RTR<リターン・トゥ・リアル>
画面の前の良い子は、ゲームをやるときは適度に休憩しようね!
遊びは本気でやらないとつまらないけど、人生を生贄に捧げてゲーム時間をアドバンス召喚しちゃダメだぞ!
僕はゲームを中断することにした。メニュー画面から『ゲーム終了』を選ぶ。するとメニュー画面が少しずつ薄くなっていく。
――VRゲームが浸透していくにつれて、ある一つの問題点が浮かんできた。それは「現実とデジタルの区別がつかなくなること」。何しろ実感として感じられるものだから、今自分がいるここが果たしてリアルなのか、デジタルの世界なのか、分からなくなってしまう人が出たのだそうだ。
前にインターネットで読んだ話がある。ある大作RPGが発売され、それを心待ちにしていた大学生が徹夜でやり込んだというのだ。
翌日の朝、学校に行こうとしたが、お金が無いことに気付き、こう考えたという。「途中でモンスター倒して金を手にいれればいいか」。玄関を出たところで急に正気に戻り、その日は授業を休んだそうである。
この時はただの笑い話だったんだけど、本気でそう考える人が出た、ということらしい。そんな訳で脳神経だったり心理学だったりの専門家が知恵を捻り、リアルとデジタルの区別ができるようにする仕組みを考えた。
今のVRゲームにはその仕組みを載せるのが義務付けられていて、今僕の目の前でやられているのが正にそれである。この仕組みを戦闘機なんかが基地に帰還することを言うRTBになぞらえて、RTRと呼んでいる。
と、RTRが終わった。僕はヘッドセットを外す。もう外は暗くなっていて、下から晩ご飯の良い匂いがしてきていた。
「ハクー、ご飯!」
お母さんの呼ぶ声が聞こえた。……下に行こう。
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さて、今更ながら我が名代家の家族構成を紹介すると、父、母、僕、あとペットの柴犬の三人と一匹家族。お父さんもお母さんも会社勤めだけど、出張が頻繁にあるような仕事じゃない。学校が終わる時間はまだ仕事だから、僕は鍵っ子なのである。
今日は残業が無かったようで、お父さんも晩ご飯までには帰ってきていた。そんな訳で今日は三人で食べる。
ついでに今日もペットの『ごはんくれ』光線に耐える仕事もついてきた。膝に前脚を乗せてアピールしたり、おすわりしてこっちを見てくる。でも犬には塩気が強いからあげられないなぁ……。
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晩ご飯を食べ終わり、お風呂も入って、明日の準備をする。明日は学校だから、必要な教科書を詰める。と、勉強机の上のARフォン(スマートフォンの後継だよ)が震えた。
「『明日もいつもの場所で待ち合わせ』……か」
明日登校するときの待ち合わせのメールだった。普段は割りといい加減なのに、こういうところだけきっちりしてるからなぁ……。取りあえず返信しとかないと。
「『了解』……と」
さて、ゲームの方はどうしよっかな。もう一回やりたいけど、なんだかんだ結構経って、もう遅い時間だし、ちゃんと寝ないと明日にも響きそうだし、今日はもうやめとこうかな。代わりにBRAVE NEW WORLDのサイトとか、Wikiとか、そっちをチェックしとこう。
明日はささっと帰って、そうしたらゲームしよう。いつの間にか部屋に入ってきてた柴犬のチョコを撫でてあげる。チョコはにっこり笑って、尻尾を満足気に振りながら自分の部屋に戻っていった。僕ももう寝よう……。
リアルの生活はもうちょっと続くんじゃよ?