護衛任務における護衛対象のウザったさ
そーれ、もう一丁いっちゃうぞ~!
書き溜めてるから後先考えない大盤振る舞いだ~!!
「お、来たか。準備はもういいのか?」
試験官って言ってたっけ……、男の人が声を掛けて来た。
>通達:試験官に準備ができたことを伝えると、ミッションが始まる
システムメッセージが流れてきた。どうやら、そういうことらしい。
(えーと、装備は身に付けた、武器も持ってる、薬もショートカットに入れたし……)
ちらっと建物の窓を見ると、自分のアバターが映っていた。装備は反映させない設定にしたので、シャツの上に上着と、ズボン、ブーツを着ている状態が反映されている。
一方で顔の方は自分の面影が少し残る程度にデフォルメしてもらい、髪の毛の色と長さを変えた。髪の色は青みがかった白。自分の名前と合わせてあるから丁度いいかな?
ま、それはさておき、準備は整った。
「はい、大丈夫です」
試験官は頷く。
「よし、では出発するが、その前に受験者全員で『パーティー』を組め」
>Main Objective Update
>『パーティーを組む』
「パーティー?」
「そうだ、こういった依頼をこなす際、六人までパーティーを組むことができる。そうすると、パーティーに加入している仲間の状態が把握できるようになったり、戦闘で得た経験を共有できたりする。えー、ブラン、お前を臨時の『パーティーリーダー』に任命するから、パーティーを組んでみろ」
そう言われたけど、パーティーってどうやって組むの?
《はいはい、補足しますね。パーティーを組みたい相手のキャラネームを見ているとメニューが出て、『パーティーに誘う』っていうコマンドが出ます。そしたら、そのコマンドを選ぶだけ! 簡単でしょ?》
ヘイムダルさんの声が聞こえてきた。えーっと、キャラネームを見る……。
取りあえず、隣にいたマロンの頭上にあるキャラネームをじっと見てみた。すると、ポップアップが出た。で、『パーティーに誘う』っと……。
>「マロン」をパーティーに誘いますか? <YES NO>
YESを選択っと……。
>「マロン」が受諾しました。パーティーに加入しました。
すると、自分の視界の左下、HPらしきバーの上の方にマロンの名前と、これまたHPらしきバーが表示された。
「ブランくん、よろしく!」
笑顔で言われた。あと、残りの人も全員パーティーに入れないと……。
◇◆◇◆◇-------------◇◆◇◆◇
>「ロッソ」が受諾しました。パーティーに加入しました。
>「アスール」が受諾しました。パーティーに加入しました。
>「シンザ」が受諾しました。パーティーに加入しました。
>「ベルデ」が受諾しました。パーティーに加入しました。
はぁ、やっと終わった……。え~、順番に、『ロッソ』はリーダータイプの剣士(男)、『アスール』は小柄な体格の斥候士(男)、『シンザ』は逆に大柄な盾騎士(男)、『ベルデ』は大人しめな治癒術士(女)だった。ちなみに、マロンは剣舞士らしい。……うん、よく分からん。
>Main Objective completed
>Checkpoint Reached
「よし、できたな。そしたら出発するが……。その前に、こちらが今回護衛依頼を下さったハイド氏だ。ご挨拶しておけ」
試験官の隣に、中年くらいの男の人が立っていた。
「「よろしくお願いします」」
「道中、お願いしますね。合格しましたら、当商会を是非ごひいきに……」
ハイドさんと試験官は馬車の中に入っていった。残った全員の視線が僕に集まる。……え?
「みんな、号令を待ってるんだよ?」
マロンがこっそり教えてくれる。そんなのいるの? でもみんな期待してる風だし、仕方ない……。
「え、え~……。合格することも大事だけど、何よりハイドさんを無事に送り届けることを第一にしよう。……こんなでいいの?」
「もうちょっと!」
「え~……、それじゃあ、出発!」
「「「おう!!」」」
やっと出発だ……。
◇◆◇◆◇-------------◇◆◇◆◇
>Main Objective Update
>『簡易広場まで進む』
>通達:このミッションは失敗した場合、最後のチェックポイントからリスタートする
「これ、どういうことですか?」
通達の意味がいまいち分からないので、ヘイムダルさんに聞いてみる。
《あぁ、このゲーム、基本的にこういうミッションは失敗してもやり直しにはならないんだけど、一部はやり直しができるの。で、今回はさすがに合格してもらわないと話が進まないから、やり直しができるって訳》
「へぇ……」
やり直しがきかない。最近作られるゲームでは良くあるシステムだけど、改めて聞くと、何だか緊張する。
《ま、プレイヤーが死ぬわけじゃないから、気楽にね?》
「はい、そうですね」
ふぅ。それにしても、遠くまでずっと続く草原、そこに生えている草を揺らす風の感じ、草の匂い。空に雲。まるで本物がそこにあるかのような質感が僕を包む。ゲームをあまりやらない人もVRを買っているという話は時々聞くけど、こういうのが体験できるのなら、確かに納得だった。
《あ、敵がいない今のうちにHPについて説明しちゃおうかな》
ヘイムダルさんの声だ。
《いまブランさんの左下に見えるバーみたいなの、分かる? それがHPゲージだよ》
やっぱり、これHPゲージだったんだ。ちなみにこんな感じ。
<|----|---|---|>
《HPの最大値は『100%』で、成長しても最大値が上がることはないよ! 代わりにいい装備を身に付けたり、テクニックを磨いたりして受けるダメージを減らすイメージかな》
へぇ、最大値固定なんてまるで狩りゲーみたい。
《で、HP全体のことを『HPバー』、『|』で囲ってある分を『HPゲージ』っていうからね! だから、HPバーはHPゲージ三本分っていう言い方になるね。ややこしいけど、覚えといてね》
《あとはそうだなー……。戦闘にならないと分からないこともあるから、その時に説明しようかな。あ、戦闘はシームレスで始まるからね。周りに何も無くても油断しないように!》
と言われて、僕は慌てて視線を横とか、後ろに向けた。マロンにクスリと笑われた気がする……。
ずーっと馬車の横を歩き続けるのかな~、とか思っていたら、
「敵だ! 馬車の正面!」
というアスールの声とともに、前の方にいくつか、赤い『▼』が現れた。程なく、薄汚い恰好をしたおっさん達ががさがさと出てくる。
「野盗だ! 馬車を守るぞ!」
剣を引き抜き、ロッソが叫ぶ。すごくリーダーっぽい。
「ホラ、何してるの! 私達も行くよ!」
マロンが短剣を抜き、僕に言う。そのまま素早い身のこなしで向かっていってしまった。それを見ていると、野盗の一人が剣を持ってこっちに襲い掛かってきた!
《じゃあ、ここでHP講座の続きをしちゃいましょう!》
ヘイムダルさんの声に僕はずっこけそうになった。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょー! 今目の前に敵がいるのに!」
《だからこそやるんですよー。それにこれ、チュートリアルですし。現に野盗は襲ってこないでしょ?》
そういえばそうだ。剣を構えてこっちを見ている。
《さて、続きですが……。相手から攻撃を受けるとHPが減ります。減る量は相手の攻撃力、こちらの防具の防御力、攻撃がどの部位に当たったか、当たった時の速度がどのくらいか……、などを計算して決めます。試しに攻撃を喰らってみてくれますか?》
何か耳を疑うようなこと言ってる! と思ったら野盗が斬りかかってきた。胴の部分にちょっとした衝撃が走る。
《今HPが減りましたね?》
言われてHPバーを見ると、確かに減っている。
<|----|---|-->
《今ダメージを10%受けて、残りは90%です。しばらくそのままHPを見ててください》
じっとしていると、少しずつHPが回復し始めて、やがて元に戻った。
<|----|---|---|>
《このゲームでは、しばらく攻撃を受けないとHPが自動で回復するのです! ただし……》
また衝撃。野盗に攻撃されたらしい。けど、今度は何かが割れるような音がした。
<|----|->
>注意:Light Damage
「うわ! めっちゃ減った!」
《このままHPを見ててくださいね?》
しばらくすると、また回復し始めた。ところが……。
<|----|---|>
「途中までしか、回復しない?」
《これがこのゲームの特徴です。HPゲージが無くなるとその分は回復せず、残ったHPゲージの上限までしか回復しないんです。何となく分かると思うけど、HPバーの『|』が自然回復の上限になるからね》
「こうなったら、どうすれば?」
《さっき買った回復薬を使ってください。ショートカットに入れましたよね? 入れたショートカットを見れば使えますよ》
回復薬のショートカットを見る。すると、緑のエフェクトが体を包んだ。
■□---□■
・回復薬
HPゲージ1本分のHPを回復する。
りんご味。
■□---□■
<|----|---|---|>
「あ、戻った」
《大体分かりましたか? HP管理はくれぐれも慎重にやってくださいね?》
「はい」
《じゃ、目の前の野盗をさくっと倒しちゃいましょう。剣を抜いて!》
僕は右手を軽く振る。青いエフェクトを散らしながら、手に長剣を握る。
目の前の敵を見据える。さぁ、戦闘だ!
┏── Progress ──┓
《Mission Objective》
・街まで馬車を護衛する
《Main Objective》
〇 装備を整える
〇 パーティーを組む
・ 簡易広場まで進む
《Sub Objective》
┗──── ────┛
最初の戦闘であれやこれやと説明するのはお約束ですよね! え、そんな親切な機能ない? 死んで覚えろ? ……知ら管。