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 騒ぎのあった昼休みも終わり、二次方程式に頭を悩ませた五時間目も終わり、本日最後の授業はおまちかね、体育の授業だ。

 学期始めの退屈な身体測定も終わり、今日からはサッカーをやるらしい。

 サッカーをフルコートとれるかとれないかくらいしかない校庭の端の方、体育倉庫の前にクラス全体が集まっていた。

 にしてもトタンの掘立小屋が体育倉庫とか、どんだけ金に困ってんだこの学校……。

 準備体操も終わり、今はそれぞれがリフティングやパスなどボールを使ったアップをしている。

 見れば悠矢もかなり軽やかにリフティングをしていた。

「経験者、か?」

 俺も負けていられない。話しかけつつリフティングを開始する。

「まあ。小学生の時に少しだけ」

 悠矢はボールから目を離してこちらを向いて答えた。む、やるな。

 俺はひそかに対抗心を燃やす。

「なんだぁ? 勉強のできるボクは運動もできるのが悔しいか?」

「ぐは!」

 バレバレでした!

「バカにすんな。お前より上手いに決まってんだろ。俺は中学時代に先生たちから『お前。体育だけはできるのな』って褒められたんだぞ」

「褒められてねーよ!?」

 失礼な。

 あの時の先生方の優しい目つきを否定するなんて、なんて心の荒んだカワイソウな子なんだ。

「ぐああ、ボクは間違ってないはずなのに何故かすごくむかつくぞ!?」

「二人とも、そんなに激しくやりとりしてルのに、ボール落とさないのは素直にすごいナ」

「すごいすごい」

 山田は呆れ顔。田中はしきりに感心しながら近づいてきた。田中、拍手は幼すぎないか。

「ま、なんだかんだアレには適わないんだけどな」

 そんな二人に、俺は少し離れた女子の集団を指さした。……穂積が相変わらず孤立しているのは見なかったことにしよう。

「ナんだ?」

「なに?」

「?」

 山田、田中、そしてリフティングを続けながら悠矢がそちらを見る。くそ、悠矢が止めれば俺の勝ちだったのに。

 そして、

「スごい」

「あはは」

「…………」

 女子の集団の中心ではうちの幼なじみがサッカーボールをリフティングでおてだま(・・・・)していた。

 ポロリ、と。それを見た悠矢がボールを落とした。よし、俺の勝ち。

 あんなものが目の前な手前、言う気はさらさらないが。

「なんじゃありゃ」

 悠矢がこちらに振り向きつつ言った。

 そりゃ俺が聞きたい。

 俺は目線の高さへ小さく蹴り上げたボールを、一定のリズムで蹴り上げ続ける。

「相川さくら。うちの高校の、入学前からのエースストライカーだと、さ!!」

 俺はリフティング中のボールを力任せに高く蹴り上げた。

 俺にとって、学力では到底及ばない幼なじみに、得意な運動でさえ足元に及ばないというのは、ひそかなコンプレックスだった。

「変な奴だとは思ってたけど、ここまでくるとボクは確信したね」

「なんだ」

「あいつは変態だ……!!」

 間違いない。

 後方でなにかが落ちてきてトタンが割れるような破壊音が響いた気がした。


 変態さんが女子組から外されるまで五分しかかからなかったのは、むしろ体育教師のファインプレーと言えよう。

「私が変態なんて呼ばれなきゃいけない理由を三秒以内に原稿用紙三枚以上五枚以下で答えなさい。じゃないと蹴るわ」

「無理!?」

「あとそういうことは蹴る前にいってやれ」

 悠矢の言葉に顔をおさえてのたうちまわる俺はこくこくと頷いた。

 と、いうわけでさくらはサッカーの授業を男子組で受けることになったのだった。

 ごめん、誰かキーパー変わって……。

 俺は痛む顔をさすりながらのろのろと立ち上がった。まだひりひりする上、なぜか鼻がツーンとした。ツーンと。

 これが幼なじみにすることかよ。

「これが旦那にすることか?」

 悠矢が俺の気持ちを代弁してくれる。ナイスマイブラザー。

「旦那じゃないわ」

「似たようなもんだろ?」

「愛の鞭よ」

「そこは否定しないのかよ……」


「だって好きだもの」


「…………は?」

 絶句する悠矢。

 慣れたといっても不意打ちされると俺もさすがに恥ずかしいぞ、それ。

「さ、さくら、あんまり軽々しく好きとか言わないほうがいいと思うぞ」

 さすがの俺も目を合わせられない。

「軽々しくなんて、言ったことは一度もないわ」

 さくらはこんな時でも表情を変えない。恥ずかしくないのだろうか。

 悠矢はいまだに口を開いたままだらしない顔をさらしている。

「ふん。そうだ、ユウスケ。さっき先生があなたのこと呼んでいたわ」

「ん、分かった」

 先生は、体育倉庫の前にいた。そちらに向かいかけて、

「俺も、お前のこと好きだぞ……」ピクン、と。さくらの表情が驚いたような、嬉しそうな色をほんの少しだけ浮かべる。「……幼なじみとして、な」

 恥ずかしくて、最後のほうは背を向けつつ言った。そういう顔をもっとすればかわいいのに、なんて柄にもないことを思いながら。

 その後は先生のほうへ向けて全力ダッシュだった。

 なんて恥ずかしいことをしてしまったのだろうか、俺は。


 元気がいいな、と笑顔に角を生やした体育教師は前置きした。そこには穴の開いたトタン屋根と、さっきまで俺のリフティングしていたボールがあった。あはは、と俺は笑った。ふふふ、と体育教師も笑った。ぶっちゃけキモいっす、と正直に言ったら殴られた。なにすんだ。

 しかし、どうやら俺は体育倉庫の屋根を壊したらしく、俺はさらなる鉄拳制裁と放課後に倉庫の中の掃除を言い渡された。むしゃくしゃしてやった、今は後悔している。



 ◇ ◇ ◇



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