選択肢が少ないと不満に思うけど、選択肢が多いとそれはそれで迷う
え~、続けてキャラメイク~、キャラメイク~。
あ、本文中で法律だのなんだの言ってますが、まあこの世界での話ってことで一つ……。
でもそのうち実現しそうじゃないですか?
VRゲーム用のゴーグルをかける。ひと昔前は人が寝れるようなベッドタイプのとても大きな機械を使っていたけど、改良が進んでゴーグルタイプにまで小さくなった。ヒトの脳波とか、電気信号にちょっとだけ干渉して、リアルに感じられるようにしているんだそうだ。
ゲームを起動する。真っ暗だった目の前に、電子の世界が広がる。
《ようこそ。ただいまナビゲーターが参りますので、少々お待ちください》
そんな案内が聞こえてきた。すると、青っぽいような、白っぽいような世界に、一人の人間が現れた。
「はいはい、初めまして! この世界にようこそ!」
若い女の人だった(まあ、高校生である僕よりはきっと年上なんだろうけど)。
「あ、こんにちは……」
元気よく話し掛けられて、僕は戸惑ってしまった。
「あ、驚かせてしまってごめんなさいね。私はこのゲームのナビゲーターを務めます、『ヘイムダル』と申します。よろしくね!」
「ヘイムダル……さん? 世界の監視者?」
「お、さすが、話が早い! そう、私はこのゲームの監視者、いわゆるゲームマスターも兼任してるのだ!」
びしっとVサインを出された。キャラクターは可愛いから似合うんだけど、ぐいぐい来る……。
「まあ、だらだら話してても仕方ないし、先に進めちゃいますからね。ここではあなたのゲームの中での分身、アバターを作ります。キャラクタークリエイトってやつですね」
「あ、はい」
「うん、で、早速作りたいと思うんだけど、先にこれだけは説明させてください。でないと、私達が捕まっちゃうからね」
僕は一つ頷いた。
「うん、ありがとう。さて、一つ目はこのゲームをプレイして頂くうえで得る、あなたの個人的な情報については全てこのゲームを運営したり、あなたの手助けをするためにしか使いません。それ以外の用途で外に出すことは決して無いし、セキュリティをしっかり掛けます。問題なかったら同意のボタンを押してね」
すると、僕の目の前に画面が一つ出てきた。画面はスクロールできるけど、さっきお姉さんが言ってたことが遠回しにずらずら書いてあった。ななめ読みした後『承諾する』のボタンを押した。
「ありがとうございます! 次にアバターについてなんだけど、最近制定された『VRコミュニティ法』っていう法律に基づいて、違反しない範囲でしか作れません。具体的にはリアルの身体的特徴をそのまま使うとか、身長、体重を極端に増減させることはできません、OK?」
これは最近ニュースとか、新聞でも結構大きく取り上げられていた。VRゲーム上でのコミュニケーションが活発になったことで、そういう関係の犯罪も増えたんだそうだ。後は元の体とかけ離れたアバターを作ってしまうと、現実の生活で体の動かし方がおかしくなってしまう、というのもあるらしい。
僕はまた出てきた画面の『承諾する』のボタンを押した。
「よし、じゃあアバターを作ります。今あなたの現実の体をスキャンしますからね」
そう言われてしばらく、特に何も感じないまま待っていると、お姉さんの横に僕の体が現れた。まるで全身鏡を見ているみたいだ。
「はい、完了。え~と、現実でのお名前は、『名代 白亜』さん?」
あっと。忘れてました。僕の名前は名代 白亜。名前は女の子っぽいけど、れっきとした男です。
「今どきの高校生にしては、ちょっと痩せ気味ですかね~、ちゃんと食べてます?」
「……余計なお世話です」
ちょっとムッとした。
「あ、ごめんなさい、からかうつもりは無かったんです。ここからアバターをいじります。さっき言いましたけど、このまま使うのはダメですからね?」
僕はまた一つ頷いた。
「一番簡単で分かりやすいのは、ヘアースタイル、髪の色、顔の造形、目の色なんかを変えるくらいですね。どんな感じにします?」
「う~ん、髪をちょっと長めにして、色を変えちゃおうかな…、顔もおかしくならない程度に変えて…」
「じゃ、こういうのとかおすすめですよ?」
しばらくして。僕はヘイムダルさんと調整したアバターを見て、
「これでお願いします」
「はい、法律の範囲内に収まってますね、問題ないです! そうしたらこれで登録します。ちなみに、ヘアースタイルとかはゲーム中でも変えられますからね」
ちょっと時間がかかったけど、現実では見ない、アニメのようなアバター。僕は満足した。
「で、次は一番初め、初期のジョブを決めましょう」
ヘイムダルさんが言うと、画面にジョブの一覧が出てきた。
「剣士、戦士、魔術士、格闘家みたいな有名どころから、マイナーなものまで色々揃えてますよ!」
「すごい…、本当に色々あるんだ」
「時間はありますから、ゆっくり考えてくださいね」
面白そうなジョブがたくさん…。どれにしよう…。画面をスクロールしていると、一つのジョブに目が止まった。
『マルチウェポン・ハンドラー』
「これ……」
「あ、それですか? それはゲーム中の武器を全種類使えるようになるんですよ! 他のジョブだと使えない武器が出るんだけど、このジョブなら関係なし!」
「そうなんですか?」
「そう、なんだけど弱点もあって、他のジョブだと武器の適正値、――まあ、合う合わないのあれだと思って――、が最大のものがいくつかあるんだけど、このジョブにはそれが無いの。どうなるかというと、武器に特殊な効果が付いていても、使えなくなっちゃうんだな」
「え? それは……」
「うん、このゲームでも武器に特殊な効果が付いている物はたくさんあるから、そういうのが効果を発揮しないの。それを他の武器で補うのがこのジョブ! さあ、どうする?」
デメリットを聞いて、ちょっと心が揺らいだ。でも、『ちょっと』だけ。つまり、僕の心は決まっていた。
「マルチウェポン・ハンドラーで、お願いします」
「オッケー! これでアバターの作成は終わり! お疲れ様でした!」
やっと終わった。何か、これだけでも満足しちゃいそう……。
「こらこら、まだゲームは始まってもいないんだよ! そうしたら、これからチュートリアルが始まるから、そこでゲームの基本を覚えてね! 一応私もフォローに入るけど、基本的には説明してくれる男の人の言うことに従ってね」
「はい。……その、ありがとうございました」
「あはは、律儀だね。でも、こちらこそありがとう。さあ、これからあなたを広い世界が待っている。どんな冒険になるかは、あなた次第。どんな結末になったとしても、あなたが楽しんでくれることを祈っています」
ヘイムダルさんが言った直後、電子の世界の上に空が、下に地面と海が現れる。圧倒的な景色に、僕は目を奪われた。
「ようこそ、『BRAVE NEW WORLD』へ」
「『BRAVE NEW WORLD』? ……勇敢な、新世界?」
「直訳するとそうだね。でも私達は、古い小説のタイトルから取って、こう言うの」
目の前が白くなる。ヘイムダルさんの声が遠くなる。でも、最後に言った言葉は、なぜかはっきり聞こえた。
「素晴らしき、新世界ってね」
ああ、次はチュートリアルだ……。
チュートリアルなしってのも話が早くていいですが、あったほうが親切は親切ですよね。
でも要素が多すぎると覚えきれないという……(ワタシのことですとも、ええ)。
周回プレイで飛ばせないチュートリアルもカンベンです! もう聞いたっつーの!