃ、お先に」と言ってシンザは寝袋に入っていった。
その後はマロンと二人、取り留めのない話をしながら警戒する。ここでも何かが来ることはなく、やがて交代の時間を迎えた。
「ふわぁ……、おはよう」
寝ぼけまなこのベルデが僕たちの元に来た。
「おはよう。……左の髪の毛が撥ねてるよ」
「え? うそ!」
マロンに言われて、ベルデは慌てて手櫛で整えようとするが、寝ぐせは収まらなかった。
「うぅ、恥ずかしい……」
その後も何度か髪を整えようとしたが、結局戻ることは無かった。
「ブランくん、シンザくんを起こしに行ってもらってもいい?」
「うん」
わいわいとやっている二人を背に、シンザを起こしにいった。
「交代だよ?」
「……む、そんな時間か。分かった。すぐに……」
セリフは『ピィーーッ』という鋭い音にかき消されて、最後まで続かなかった。慌てて外に飛び出すと、月の明かりを隠す巨体が空に浮かんでいた。
「な、何、あれ……」
現実では決してお目にかかることは無い、大きな大きな鳥、怪鳥がそこにいた。
>Checkpoint Reached
>Main Objective Update
>『街まで逃げ延びる』
>Sub Objective Update
>『怪鳥ガルダを討伐する』
┏── Progress ──┓
《Mission Objective》
・街まで馬車を護衛する
《Main Objective》
〇 装備を整える
〇 パーティーを組む
〇 簡易広場まで進む
〇 馬車の周囲を見張る
〇 敵襲を凌ぐ
・ 街へ向かう
・ 街まで逃げ延びる
《Sub Objective》
・ 怪鳥ガルダを討伐する
┗──── ────┛
さあ、ボス敵の登場です。でもイベント戦の負け戦じゃないんです。これからどうなってしまうのか、次回もお楽しみに!