いざ、ギルドへ
今回からゲームに戻りますよ~。
家に帰ってきた僕は手を洗い、うがいをして、学生服を脱ぎ、それをハンガーにかけて、水分補給とおやつを食べる。家の戸締りを確認して、それからゴーグルをかける。この間五分。新記録かな?
そしてBRAVE NEW WORLDを起動。昨日ぶりのメニュー画面が出た。啓介達と合流すると学校で話したので、今日はマルチプレイ、『グローバル・ストーリーズ』を選んだ。
◇◆◇◆◇-------------◇◆◇◆◇
《ようこそ、グローバル・ストーリーズへ!》
気付くと僕は、遥か上空の透明なガラスの箱にいた。下に広い、大きな世界が広がっている。
《ブランさんを世界に放つ前に、現在進行中のストーリーを上映いたします》
チュートリアルでお世話になったヘイムダルさんの声ではない、別の人の声がした。それにしても進行中のストーリーって……?
目の前にスクリーンが現れる。そして荘厳な音楽が。
『遥かな昔。今ほど文明が発達していなかった時代。人々は遥かな高み、神の御座を目指した』
『そのために人々は団結し、高貴な目的の元、一つの塔を築いた』
『だが、それをよしとしない神々は、人々が築いた塔を崩し、言葉を乱した』
これは……、よく神話とかで聞く、バベルの伝説?
『塔を崩された人々は神々の威光を恐れ、畏れ、憎んだ。そうして言葉を乱され、様々な感情を抱えた人々は世界各地に散った』
『そして後には、天を衝く塔の伝説のみが残った』
『そして今、伝説が蘇る』
……んん?
『ある神は考えた。これを我が御座としよう、人々が作り上げた結晶こそ、我にふさわしい、と』
『そしてこうも考えた。我は人の意志を見たい。この結晶を作り上げた当時と同じ情熱を感じたい、と』
『だから神は自らの声が聞こえる人々に宣告した。この塔を登れ、と。我の元までたどり着いてみせよ、と。一番先にたどり着いた者に莫大な報酬を授ける、と』
『今、塔は顕現した。冒険者よ、登れ。栄光を、この手で掴んでみせよ』
《グローバル・ストーリーズ:バベルズ・ゴッドシート》
上映が終わり、スクリーンが消えた。
《グローバル・ストーリーズでは、ある一つの目的に向かって、世界中の冒険者たちと時に協力し、時に敵対しながら進んでもらいます。目的が達成されたら、次のストーリーが始まるのです!》
「ふぅん……」
今から参加しても特にうまみは無さそうだなぁ……。
《バベルの頂上にたどり着いた最初の方には大変レアなアイテムや武具がプレゼントされますが、二番目以降にたどり着いた方にも当然ご用意しております!》
あ、そうか。そりゃあ、最初にたどり着いた人の独り占めじゃ、やる気なんか出ないもんなぁ。
《更に更に、バベル内のどこまで登ったかによっても、それに見合った報酬を用意してございます! 遅れたからと諦めず、是非挑戦してください!》
おぉ、そりゃすごい。まあ、もらえるものはたかが知れてるだろうけど、何ももらえないよりは断然いいだろう。
《では説明はここまでです! 今からエウロパ魔法諸国の首都、『ロンド』に転送します。良い冒険者ライフを!》
その言葉の後、僕の体は光に包まれた。
◇◆◇◆◇-------------◇◆◇◆◇
光が消えると、目の前に丸い光が浮いていた。……ってあれ?
周りをきょろきょろする。空が薄暗くなっているせいか、あちこちに浮いている丸い光が街並みを幻想的に照らしている。建物は『ファンタジーです!』と自己主張をしているかのような造り。と、いうことは……。
「ここが、ロンド……?」
僕が降り立ったのは紛れもなく、エウロパ魔法諸国、その首都であるロンドだった。僕は改めて、この世界に立つことができたのである。
「えーと確か、最初はギルドに行くんだっけ」
ヘイムダルさんからも言われていたことを思い出す。最初にギルドに行こう。……でも。
「ギルドって、どっち……?」
初めて来た街で、見たことも無い場所に行くスキルは僕にはありません……。と、うなだれたところで、はたと思った。
「そういえば、メニューで地図みたいなの、無いかな……」
メニューを開けてみると、やっぱりあった。ロンドの全景図だ。ていうか、デカ! 広! 何ここ!? 地図があったのはいいけど、広すぎじゃないですかね……。でも、そんなこと考えてても仕方ないので、ギルドを探そう。
「あ、あった」
どうやら地図をタップすると、そこを目的地にできるらしく、その地点にマーカーが出るようだ。自分の現在地を確認して、ギルドの方向を見ると……、おー出てる。じゃ、行こう。
◇◆◇◆◇-------------◇◆◇◆◇
右を見て、左を見て、時々上を見て下を見て、時たまマーカーを見る。完全におのぼりさんの反応である。だって街並みがすごいキレイなんだもの。ヨーロッパの夜の街並みに、ふわふわと光が浮かんでいる。こんなところを能面のような無表情で目的地に向かって歩けますか?
何か通り過ぎる人にクスクス笑われてる気がするけど、気にしない。多分口を半開きにしてぽけーっと歩いてたからだろうけど、絶対に気にしない!
……なんて考えてるうちに、ギルドを示すマーカーの真下に着いた。つまり、今自分の目の前にあるこの建物が、ギルドなんだろう。早速入ってみよう。
ぎぎっという音と共にドアを開く。中は結構にぎわっている。頭の上にキャラ名が出ている人が多く、結構プレイヤーの人がいることが分かる。
中を見て、受付みたいなところがあるかを探す。カウンターぽいのがあるけど、多分あれかな。職員みたいな人も座ってるし、行ってみよう。
「すみませーん」
「はいはい、何でしょう?」
僕の応対をしてくれたのは、金髪の若い女の人だった。
「あの、僕、ここ初めてなんですけど……」
「あ、はいはい、新しい方ですね。冒険者の登録でいいですか?」
「あ、はい」
「そしたらこの水晶玉に利き手を置いて、しばらく待っててください」
そういってカウンターにでんと置かれたのは、両手に収まりきらないくらいの大きさの丸い玉。これが水晶玉なのかな。利き手と言われたので、僕は右手を置く。
「はい、もう少し待ってくださいね。……ちゃんと出てますね、……はい、OKです」
>ギルドの各施設が利用可能になりました
システムメッセージが出た。
「そうしたら簡単にギルドの説明をしますね。ギルドでは冒険者の方たちに色んなお仕事を紹介しています。冒険者の方はそれをこなして経験を積んで、お金を稼ぐ、ということですね。受けられる依頼は向こうのボードにまとめてありますので、後で確認してみてくださいね」
「はい」
「あと、ギルドでは基本的な動きとか、スキルの練習ができる訓練場をいつでも開設してます。不安であれば、そこで訓練をしてから出かけるのがおすすめですよ」
あー、これが先にギルドに行った方がいい、っていう理由だったのか。確かにチュートリアルの戦闘だけじゃちょっと不安だったし、丁度いいかも。
「後、酒場も併設してますので、パーティーを探すのにも良いと思いますよ。た・だ・し、トラブルを起こしたり、みだりに物を壊したりしたら、こわーい教官が飛んできてペナルティを与えますので、そこはお気を付けください」
「は、はい」
こくこくと頷く。女の人は満足そうに微笑んだ。
「後何か分からないことがあったら、この建物にいるギルドの職員に聞いてみてください。今分からないことはありますか?」
「え~と……、ギルドの中の案内みたいなのってありますか?」
「あ、それはカウンターの右、そこに貼ってある紙を見てください」
「あ、あれか。はい、ありがとうございます」
「いえいえ。何か困ったことがあったらいつでも来てください。では、良い冒険者ライフを!」
僕はカウンターの右にある案内図を見る。結構広いなぁ。取りあえず、いきなりミッションを受けに行く前にちょっと中を見てみようかな。
バベルの塔。多分ダンジョン化したら相当面倒な構造になるでしょうね。
お前のことだよ。ゼ〇ギアス……。