明滅
モンタナ州を東西に横断するハイウェイ191号線がある。その191号線に面しチェスタナットの街の手前10マイルもしないところにそのダイナーはあった。
名前は、ケインズ・ダイナー。
アメリカの中西部ならどこにでもある食堂。
日替わりメニューもスペシャルメニュ-も取り立ててうまいものは、なし、チェスタナットに務めるか住んでいる人間の胃袋を満たすためだけのダイナーだ。
店の名は、ケインズだったが今では代替わりしていて、店主はケインではない。
店主は、ロブ・ヒックス。60代の半分アル中の親父が店を切り盛りしている。ロブが隠し持ったウィスキーの小さなボトルを煽りながら働いていることは、店の常連なら誰でも知っていたが、誰も咎めないし、誰も責めなかった、こんな中西部の田舎ではでは男は40代も過ぎると生き方を変えさせることは誰にもできなかった。神でも無理だろう。
カウンター席はL字型に曲がり15席ほど。テーブル席は詰めれば、6人ほど向かい合って座れ、5セットほどある。入り口のスイングドアの上には、雉撃ちに偶々出かけたビル<首かしげ>ホランドが誤って仕留めた、ヘラシカの剥製の首がにゅーっと店内に突き出ている。剥製にした職人が鹿の剥製には慣れておらず、ヘラジカの口の周りが不自然にしがっていた。
店の客でこのヘラジカに気に留めるものは誰もいなかった。仕留めたビル<首かしげ>ホランド自身でさえ忘れていたのだから。
ロブ・ヒックスは、新しいメニューを考えることも放棄し、ひたすら、自分が作れるメニューだけ作り、サラを洗い続けていた。シチュー鍋など、カーター大統領の頃から洗っていなかった。
店員は、二人。もちろん、女性。料理ができない男が食べに来るのだ、男が待っていては、喧嘩になる。
一人はカラミティー・ジェーン。元チェスタナット一の美人にしてグラマー。先代のケインが店主のときは、チェスタナット一の女にして看板娘だったが、今では、Kマートのブラジャーでどうにか作っている、そばかすとシミだらけ胸に谷間しか男をの目を引きつけるものはなかった。それもブラジャーを外せばどうなるか、しれたものではない。しかし、今でも、髪だけは、きれいにブロンドに染め上げていた。とっくに白髪が 生え交じる年頃だろうにこの部分だけは、譲れないらしい。
そしてもう一人は、チェスタナットの反対側から時々エンジンがかからなくなるスズキのスクーターにのってやってくるウェイター、イヴォンヌ。20代。今ではこのイヴォンヌこのダイナーの看板娘だったが、メガネをかけ器量は普。しかも、スズキのスクーターを押しつぶしそうなほど太っていた。お尻はでかかったが、胸は、カラミティ・ジェーンよりはるかに小さかった。体型はほとんどビヤ樽。料理が全くできず、このダイナーで出る"まかない"目当てに働きに来ていた。そして、残り物を休みの日は盛大に持って帰る。イヴォンヌの食生活はこの店を訪れる他の客と同様完全にここの料理に依存していた。モンタナの冬はスクーターなどとういう乗り物を受け付けなかった。特に、スズキはだめだった。冬はイヴォンヌは自身の体重を速度エネルギーに変え、スキーでチェスタナットから滑降してきた。体重は速度に変わることをチェスタナットの高校では物理の時間に教えていた。帰りか行きか、その逆をイヴォンヌがどうしているのか、誰も知らない。
そして、この女性二人は、アル中のロブを含めて三人共ほとんど口を利かなかった。三人共に世代がバラバラ。世代差がこれほど、人を遠ざけるものなのかという例より、人間長く一緒に過ごすと話さなくても意思の疎通ができるようになるといういい例だった。
もう話す話題がないのだ。天気ですらこのカ三人のードでレイズし続け一周したところで、話題が完全がつきていた。来年も今年も
またほぼ同じ一年がやってくるだけだった。
店内の気晴らしは、地方紙の新聞のクロスワードとライフ紙、カウンターの斜め上に置かれた、油でギトギトですべてが黄色に見えるテレビだけだった。
これは、ある意味、アメリカの中西部でよくある軽い刑罰だった。その名も退屈の刑という。
休憩時間になると、ロブとカラミティ・ジェーンは、店の裏口から出て、半分店の外に飛び出た壊れかけた冷凍庫のわきでその冷凍庫によりかかりマルボロのタバコを吸うそれだけだった。見えるのは、嫌になるほど、でかいアメリカン・レッドシダーたちだけ。この杉の木は語りかけても、答えてくれなかった。
一応店内の禁煙は州の条例で守られていた。チェスタナットの保健衛生担当のうるさい女性町会議員との熾烈な6日間戦争ののちにケインズ・ダイナーは陥落した。しかし、この女性町会議員がこの店に客として訪れたことは一度もなかった。
メガネのイヴォンヌはタバコを吸わなかった。その分、余ったデザートをシンクのディスポーザーより効率的効果的に処理していた。
イヴォンヌが痩せることはない。
チュエスタナットには、有名な刑務所があった。その名もチェスタナット刑務所。そこの刑務官、とその家族が落す金だけで、この街はなりたっていた。ケインズダイナーも例外ではない。
客の7割は刑務官だった。出所した前科者がこの店にやってきて、食事をすることは、人の精神構造上、絶対なかった。
チェスタナットに止まり出発する一番早いグレイハウンドに乗ると、ロケットかジェット機のようにチェスタナットを離れた。
人とはそういうものだった。
だから、チェスタナットは治安はよかった。しかし、これにも理由があった。それがこのダイナーやカラミティ・ジェーンに関わってくる。
初夏が訪れようとしているある夕方。夕方は、モンタナ州にもこのケインズ・ダイナーにも平等に訪れた。
一人の刑務官が茶色の征服のままケインズ・ダイナーに訪れた。名前は、チャールズ・アイヴァーソン。年の頃は背が高く、年の頃は、60代手前、ベテランの刑務官である。制服に一片の違反もない。髪は銀髪ながら短く刈り上げられ、目つきはワシのように鋭い。
「いやあ、ロブ」
チャールズ・アイヴァーソンは、そういうや、カウンター席の真ん中に座った、店内は込み出す頃合いだった。仕事を終えた刑務官に国立公園の森林保安官、チェスタナットの小さな商店主たち。後者の二つの群は少なかった。
「なんだね、チャールズ」この二人は、どう世代だった。ロブ・ヒックスのエプロンに白いところなどなかった。
「あんたがウチに来るなんて、珍しいいことだろう」そうロブが言った。
「うん、まぁそうでもないさ」
チャールズ・アイヴァーソンには、ちゃんとした家庭があり、糟糠の妻が毎晩料理を作り待っていた。しかし、土日に勤務が入っていない金曜の晩だけは別だった。店内のどこかの席にどかっと座ると、最初は、バドワイザー、次にワイン、そしてウィスキーとアルコール度数に比例して、加速して、飲んでいき、最後は、フラフラになり、歩いて、自分の家まで帰った。
しかし、それも月に二度程度。
そこに、これほど、だるい仕事はないといった感じでカラミティ・ジェーンが胸のブラウスのボタンを開けに開けてふらふらやってきて、メニューを訊きに来た。
チャールズ・アイヴァーソンからすると、中年のジェーンなど娘っ子である。
「おお、ジェーンか、コーヒーぐらいわ、貰おうかな」
チャールズ・アイヴァーソンが言った。
カラミティ・ジェーンは、微妙に首を下げるとこれが聞こえたというサインだった。イヴォンヌに小さく左手の指一本を上げた。これがコーヒー一杯のサインである。
「実はな、ロブ。明日な、執行がある」
客の誰もが慣れていたが、執行という言葉一つで、ダイナーの中の空気が変わった。
カラミティ・ジェーンは、カウンターの斜め上の油でギトギトのテレビ画面を見た。薄い黄色いユニフォームを着た投手が濃い黄色いユニフォームを着たバッターに対して、インコース低めにストライクを直球でとっていた。ツーシームである。そのボールの際どさにカラミティ・ジェーンもバッター同様顔をしかめた。ボールも黄色かったが、審判も一番濃い黄色だった。
「誰なんだ?」
ロブ・ヒックスが手をエプロンで拭きながら尋ねた。
「一応、内緒なんだが、ヴィンセント・オークリーだ」
「ショットガン・オーか!」
「そうだ」
カラミティ・ジェーンは怒ったように、ジャリンとコーヒーカップとスプーンチャールズの前にを置いたそれと、タブも。
<ショットガン・オー>こと、ヴィンセント・オークリーは札付きの悪だった。
ショットガン・オーの二つ名を貰う前にヴィンセント・オークリーは、ミネスタ州エスタモンドという街からから祖母と一緒にこのモンタナ州チェスタナットにまずやってきた。所謂、親の目の行き届かない典型的な某威力的な不良として育った。このチェスタナットという街はヴィンセントオークリーには小さすぎた。ヴィンセントオークリーには野望が在ったしかし、それは高校時代と同じく、法を遵守したものではなかった。
ヴィンスセント・オークリーはモンタナ州一の都市、ビリングス市に乗り込んだ、それもデザート・イーグル、スウィッチブレードナイフ、12ゲージのショットガンで持てるだけの得られだけの武器で武装して。ここには、同じアイルランド系のマフィア、<ゴールウェイの拳>という組織がった。FBIが全面戦争を挑む犯罪集団である。賭博、竊盜品の売りさばき、関税品の非課税での横流し、武装しての竊盜、恐喝、強姦、傷害、殺人、好都合なことに、モンタナ州はカナダと国境を接していた。<ゴールウェイの拳>のボスの名は、マーク・マクデモルト。ヴィンセント・オークリーは、この世界の男だった。あっという間に昇進した。ときは、まだ80年代だったがレーガンとともに裏社会でこの男は、昇進した。もちろん暴力と非合法な手段でそして、当然収入に応じて税金を払うことなどしていなかった。
しかし、犯罪集団には当然のごとく敵が居た。法を司る男たちである。フェッズ、FBIだ。ヴィンセントオークリーは戦った。文字通り、武器を持って、戦った。このころから<ショットガン・オー>の名を体制側、反体制側からもらっていた。自分で名乗ったのかもしれない。ヴィンセント・オークリーも<ゴールウェイの拳>のボス、マーク・マクデモルトが行きているうちは、一応則に沿って、従って戦っていた。
風向きが変わったのは、ボスのマーク・マクデモルトが赤いキャデラックでブルネットでファックのFのFカップのダフネとともに、ミズーリー川の川底に沈んで発見されたときからである。
事実は、定かでないが、ヴィンセント・オークリーにこのマークマクデモルト殺害の容疑がかけられた。ショットガンオーは、裏切り者として組織、FBIの敵と味方から追われる立場となった。そんな男に安息の地はない。モンタナ中を逃げ回った。収入もあるわけがなかった。そこら辺中を襲い奪いながらモンタナ州をさすらった。こっそり盗むか、派手に盗むか、殺して盗むかの三択しかなかった。手配書はこのケインズ・ダイナーにも貼られた。店で食事をあいたことのある男の手配書を貼るのは、先代のケインもなかったことである。高校生の同級生のカラミティ・ジェーン言った。
「これで、だれも、ヴィンスのことを寂しく思わないわね」文字通りそのために手配書は配られていた。
そのうち、ヴィンセント・オークリーは出会う人間を殺さずには、自分の自由が著しく制限される可能性がる状態へと陥った。
<ショットガン・オー>は、9人を殺した容疑と5件のレイプも含む暴行容疑、23の武装しての強盗容疑、3件の恐喝、どういうわけか、銃の所持許可はチェスタナットでショットガンオーは持っていた。ショットガン・オーは、幸運にも警官を殺していなかったせいで、ボーズマンという街で早朝ドラッグストアの裏で立ち小便をしているところを撃ち殺されることなく、逮捕された。
排泄中に逃走することは誰にも不可能だった。哺乳類全般にいえることかもしれなかった。その時の、ショットガンオーの所持金は、2ドルと17セント。カラミティ・ジェーンに助けを乞う電話ぐらいは出来たかもしれない。しかし、ヴィンセント・オークリーのプライドがそれを許さなかったらしい。彼はどこまでいっても中西部の男だった。
司法サイドは、自分の庭でショットガンオーを切り刻み、組み立て、再度切り刻み、組み立て直し、もう一度だけ切り刻み、そして最後は適当に組み立てた。ショットガン・オーについた国選弁護人は、今まで民事訴訟で20戦19敗1示談の長髪の10年ぐらい遅れてやってきたレーガンミックスのヤッピーだった。レーガンから、ブッシュに大統領が変わっていることを知らなかった。そして法廷まで毎回、ボロボロのヒュンダイでモンタナ州最北部のスィートグラスからほぼモンタナ州を縦断してやってきた。毎回運転の疲労で開廷後しばらくはしゃべれない状態だった。
ヴィンセント・オークリーには、死刑が宣告された。それも5回分。最近のアメリカの司法は、仮釈放なしが適応されるように、死刑にも複数回適応されるようにモンタナ州では州法が最近改定されていた。中西部はまだジョン・フォードとジョン・ウェインの時代をいきていた。キング・プレスリーが死なないように、ウェスタンのキング・ジョン・ウェインも死んでいなかった。
チャールズ・アイヴァーソンは、ほとんど香りも味もしないコーヒーを話しの合いの手としてだけ口に運んでいた。
「で、ヴィンセント・オークリーが言うには、ここのバーガーがその、なんだ、」
「知事の恩赦は出んのか?」
チャールズ・アイヴァーソンはその問に応える気もない様子だった。
「ギロチンか」
「ロブ、何時の時代の話をしとるんだ、電気だ。で明日の昼過ぎ取りに来るので、用意しておいてほしい」
「しかし、最後の食事というと、、」
「ああぁ、望みのままだ、ビリングスあたりのステーキハウスのキロあたり、なんぼだ、のステーキでもと薦めたんだが」
「なんと、、、」
ロブ・ヒックスはそう言うや、一杯ウィスキーを煽った。
もう一度、チャールズ・アイヴァーソンが念を押そうとしたとき、カラミティ・ジェーンが、脇からそばかすとシミだらけ自慢の巨乳を弾ませて、入り込んできて、言った。
「ロブ、私が作るよ」
ロブは二杯目を煽った。これが飲まずにいられるか。
翌日、カラミティ・ジェーンは厨房に立っていた。これは、カラミティ・ジェーンが働きだしてから、数回目のことで、誰も正確な回数はわからなかった。
「やれるのか?」
ロブはそうきいたが最後、いつもの三倍ぐらいのピッチでウィスキーを煽っていた。もう交代は無理だった。
ロブは、煽るたびに、
「ヴィンセントに」そうは言っていた。
「決まってんでしょ」カラミティ・ジェーンは答えた。
しかし、カラミティ・ジェーンは、ゆで卵しか作ったことがなかった。
一度、厨房内にイヴォンヌが入ったときは、新たな殺人事件が起こるのではないかという殺気立った、怒りをカラミティ・ジェーンは見せた。イヴォンヌのお尻はいつでもどこでも大きかった。
昼過ぎ、子供のような、刑務官がケインズ・ダイナーのバーガーを取りに来た。万事がうまくいくようにカラミティ・ジェーンはにらみつけていたが、自分より若い刑務官が来たことを見るや、さっと、厨房から出た。
恐ろしく大きくて焦げたり生焼けのパテと歪なレタスとかけすぎたドレッシングとペッパーと歪なスライストマトは、これまた、超大きなバンズに挟まれていた。そして。ケインズ・ダイナーのロゴの入った、紙袋に。
カラミティ・ジェーンの声だけ、響いた。
「落としたら、殺すよ」
「イエス・マム」正確には、イエス・ミスだった。カラミティ・ジェーンはこれでもけがれなく誇り高きハイミスだった、身持ちは恐ろしく悪かったが。
そこからが、三人には地獄だった。いや地獄だったのは、カラミティ・ジェーンだけか?。
ロブ・ヒックスはもうへべれけで、仕事にならなかった。入ってくる客にもう閉店だからと説明しているつもりだったが、言葉になっていなかった。今宵の酒は口に来るようだった。
幾人かの常連は、勝手に冷蔵庫を明けて、調理せずに済む、料理を出して食べていた。
これは、イヴォンヌも同じだった。イヴォンヌは食べるためにこのダイナーに来ていることは間違いなかった。
カウンターの斜め上のテレビでは、いつもの黄色いチームと濃い黄色いチームが黄色い球場で試合をしていた。
カミソリのようなツーシームが投げられていた。チェンジになった。しかしCMもやっぱり黄色だった。
それは、突然だった。一瞬だけ、ケインズ・ダイナーのすべての電燈、黄色いテレビが一瞬弱くなり明滅し元に戻った。執行されるときにだけチェスタナットの街全体でおこる現象だった。
カラミティ・ジェーンは、
「ぎやぁぁぁぁぁぁ」と叫び慟哭すると、裏扉から出ていき、冷凍庫に頭を打ち付けて、泣いた。額が割れて血が出た。
カラミティ・ジェーンが今着ている服もヴィンセント・オークリーが送金した金で購入したものだった。頭のブリーチ代も。ただヒールが高いだけのシアーズの靴も。極め付きは、このKマートのブラも。全身<ショットガン・オー>が稼いだいや作った金で購入されていた。
合法、非合法手段はわかるわけがなかった。