依頼File:1 6年ぶりの少佐
今回は短めです。
2032年 9月5日 1649時
軍を辞めた後、俺は山の麓に移り住んだ。そして、軍隊時代の豊富な知識と体力を生かして、山岳ガイドをして生計をたてていた。
静かな森の中なら、あの日の体験を忘れることができる。
そう信じていた。
だが、あれからもう6年もたつが、未だに俺の頭からはあの記憶が離れない。
軍を辞めるとき、俺はPTSD(心的外ストレス障害)と診断された上で辞めた。
そうでもないと、軍は簡単には辞められない。
あの時はPTSDなどすぐに治ると考えていたが、実際はかなりきつかった。
あの日の悪夢は毎晩のように訪れ、それは精神安定剤を飲んでも変わらなかった。だが、軍隊時代の厳しい訓練のおかげで、私生活には影響を及ぼさなかった。
悪夢による寝汗のせいで、シーツを毎日替えなくてはいけなくなってしまった以外は。
客の少ない平日は、登山やスキー、自転車でのダウンヒルをしてストレスを発散している。
この間はアマチュアのダウンヒルレースに参加したが、惜しくも4位で表彰台入りを逃してしまった。
トップ選手のリプレイを見たが、あれはもう化け物だった。
もっと腕をみがかなければ・・・
そんな事を考えていると、家の外の駐車場に1台の車が止まった。
車種はヨーロッパフォードのフォーカスST 2006だ。
「車がずいぶんと古い型だな。しかも、北米形フォーカスを選ばずに並行輸入を使うとは、相当のマニアだ。そういえば少佐はラリー好きで、あの車について部隊がみんな呆れるほど熱く語ってたっけ。」
男が車からおりてきた。
どうやら1人だけのようだ。
その男が家のインターホンを押した。
「はい。今玄関を開けるので、ちょっと待っててください。」
俺は走って玄関までいき、鍵をあけた。
「こんにちは!今日は、よく晴れていて天体観・・・少佐!?」
「トーマス、久しぶりだな。」
そこには、6年前と変わらぬ姿の少佐が立っていた。
「・・・あぁ、すまんな。紅茶か、わかっているじゃないか。」
「そりゃ4年も一緒にいればわかりますよ。」
少佐は今、応接間のソファに座っている。
「ところで、今日は何の要件でいらしたのですか?」
「君にちょっと話があってな・・・まあ、その話は後にしよう。」
少佐は、紅茶を少し飲むと話を続けた。
「実は私は今は少佐ではない。」
「というと?」
「中佐に昇進したんだ。それと、部隊の指揮官は私ではなくなった。私の後は、ターナーが継いだよ。」
「あの時Aグループのリーダーだったターナーが・・・あいつのリーダーシップ能力は折り紙付きですからね。もしかしてあの車は昇進祝いで?」
「気づいてくれたかね!あの車は、私の好きなフォードのワークスWRCチームが全盛期だった頃の車だ!あの頃はもうシトロエンとフォードの・・・」
まずい、暴走し始めた・・・
「・・・だが車両がフィエスタに変わって」
「話を戻してもよろしいですか?」
「しまった、私としたことが・・・で、何の話だったかな?」
「少・・・中佐は今何を?」
「エドガーでいい。それと前々からいってるが、敬語はやめてくれ。どうも話づらくてな・・・」
「なら、敬語だけはやめましょう。で中佐、今は何を?」
中佐は少し不満げな表情をしたが、すぐに話を再開した。
「私は今、新しい部隊の指揮官をしている。」
「新しい部隊?」
「そうだ。ある任務のために特別に作られた部隊だ。」
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