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呪歌の姫

作者: 藍絃

運命の日が来る―前日―


今日は“運命の日”の前の日です。

 明日を待つには時間がたくさん残っているので、今日は日記と一緒に私の住む一族について書き記すことにしました。


私の一族は“唄い手”と言われ、歌うものはすべて“呪いの歌”と呼ばれているみたいです。

 “呪い”

 それがどんな意味なのか、先代たちの記憶を辿っても、誰も知りません。

 私たち女性は、成人する16歳まで、一度も休まず歌い続けるのです。

 止めようとしても、止め方が分からないのです。

 昔、私たちの住む森にやってきた“ゆうしゃ”という人が、止めようとしていましたが、急に苦しみだして、持っていた剣で自分を殺してしまったのです。

 どうしてでしょうか?

 聞いても、誰も知りませんでした。

 次に来た“ゆうしゃ”さんは、私の“ひい”が幾つつくか分からないくらい、前のおばあさまを殺してしまいました。

 次も、次も。

 何度も、何度も入れ替わりに“ゆうしゃ”はやってきます。

 でも、誰も私たちを助けては、救ってはくれないのです。

 一族の男の人たちは、成人した私たちと、次の“お姫さま”を産むために、私の住む“唄い手の神殿”から出ていきます。

 私たちは森の妖精さんたちから、少しの妖気と、生気をもらって生き永らえています。

 “ゆうしゃ”の来るその日まで生き続けるためです。

 そろそろ、私たちの「前の」が幾つつくかわからない長様が言った“運命の日”がやってきます。

 歌いながら筆を執るのも疲れたので、今日はもう休むことにします。


運命の日が始まる―当日―


今日は少し神殿から出てみることにしました。

 久しぶりにお父さまの顔を見ることができました。

 “ゆうしゃ”の仲間を1人やっつけたそうです。

 あと2,3日もしたらここへ辿り着くそうなので、神殿へ戻ることにします。

 書く内容が少し減りました。

 先代の記憶が鮮明に、“運命の日”とは私たちのいる森に“ゆうしゃ”が入り込んだ日から始まるものだと教えてきたので、少し“そん”をした気分です。

 なので今日は、私たちの住む森に思いを馳せることにしました。

 もうすぐお別れと思うと、悲しいです。

 

運命の日―2日目―


“ゆうしゃ”が近づいてきているみたいです。

 成人したお姉さまが、“ゆうしゃ”の仲間を1人捕まえてきました。

 これは、私の覚えている会話の内容です。

 私の声は、歌を歌い続けているので、お母さまが私の言いたいことを言ってくれました。


「何故殺すんだ!俺たちは何もしていない、ただ幸せに暮らしたいだけなんだ!!」


『ころす……それは何ですか?』


知らない言葉に、興味津々で聞けば、捕まえられている男の人は怒りました。


「とぼけるなっ!!」


とぼけるとはどんな意味なのか、聞きたかったけれど、また怒られるのは嫌だったので、そのまま会話を続けることにしました


『ねえ、教えて』


そのまま彼は、戦う道具もないのに私に向かってきました。玉座の前で、彼は私の周りにいるお姉さまたちに、体を押さえられました。


「離せっ!人の命を奪うだけの略奪し……ぐがっ、はぐぁあぁっ?!」


急に、彼は苦しみだしました。

 気持ち悪いです。

 でも、私は唐突に“ころす”ということが、人の命を奪うことなのだと、理解できました。

 あとで、お姉さまに話したら「偉いわね」と褒められました。嬉しいです。

 彼はその後、口から泡を吹いて最後に「歌を……」とだけ残して、二度と動かない塊になってしまいました。

 もしかして、これが“殺す”ということなのでしょうか?


運命の日―3日目―


ついに“ゆうしゃ”がやって来ました。

 彼はとても怒っていました。

 私たちが捕まえて、殺した女の人が“ゆうしゃ”のとても大切な人だったみたいです。

 私の歌が止みます。私は、成人したようです。

 もう、筆は執れないようです。



――ここで日記は終わり、血糊で綴じられていました――



日記を閉じました。

 私は“ゆうしゃ”をしっかりと見ました。

 どうやら怒っているようです。

 成人したら、先代の記憶は新しい“お姫さま”のところにいくのに、私や、前の“お姫さま”の記憶は抜けていきません。

 “ゆうしゃ”が口を開きました。


「お前が……お前がっ!!」


怖いです。

 彼はとてもとても怒っているようです。

 剣を私に刺そうとしましたが、お母さまが止めました。お母さまの体から、剣の輝きと、赤い液体が流れていきました。

 どう表現したらいいのか分からない大声でした。

 それは“悲鳴”だと先代の記憶が教えてくれました。


「お母さま!!」


歌以外で出す声は初めてで、大きく響きました。

 お母さまは、口から血を吐いて、とても苦しそうだった。

 私がどうにかしないと。


「“ゆうしゃ”……お母さまを…よくもぉっ!!」


いたい。

 頭が、いたい。

 誰かが、呼んでいる。


歌いなさい――。


聞こえる。

 “わたし”を呼ぶ声。

 “ゆうしゃ”は私のお腹を剣で刺した。

 熱いです。痛いです――っ!!


『ひ、きゃあぁあぁあっ!!』


え、私じゃない声が重なってる。

 1人じゃない、もっと多くの、たくさんの声が重なる。

 声が無理やりに歌いだす。

 痛かったはずの体が、痛くない。

 歌を、私が導く。

 口から赤い液体がこぼれたけど、気にしない。

 記憶が、消えていく。

 私は……誰だっけ…?

 誰って……な…


×××××


「おはよう、姫」


気が付いたら私は“ここ”にいた。

 私の口は止まらない歌を紡ぐ。

 先代は、ただ何も知らぬままに育ったらしい。

 違う、知らされなかっただけだ、今の私と同じで。

 だが私は変えてみせる。

 私たちの紡ぐ歌が“呪い”と呼ばれる理由は理解した。

 私たちの歌は、人間の脳に直接ゆさぶりをかける。

 次世代の“勇者”は、それを止めさせるためにやってくる。

 そして、先代たちは抵抗もせずに死んだ。


ふざけるな――


脳内の記憶に呼びかける。


武器を持て――


そうだ、行こう。

 記憶が賛同してきた。


先代の記憶が、封印していた記憶が教えた。


呪歌(じゅか)の姫”


私はその名が気に入った。

 呪い?上等だ。



「行くよ、“呪歌”の名を、


  我らを惨殺した“魔王”どもに思い知らせよ!!」




呪歌の姫、彼女は立派に魔王と戦い、勝利した。

 後の数百年。

 魔王に倒された人間共から勇者が現れ、魔王を倒し、また、繰り返す。




同じことを――何度も、何度も……




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