そのいち 側近ともやしハンバーグ
まずはこちらをご覧下さい。
http://trendnews1.com/nhkkyounoryourirecipe/5528/
もやしハンバーグ、あるいはその形状から、わらじハンバーグと呼ばれるモノのレシピです。
活動報告で教えて頂いたのですが、実際作ってみるでもなく、勢いで書いたモノはこの短編でございました。
部下Sと側近はこちらに出ている登場人物です。↓
http://ncode.syosetu.com/n7751bh/19/
「冷やし勇者始めました。」
初めまして、皆さん。私は部下Sと言います。側近様の部下、略して部下Sです。以後、お見知りおきを。
ーーさて。ある夕方のことです。
魔王城はその名に相応しく、難攻不落の要塞ではありますが、しっかりとした厨房設備もととのっているのです。
私が書類を抱えてその厨房の前を通りかかると、中から聞きなれた声が、鼻歌をうたっているのが聞こえてきました。
「フンフフーン」
ーー上機嫌のようです。私はつい、中を覗き込んでしまいました。
「・・・側近様?」
「部下S。どうしたんです? 先ほどの書類に不備な点でもありましたか?」
「いいえ、違うんです。・・・すみません。側近様のお声がしたものですから、つい中を覗いてしまいました」
「なるほど」
私は書類を脇へ置き、側近様の隣まで近づきました。
合い挽き肉、卵、春雨、もやし・・・。これらの材料から作ろうとしているもの。
「・・・ハンバーグ、ですか?」
「正解です。フフ、ある親切な方が、わたくしに美味しいもやしハンバーグの作り方を教えてくださいましてね。早速、試作しているところなのです」
「そうでしたか。・・・お手伝い、いたしましょうか?」
「いいえ。結構ですよ。あなたにはその仕事もあるでしょう」
そうでした。上機嫌な側近様を見ていたら、つい忘れてしまうところでしたが。
「--では、失礼致します」
「ええ。腕によりをかけて作りますから、楽しみにしていてください」
・・・どうやら、私にもごちそうしていただけるようです。
私は心持ちーー、そう、ちょっとだけ浮き浮きとした気持ちで、厨房を後にしたのでした。
*
「・・・みなさん?」
玉間の前を通りかかると、また例のーー人間の小娘です、勇者とかいうーーそれと、魔王ーーいえ、魔王様、とお呼びしなければなりませんね、私の立場からいえばーーそして、例の小柄なガーゴイルーーいつも魔王に付いて回っている目障りな小物ですーーそんな面々が、何かを囲んで騒いでいるのに出くわしました。
「・・・何をしているのですか?」
「あっ、部下Sさん!」
部下Aと呼ばれているガーゴイルが、こちらを振り向いて手招きしています。
私はしぶしぶながら、近づいていきました。
「・・・何ですか」
お皿です。一抱えほどもある大きな皿が置かれてありました。
その上に・・・・・・。
「・・・・」
稲、という植物を皆さんはご存知でしょうか。
イネ科の穀物で、極東の島国などでは主食として栽培されています。
その植物は頑丈な茎を持ち、かの国の住人は、さまざまなものに加工してそれを利用するといいます。
たとえば、雨よけの蓑。たとえば、日除けの帽子。たとえば、履物。
ーーそう、それは。
「ワラジ・・・ですね」
「わぁ、部下Sさん、よくご存知ですね! さすが側近様の部下ですね!」
「いえ・・・あの、これは・・・?」
わらじです。履物です。
「すごいだろ?」
勇者とかいう人間が、偉そうにふんぞり返っています。何ですか、偉そうに。側近様のほうが偉いに決まっています。
黙っていた魔王様が口を開きました。
「勇者が作ったらしいのだ」
「わらじを・・・ですか?」
「ああ! ある親切な人が俺にわらじハンバーグの作り方を教えてくれてな! 早速 畑に取りに行った!」
「・・・あの、申し上げにくいのですが、『ハンバーグ』要素はどの辺りに・・・」
「そんなもんオマケだ! 偉い人にはそれが分からないんだ! だからこの国はいつまでたっても良くならない! 分かるか? 部下A!」
「分かります分かります、ほんと勇者さんの言うとおりですよ!」
・・・ハンバーグではありません。ただのわらじです。
これで何をするつもりだったのでしょうか、この小娘。
『ピロリロリロリ』
「・・・あ。失礼」
私のケータイが鳴りました。番号を見ると、側近様です。私は胸を躍らせて、通話ボタンを押しました。
『部下Sですか? もやしハンバーグが完成しましたよ。一緒にどうです?』
『は、はいっ! もちろんご相伴させていただきますっ!!』
『・・・よかった。一人で食べるもやしはただのもやしですからね・・・。では、待っていますよ』
『はいっ! すぐに参ります!!』
こうして私は、美味しいもやしハンバーグにありついたのでした。
おしまい。
Thanks for Reading !
すぺしゃるさんくす:鴉野兄貴さま
レシピ教えてくださってありがとうございました!