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INSIDE CLAUDIA  作者: 雨音ナギ
第二章 インサイドクローディアとアルトゥーロ
20/24

04:歴史都市・ライサ

「んー、やっと着いたかー」


 ミリアは小さい背を後ろに逸らしながら、空の方へと視線を向ける。

 アルトゥーロの首都であるヴェルゼから列車で五時間。

 魔力石による高速運輸が可能となった現代でも、僻地の方にある歴史都市・ライサへの距離は遠い。

 一番早いと言われるアルヴェール号で駅を出発した二人だったが、それでも現地に着いたのは夕方と少し前だった。


 駅前は前日の事件の影響で出入り制限が掛けられており、いつもは駅前で賑わっている観光客も少ない。

 それもそのはず、事件が起きたセグメール神殿がある西部はライサの中でも多くの観光客で賑わう地域だからだ。

 観光客の一番のメインと言ってもいい建物が封鎖されているとなると必然的に人が少なくなるもの致し難いことなのだろう。

 二人は改札口を出て、駅前の噴水広場で待っていると一人の男性がこちらへと近づくのに気が付いた。

 緑色の制服を着て、右肩に二つの星の紋章が入っている所から見ると恐らく現地警備隊の責任者なのだろう。

 結構な早さで走りこんでも息一つ乱れた姿を見せずにその男性は二人に話しかける。


「クローディアのウェールズ氏とミカヅキ氏ですか」

「ええ。貴方がこちらに連絡をくれたクリストフ隊長?」

「はい。あなた方のお噂はかねがね伺っております」


 彼らに対して真っ直ぐに姿勢を整え、クリストフは答える。

 栗色の短髪を切り揃え、帽子からはみ出ないように気を付けているその姿勢から省みるに規律に厳しい男なのだろう。

 そのような感想を紫苑は内心持ちつつも隣にいたミリアはいつもの様子で声を掛ける。


「その口調から察するに事態は好転してないみたいね」

「事件後の調査を行っているのですが、まだ芳しい情報は見つかっていません。それに加えて、民間人による苦情と妨害が相次いでいまして私達としてはそちらの方に重きを置かざる得ない状況となっているので助かります」

「まあ、此処は通商が盛んな都市でもあるからね……。早くしないと困るっていうのも分からなくもないけど」


 各都市にはそれぞれ住んでいる人に特徴がある。

 例えば、アルトゥーロの首都として名高いヴェルゼは各法的機関の中心地となっているため、人口の約半数が警備隊員もしくは役人が多かったりする。

 大半の地方都市は都市柄に沿った人物が多く住み着いているのだが、この歴史都市・ライサは少し事情が違う。

 歴史的名所が豊富な観光都市として有名なこの都市は観光客も多く来るのだが、国境に近い為、多くの貿易商が住んでいる都市でもあるのだ。

 観光客を売りにしているライサでは、他の都市とは違い、独自の交通発達網が設けられている。

 都市内の交通化を円滑にするために設けられた地下鉄道やバス、海が近い地域には高速ジェット船などがあり、どこの地域にいても他の地域へ行けるような形態を取っているのだ。


 特に西部は海に近く、他国への輸出も多く行われている地域だ。

 今回の事件のせいで、数日間は監視による特別運行を取る羽目になり、多くの資材を運ぼうと考えていた商人たちはどれかを厳選して運ぶという手段を取らざるを得なくなる。

 どの地域に行くのに不自由しない都市で、事件の割を食らっているのは間違いなく貿易商達なのだ。

 観光客も出入りを制限されており、長引けば長引くほど、警備隊に向けての不満は多くなっていく。

 その為、現在では一部の人が警備隊に向けて罵声を上げたり、仕事の邪魔をしたり、という事もあったりするらしい。

 特殊部隊を持たない地方都市の警備隊にとって、それらの人員を割いて行うことはかなりの痛手となるのだ。


「後の現場はこっちに任せておいて。場所は西のセグメール神殿よね?」

「はい。後、神殿が破壊された影響で水道にまで被害を受けたようで、西部地域で断水が発生していまして」

「ん、分かった。その辺はこっちの男に任せときゃ大丈夫だから」


 ミリアの横にいる紫苑は、クリストフ隊長に向けて軽く頭を下げる。

 それを見た彼もどうかよろしくお願いします、と言って会釈を返した。


「現在、西部への交通機関は止まっていますので恐らく不便に感じるでしょう。よろしかったらこちらをお使い下さい」


 現在、ライサの交通網は正常に運行されている所がほとんどであるが、西部地域だけはまだ通常状態にまで戻っていない。

 五分に一本のペースで運行する状態に戻してしまうと警備隊員のチェックをくぐり抜けてしまう恐れがあるからだ。

 唯でさえ人手が足りない状態で、そのようにしてしまうと何かあった時の対処が遅れてしまう。

 その為、二日たった今でも縮小運行をせざる得ないのだ。


 西部地域に向かうには少し先にある十番ホームで路面レールカーに乗らなければならないが、現在、レールカーの運行は一時間半に一本程度の運行となっており、彼らが来る少し前にレールカーは発車してしまった。

 次に来るのは一時間半後であり、夕方を迎えている現在、それを待っていると向こうに着くのは日が暮れた後だろう。

 そう考えたクリストフ隊長は早く移動できる物を部下に用意させたのだ。

 日本の物とあまり変わらない車は遠くの方から現れるとエンジンを弱めて紫苑達の横で止まる。


「車ですか」

「ええ。長旅でお疲れでしょうし、私の部下に送らせます」


 そう言えば、セドリックさんが自分を迎えに車で来た事があったな、と紫苑は思い出す。

 見かけた当時はまさか車が存在するとは思わなかったが、高速鉄道網が発達しているこの国の技術から言えば、そのような物も作るのも難しくはないだろう。

 もっとも、大きな違いとしては、日本では一般大衆向けに普及しているのに対し、この国では上級貴族か上級役職に就く者しか持てないという点だろう。

 車は買うよりも維持費が多く掛かるのだ。特にこの国では日本にあるガソリンスタンドのような施設は無い。

 自前で燃料を買い付けて使う必要性があり、動力源としている魔力石はそこそこ(・・・・)に値段が張る。

 中流階級の者でも買うことは不可能ではないが、常用するには難しい金額なのである。

 そのような理由で高価な車を利用して欲しいという向こうの申し出は明るい時間で検証などを終えておきたいと考えるミリア達にとってとても有難い話である。


 ヴェルゼは国の中心部に位置しており、何処を歩いても同じような物が手に入るような構造の路地になっているため、公共交通機関である高速列車と地下鉄道以外の乗り物は出回っていない。

 強いて言えば、郵便物を届けに来る配達員ぐらいで、日本に比べて、独自の乗り物という物は非常に数が少ないのだ。

 特にライサは他の地方都市に比べると非常に便利な都市であるため、車のような大きな乗り物は逆に出入りが難しく不便に感じてしまうのだ。

 その為、露店や専門店が多く立ち並ぶ都市であればあるほど、そのような乗り物を見ることは全くと言っていいほど無くなる。

 そして、ライサは貿易が盛んな都市であるが故に他国との技術交換が多く、他の都市に比べてユニークな物が日常的に使われているらしい。


(そういえば、都市の光景も日本で見ているのと大して変わらない気がする)


 紫苑が住んでいた日本と同じく、この都市はある程度の技術が発達している。

 なんでも、この都市の公共交通機関は魔力石と呼ばれる固形燃料を用いて運行しているらしいが、それ以外の部分は日本で暮らしていた物と大して変わらない。

 寧ろ、彼が今住んでいるヴェルゼよりもライサの方が日本の都市としての雰囲気に近いかもしれない。


「そうして頂けると助かります。こちらとしても全力を尽くしますので……。行きましょう、シオン」


 移動用に特化した魔術という物は存在はするのだが、国家法により、人の生命が脅かされ、一刻を争う事態では無い限り、街中での使用は原則禁止されている。

 彼女クラスの物であれば魔術でも移動することは可能であるが、国家の一員として働く以上、その部分を破る訳にはいかない。

 よって、彼女はクリストフの好意に甘える事にしたのだ。

 ミリアに手招きされ、持っていた荷物を全て後ろのトランクへと積み込む。

 必要最低限の物だけを持った紫苑とミリアはクリストフに礼を言い、車の中へと乗り込んだのだった。

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