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第5章 サトラゲとの攻防(3)

 サトラゲに見つかるまでにさして時間はかからなかった。俺達は遠くにサトラゲを発見してからすぐにさっきと同じ方法で樹のホテルの中に逃げ込んだ。ヤサが同じ様にバリケードを築き、俺も全力で手伝った。一定バリケードができてから、俺達は手斧で何度も壁に穴を開けようとする。入口は何度もサトラゲが体当たりしていて、その度に樹全体が揺れた。俺達は何とか穴を開けて出ようとするが、穴に入る寸前の所で急に腕が勢いよく伸びてきたのだ。


「うわぁ!」


咄嗟に身を引いたのと、ヤサに腕を引っ張ってもらったことでなんとか避けられたが、腕は穴の中にいる俺達を掴んで引っ張り出そうとするように激しく動きながら探している。引っ張られた勢いのまま尻もちをついた俺の心臓は狂ったように暴れ、一瞬の事にも関わらず、息が乱れきっていた。


「裕!」


ヤサがすぐさま俺の手を引っ張り、入口へと向かった。バリケードの一角は俺達がしゃがんで通れるようにそこだけ道ができており、ヤサはそこから脱出しようと考えたのだ。


 四つん這いになって穴をくぐろうとしたが、ヤサは声をあげた。


「下がれ!」


そう言って思い切り服を引っ張ってくる。先ほどまで斧で開けた穴から腕を伸ばしていたはずが、俺達がバリケード側から脱出しようとした時すぐさま回り込んで来たのだ。机の間から見えた恐ろしい姿に、俺はすぐ後退した。入口は一部破壊されており、俺の姿を見るなりサトラゲは突っ込んできた。後退しきったところで、サトラゲの体に体当たりされたバリケードが一気にズレて、俺は飛ばされた。


「裕!」


そんな衝撃なんて今まで受けたことがなくて、頭がぐらついたが、すぐに名前を呼んで肩を揺すってくれるヤサのおかげで意識がはっきりしてきた。


「バリケードが持たない! 裕は先にその穴から出て! 僕がサトラゲを引きつける!」


と、手斧を持ってヤサが入口に向かいそうになって、慌てて腕を掴んだ。


「そんなことできるわけないだろ! 殺されるぞ!」


「僕にはできる。だから早く!」


何か、何かないか! 辺りを見回すが、サトラゲに対抗できるような物はない。銃を出せたとしても扱い方なんて本で読んだぐらいなもので、使えるわけがない。今までやってきたことは本を読むばかりだった。それも小説ばかり。もっとためになる本も読んでおけばよかったと、自分に腹が立つ。


 本を、読む?


 ふと、引っ掛かった。この壁からはなんでも頭に描いたものを出すことができる。それなら、俺が今まで読んできた中で強いモンスターも出せたりするのではないか、と。今まで読んできた物の中に、空飛ぶ金魚がいた。その金魚は宙を水の中のように泳ぎ、鋭い牙で自分よりも遥かに体が大きい相手でさえも捕食していた。もしかしたら……。藁にもすがる想いで必死に細かい描写も思い出しながら壁を叩く。


「裕、何してる! 早く出て!」


壁が動いた。はっとして壁を見てみると、そこには壁の中から押し出されるようにあの凶暴な魚が顔を出してくる。目はなく、無数に、それでいて不規則に並んだ鋭い歯を持ち、宙を自在に泳ぐ、あの生き物が。


「なんだ、これ……」


ヤサが驚きのあまり目を見開いている。すぐにバリケードが突破されて、サトラゲが中に入ってくる。


「あいつを倒せ、ファングフィッシュ!」


読んできた物語がこんなところで役に立つとは!


 ファングフィッシュは本に出てきたのと同じように素早く身をひるがえしてサトラゲの攻撃を避け、その肉に食らいついた。サトラゲが悲鳴をあげて暴れまわっている間に、俺達は裏穴から脱出した。もっとたくさんのモンスターを呼びだしておけばよかったと思いながらも、とにかく樹から離れる。


 樹からすぐに出てきたサトラゲは、細かく千切れたファングフィッシュの体を樹に叩きつけてまた追ってくる。必死に走るが、追いつかれるのは目に見えている。サトラゲはみるみるうちに距離を詰めてきて、ヤサもまた苦しそうに息をしていた。前方に青い炎が見えて、無我夢中で冷たい青の炎に別の枝を突っ込み、炎を燃え移らせる。そうして、勢いよく噛みつこうとしてきたサトラゲに向かって投げつけた。


 サトラゲは炎が触れる前に悲鳴をあげ、勢いよく後退していく。それどころか、俺がさらに炎を枝に移すのを見て声をあげてそのまま逃げだしたのだ。俺がヤサを見ると、ヤサもまた俺を信じられないという目で見ていた。


「まさか、この炎が弱点なのか?」


「そうかもしれない! それに、裕がさっき出した魚と炎を上手く使えばこのままタソガレ島から脱出できるかもしれない!」

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