ブリーフィングって聞くと、何か身が引き締まる
さあ、今度はチュートリアルですよ。
まだ冒険には出ないのです。まずはちゃんと、何をするのかしっかり聞きましょう
《……さん、……さん》
誰かが僕を呼んでいる。
《……さん、ブランさん? 聞こえてますか?》
ブラン……、そうだ、僕のアバターの名前だ。由来は「白」のフランス語読み。
「あ、ごめんなさい。ぼーっとしてました。聞こえます」
《あぁ、良かった。ちゃんと聞こえてるんですね。自分が今どういうところにいるか、大体分かります?》
ヘイムダルさんの声に言われるまま、僕は回りを見渡す。左手の方に木造の割と大きな建物が見え、入り口のようなところの前には馬車かな? が停まっている。反対に右手の方には人の集団がいて、わいわいと話をしているようだ。
正面を見ると、柵のようなものがぐるーっと周りを囲んでいて、一か所空いているところがある。なんてことを伝えると、
《OKですね。ちゃんと所定の場所に降りられたようです。えーと、これからゲームのチュートリアルを行います。あなたがいる所はいわゆるギルドハウスという建物の前で、あなたみたいな冒険者が利用するところです》
ふんふんと話を聞く。
《で、あなたは冒険者のための学校に通っていて、これから卒業のための試験を受ける、というシチュエーションです。あなたの周りにいる同年代の人達はNPCで、あなたと一緒に試験を受けることになっています》
「そうなんですか? でも、誰が誰か分からないんですけど……」
《あぁ、NPCの頭の上に名前が出ますから、それで分かると思いますよ。後、NPC達は学校で勉強していた頃の話とかはしてこないので、当たり障りのない感じで会話してれば大丈夫です》
「分かりました。もし話に詰まったりしたら助けてくれると……」
《そこは安心してください。バッチリサポートしますよ!》
とここまで話したところで、
「卒業試験を受ける奴はギルドハウスの中に入れ! これから試験の内容を説明する!」
と叫ぶ男性が現れた。
《あの男性について行ってください》
「分かりました」
僕は男性の後を追って、他の生徒達? と一緒にギルドハウスの中に入った。
(ヘイムダル:私のセリフ、《》で囲ってますが、姿が無くて声だけ聞こえるセリフは《》で示してますからね!)
◇◆◇◆◇-------------◇◆◇◆◇
>卒業試験 馬車護衛
>ブリーフィング
(ヘイムダル:先頭に「>」が付くものはシステムメッセージを示すので、見逃さないようにね!)
『よし、卒業試験の説明を始めるぞ』
さっきの男の人がテーブルに地図を出して説明を始める。僕らは地図の回りを囲んだ。
『表に馬車が置いてあったから何となく分かると思うが、今回諸君には商人が乗る馬車の護衛をしてもらう。馬車の護衛は大変ポピュラーで、受ける機会が多いものだ。だがそれは依頼が簡単である、という意味ではない』
『どこから敵が来るか分からないから絶えず周囲を警戒し続けなければならず、かつ護衛対象にも気を配る必要がある。護衛対象を置いて逃げるなどもっての外、だが戦うか逃げるかの判断は常に適切であることを求められる』
『すなわち、キミたちが冒険者足るか、測るにはもってこいという訳だ』
男の人は地図を指さした。
『さて、今回だが、地図に☆が付いている部分が今いる拠点、そこから北の方にある街までの護衛が依頼だ』
地図を見ると確かに☆印があって、その上の方に街らしきものが書いてあった。
『ここと街の中間くらいに野宿ができる簡易広場があるが、ここから広場まで一日、広場から目的の街まで二日、計三日の道のりとなる』
『ここは大きな都市が近いから大型の魔物は出ないと思うが、小型の魔物、あるいは野盗の類が出る可能性がある』
『戦闘が起こると予想されるポイントは三か所、ここと広場の中間に一つ、広場と街の中間に二つだ』
それぞれのポイントを指しながら説明は続く。
『分かっているとは思うが、護衛の場合避けることが可能は戦闘は極力避けろ。どうにもならないときだけ実力で排除するんだ』
『今回は俺も試験官として同行するが、極力手は出さない。食事の世話などもいらん。いないものとして扱え』
『以上だ。何か質問はあるか?』
僕はじっと地図を見つめる。……これから何が起こるか分からないので、そもそも疑問が浮かばなかった。
『よし、では各自準備を整え一時間後に集合しろ。では、解散』
>ブリーフィング終了
◇◆◇◆◇-------------◇◆◇◆◇
僕は建物の外に出た。
>Main Objective Update
>『装備を整える』
「ブランくん、頑張ろうね!」
「あ、うん。えっと……」
システムメッセージを見ていると、茶色がかった長い髪の女の子が話し掛けてきた。
「わたし、マロンだよ!今日はよろしくね!」
「うん、よろしく」
「緊張するねえ」
「そうだね、頑張らないと…」
「それはそうとブランくん、装備とかアイテムは?」
「あ、そういえば……。何も持ってないや」
「じゃ、あそこで揃えようか!」
指差した先には、露店のようなものが見えた。多分あれのことかな……。僕はそのお店に向かった。
「いらっしゃい! あんた、これから卒業試験を受けるんだろ! しっかり準備してけよ!」
お店を見ようとすると、目の前にウィンドウが現れた。……これで買い物をするらしい。ヘイムダルさんの声が聞こえてきた。
《ブランさんのジョブならここで売ってる武器は全て装備できますが、盾は装備できません。防具は重装備のものは付けられないので、気を付けてくださいね》
「はい、気を付けます。……色々あるんだなあ」
ウィンドウをいじりながらどれを装備しようか考える。防具は重装備のものはダメって言われたから、この『初心者軽装備セット』でいっか。武器は……、う~ん。
剣(オーソドックスな武器、斬る、突く、なんでもお任せ。冒険者といえばこれ!)、杖(魔法の杖、魔法の威力を上げる、でもこれで殴られるとそれはそれで痛い)、ナックル(拳一つで戦いたいアナタにおすすめ、突き指に要注意!)、槍(突いてよし、斬ってよし、棒術にも使える長物、ヒュンヒュン回して無双気分を味わおう!)、色々あるけど。……おや? これは……。
僕は一つの武器に惹かれた。それには『長剣』と書いてあった(普通の剣よりも長く、威力が高い、でもちょっと扱いが難しい。背中に背負えば一流冒険者の風格が出る……かも?)。普通の剣じゃ、ちょっと短いかな~、と思っていたので丁度良かった。武器は長剣を選んだ。
《あ、そういえば忘れてました》
ヘイムダルさんの声が響く。
《装備している防具をアバターに反映させるか、させないか選べるんですけど、どうします?》
「どういうことですか?」
《えーと、あなたが買った装備、アバターに反映させると、服の上からその装備を着るような見た目になるんだけど、反映させないと装備していても見た目は服のまま。装備を見せないで冒険したいって人が一定数いるのよ。で、どっちにする?》
う~ん、そうだなぁ……。
「……見せない方向で」
《おっけ。じゃ、そういう風に設定するからね。そうしたら、今買った装備を付けてみようか。『メニュー』って念じればいいからね》
言われた通りに念じると、目の前にメニュー画面と思われるものが出できた。
《目でメニューを追って、念じればいちいち手を動かさなくても操作できるからね。買った装備は『インベントリ』ってとこに入ってるから、そこから出して、それぞれ装備できる部位に持っていくだけ。簡単でしょ?》
早速装備してみることにした。防具を装備できる部位は『頭』、『胴体』、『両腕』、『足』の四つ、それにアクセサリを付ける枠が一つあった。『初心者軽装備セット』には『胴体』、『両腕』、『足』の装備があったので、それぞれの部位に付けた。
一方、武器は『右腕』と『左腕』に一つずつ付けられる。僕はさっき買った長剣を『右腕』に付けた。
《はい、お疲れ様。これで装備はできました。今アバターは武器を出していない状態なんだけど、武器を出すには装備している方の腕を軽く振って念じるの。ちょっとやってみて》
長剣を付けたのは右腕だったから、右腕を軽く振って、剣を出すイメージをした。すると、青いエフェクトが散り、右腕に長剣が握られていた。
「……おぉ」
《武器を仕舞いたいときも軽く腕を振って、念じるだけよ》
さっきと同じようにやると、また青いエフェクトが出て、武器が消えた。
「かっこいい……!」
感動していると、横で見ていたマロンが話し掛けてくる。
「ふふ、はしゃいでる。装備は揃ったけど、アイテムも買わないとね?」
「あ、そうだった」
またウィンドウが開く。アイテムセットは、これかな。アイテムセットを買うと、インベントリに仕舞われた。
《アイテムはインベントリからでも使えますが、いちいちメニューを開けなければいけないので、すぐ使いたいものは『ショートカット』に入れると便利ですよ》
ヘイムダルさんに言われる通り、ショートカットに回復薬や毒消しなんかを入れた。
「よし、これで大丈夫だね。じゃ、戻ろっか!」
僕は一緒に試験を受けるNPC達のところに向かった。
>Main Objective completed
>Checkpoint Reached
今回からここにミッションの状況を書きますので、進行状況のご参考にどうぞ!
┏── Progress ──┓
《Mission Objective》
・街まで馬車を護衛する
《Main Objective》
〇 装備を整える
《Sub Objective》
┗──── ────┛
※上のレイアウトは気まぐれ……、じゃなかった、アップデートで変わる可能性が”大”ですのでご了承ください(運営より)
さあ、次回からいよいよ出発ですよ!