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第7章 戦いの準備(2)

 森の中に入ると、中で一際目立ったのがあの青い炎だった。


「ヤサ、あれ。もしかしたら、あの樹液を使ってたくさん松明を作れないか? あの炎をサトラゲが嫌がるなら、何とか出来るかもしれない」


炎の傍に駆け寄ると、やはり樹液が流れ、それが滴ることで根元が燃えていた。この炎は他の植物には燃え移りにくいようで、周囲が白く変色しているだけで燃え広がりはしなかった。その代わり、頭上から落ちてくる葉が定期的に炎の勢いを強めて消えないようになっていた。


「この樹液に火をつけるにはどうしたらいいんだろう」


別の枝で擦ってみたり、葉を乗せてみたりするが変化は無い。


「何か方法があれば……」


その時、ふと頭に浮かんできた。普通の炎は赤色で熱いが、この炎は青く冷たい。真逆に機能しているのなら、火の点け方もまた逆なのではないかと。まるで熱いスープを冷ますように息を吹きかけると、樹液は突然発火した。


「すごいよ裕。これだ。この樹液は息を吹きかけたら火が点くんだ!」


「何本もこれを作っておけば青い炎を携帯できる。そしたらサトラゲにも効くはずだ」


俺達は現実世界とは全く逆の原理で発火するマッチを何本も作ってはポケットに差し込んだ。樹液はドロッとしていて粘りが強い。そのおかげでポケットにも少量でよくくっついてくれた。


「とにかく海まで逃げよう。あそこには人魚がいるから、少しぐらいなら守ってくれるかもしれない」


俺に優しい言葉を掛けてくれた人魚。彼女ならもしかしたら逃げ方も知っているかもしれないと考えたのだが、ヤサは目を見開いて、とんでもない、と訂正した。


「人魚が安全な生き物だって!? 祐は最初、海に見えた場所で手を引かれてここまで来ただろう? 何と、どこでどんな風に別れた?」


いきなりヤサがそんなことを聞くものだから、僕は驚いて思い出してみる。最初は、そうだな。


「確か人魚が、これ以上は浅くて泳げないから行けない、って……」


何か違和感を感じた。笠野さんが連れていかれた後、ヤサに化けたやつが来て、その時確かに人魚の声を聞いていた。


「来たんだろう? 祐が部屋に居るときに、これ以上は浅くて泳げないからって一緒にこなかった人魚が……」


人魚は浅くなるとそれ以上はいけないと言って別れた。じゃあ、あの時部屋に僕を探しに来たのは、なんだったんだ……。急に鳥肌がたった。


「もうわかるだろう? サトラゲは、人魚に化けた化け物だ。あいつは美しい人魚に化けて、タソガレ島に入ってきた人間を招き入れ、数を把握しているんだ。だからあの場所を離れるわけにはいかないだけ。その気になれば陸だって普通に行ける。僕に化けた別のやつが最初に裕を襲ったみたいだけどね」


つまり、ここでの味方はヤサたった1人だということだ。人魚の元まで行けばなんとかなると思っていた浅はかな自分が情けない。


「俺達でなんとかするしかないってことか……」


ヤサもまたその意見に頷いた。首を横に振って甘い考えは捨てる。つまりあの海はサトラゲのホームグラウンドなのだ。


「あの海は泥の沼みたいになってて足も取られるから確実にサトラゲの動きを封じてしまう必要がある」


その時に考えたのは、たった数枚でも勢いよく燃え上がらせた、青い炎を持つ樹の葉で炎をうまくコントロールできるということだった。サトラゲを倒すことまでは考えない。ただ今出来るとしたら、時間を稼ぐ事だけだ。その面でヤサが提案してくれた。


「まずサトラゲが入るぐらいの円を葉で形作る。その外側に二重に葉で円を作る。一番内側の円を1外側を3、真ん中を2だとすると、先ず1を燃やしてサトラゲを閉じ込める。2人とも3の外へ出たところで火をつけるんだ。3から2の円へ炎が燃え移るように一部繋げておけば、安全に三重の炎の壁を作れる。さっき破られたのは樹の上に登られてしまったからなら、今度は登る樹がないから閉じ込められるはず。2人で円の中央に立ってサトラゲをおびき寄せてから、炎で牽制して左右に分かれる。そこから外側の円に火をつければ勢いよく燃え広がっていくはずだ。そうしたらサトラゲは出られなくなる。僕らはその間に出口を目指す。これでどうだろう」


ヤサが地面に波紋が広がるような円を三重に描いた。あみだくじの様に2と3の円を一部線で繋ぐ。俺はその作戦を聞いて理解した。確実に2人で逃げる為にはまずサトラゲの足を止める必要があるのだ。


「もしもの時のために俺がモンスターをたくさん作って配置しておけばいいよな」


「そうだね。周りをさらに固めてしまえば最悪突破されたとしてもその間に逃げ出せる」


ヤサが頷いた。


「絶対に2人でここを出よう」


念を押すように俺がいうと、ヤサが真っ直ぐ俺を見て、強く頷いた。その瞳にはもはや迷いは無かった。あるのは、絶対にここを2人で脱出するという揺るぎない決心だけ。


 俺サトラゲが見ていない間に樹の中に入って壁を叩き、鋭く尖った鉄の杭と非常用のナイフを取り出した。このナイフは小説の中の軍人が使っていたサバイバルナイフで、まさか自分が持つことになるとは思わなかった。何度も壁を叩いて今まで小説で読んできた数々の凶暴なモンスターを出していく。樹には一度に出せる量に限りがあるようで何本も回ってモンスターを出した。


 一方で、ヤサは葉をとにかく集めて三重の円になるよう撒いていた。葉自体は何百枚もあったから不足は無かったが、問題はその設置場所だった。俺が今まで美しいと思っていた海はそこにはなく、あるのは延々と続く泥だけ。あの海もまたサトラゲの幻だったのだ。


 悔しい気持ちを押し殺し、準備を完了した俺は葉を撒き終えたところのヤサに合流した。万全に動けるように体力のことを考え、樹の陰に隠れて腰を下ろした。


「これがヤサの分だ」


樹液をたっぷりとつけた簡易マッチ10本と鉄の杭1本、それから非常用のサバイバルナイフ1本を渡す。もちろんこのナイフは革のナイフケースに入れている。


「こんなナイフよく思いつくね」


「伊達に本の虫してないからな」


そう言って少し笑った。

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