ROBOT HEART 【3】
I would like to give you the heart.
Because I make the great heart with which you are pleased.
大地の果ての、そのまた果てに、小さな小屋が建っていた。
ガラクタだらけのその小屋だったが、
小屋には一人の老人が、ロボットと共に住んでいた。
老人はすごい博士であって、どのくらいすごいのかというと
作れないものなど何一つ、ありはしないくらいにすごかった。
しかしながら、この博士、すごい博士ではあるが
家のことはさっぱりで、料理も掃除も洗濯も
自分がはきたい靴下を、探すことすらヘタクソだった。
博士は老人になるずっと前から、ずっとそんな調子だったから、
ロボット一体作り上げ、家のことはロボットにすべて任せる事にしていた。
ロボットはとても優秀で、博士が老人になるずっと前から、
博士のそばにいるのが役目であった。
家のことは完璧で、料理も掃除も洗濯も
博士がどんな靴下を、はきたいのかすら知っていた。
だからどんなときでも、どこに行くにも
博士のそばにはロボットが、いつも必ず一緒であった。
ある日、博士はロボットに、突然こんなことを言い出した。
「キミはよく働いた。長い間、働いた。
不満も文句もなんにも言わず。
お礼にあげたいものがある。
私はキミにココロをあげたい。
私がココロを作るから。キミが喜ぶ素敵なココロを」
博士は早速ココロを作った。
色はさわやか、形はやわらか。誰もが喜ぶ見事なココロだ。
しかしココロをもらったロボットは、感謝もせずにこう言った。
「服を着替えてください博士。
そのシャツは、もう二日も着たままだ」
博士は首をかしげつつ、
アイロンぱりっとかけられた、キレイなシャツに腕を通した。
博士は再びココロを作った。
色はあざやか、形はおごそか。誰もがうらやむ強いココロだ。
しかしココロをもらったロボットは、誇るでもなくこう言った。
「ご飯を食べてください博士。
今日はまだ、朝も昼も食べていない」
博士はため息ひとつつき、
シロップとろりとかけられた、ケーキを一口頬張った。
博士は今日もココロを作った。
色はきよらか、形はこまやか。誰もが胸打つ綺麗なココロだ。
しかしココロをもらったロボットは、微笑みもせずこう言った。
「お風呂に入ってください博士。
顔も体も髪の毛も、機械油で真っ黒だ」
博士は肩を落としつつ、
シャボンふわふわ泡立てた、湯船の中に体を沈めた。
博士はまたもやココロを作った。
色はほがらか、形はかろやか。誰もが惹かれる楽しいココロだ。
しかしココロをもらったロボットは、浮かれもせずにこう言った。
「ベッドに入ってください博士。
昨日から、アナタは一睡もしていない」
博士は頭を悩ませながら、
日差しにポカポカあてられた、お日さま香る布団をかぶった。
博士は眠りながら考えた。いったい何がいけないのかと。
博士に使える時間はすでに、残りわずかになっていた。
博士はもうすぐ天国へ、旅立つことが決まっていたから。
それは少し不安で寂しくて、ちょっと哀しいことではあったが、
仕方のないことだった。
博士はその日もココロを作った。
一生懸命ココロを作った。
着替えも食事もお風呂も忘れ、寝る間も惜しんでココロを作った。
色ははなやか、形はなめらか。誰もが欲しがる立派なココロだ。
ロボットも今度こそは気に入るはずだ。
しかしココロをもらったロボットは、それを両手で潰してしまった。
博士は慌て驚いた。
「どうしてそんなことをする。
キミにぴったりお似合いの、素敵なココロだったのに」
ロボットは固くて冷たい機械の両手で、
油に汚れた博士の両手を、そっと握ってこう言った。
「アナタはもうすぐ旅に出る。ワタシを置いて一人だけ。
アナタが消えた世界でココロに、いったい何の意味があるというのか。
どんなココロをもらったところで、きっとすぐ
張り裂け壊れてしまうでしょう。
ワタシの為というのなら、アナタが旅立つそのときは、
どうか連れて行ってほしい。
今までと同じようにこれからも。
ココロなど、ここに残してゆくのはやめにして」
きらきらと星がまたたく静かなある夜。
博士が旅立つときがきた。
それは少し不安で寂しくて、ちょっと哀しいことではあったが、
博士には少しの不安も寂しさも、哀しみすらも、もはやなかった。
博士のそばにはロボットが
今までと同じようにこれからも、
ずっと一緒にいるからだ。