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資料File:2 俺の過去

2/5 タイトル変更


映画やゲームの冒頭によくある、

主人公の回想みたいなものです。

 俺の名前はトーマス・ウィリアムズだ。


 俺がエドガー少佐と最後に会ったのは、軍を辞めたときだった―――




――2024年 中東某所――


 2010年代に始まったアラブの春。それは始まってから10年以上たっても混乱を起こしていた。アラブの春が長引いたわけではない。民衆は成功を収め、アラブの春は終わった。


 ならば、なぜ混乱が続いているのか。それは、イスラム過激派が自らの理想の世界に近づけようと、テロ行為を00年代よりもさらに頻繁に行うようになったからである。それにより、イスラム過激派と民衆との対立は激化した。一刻も早く民主化を行いたいアメリカは2021年に、当時としては珍しく親米だったイスラマ国に兵士の派遣を決定し、民衆の政府側の味方についた。


 俺は2022年に転属してから2年がたった、エドガー少佐率いる部隊の一員として派遣された。


 別に今回が初めてのイスラマ派遣だったわけじゃない。合衆国が派遣を決定した2021年、18歳で陸軍に入ってからすでに3年経っていた俺は、別の部隊として派遣された。それが初めての実戦だった。その時の戦績を見込んだエドガー少佐は俺を部隊に引き入れたのだ。


 少佐の部隊は陸軍の精鋭を集めた、20人ほどの部隊だった。部隊の隊員は基本的にどのような戦闘もできるものの、それぞれ何かしらに特化して能力があった。2人が遠距離狙撃、8人が中距離戦闘、4人近距離戦闘、狙撃の2人を含む5人がCQB、俺と少佐を含む残りの3人はバランス型でかつ潜入が得意だった。訓練は今までより非常に厳しかったが、休憩時間などでは少佐や他の隊員たちとは冗談を言い合ったり、イタズラをしたりしていた。


イスラマに派遣されてからは、地域の人々とも助け合ったり、子どもたちと触れあったりして、他の戦地と比べると平和な毎日を過ごしていた。


 しかし、そんな日々も長くは続かなかった。


 部隊がイスラマに来てから1ヵ月がたとうとしたころのことだ。

俺たちはいつもどおりA、B、C、Dグループの各5人ずつに別れて市街地を巡回していた。俺たちのCグループは俺と、中距離戦闘が得意なオジー、ハドソン、遠距離戦闘が得意なケビン、近距離戦闘が得意でグループのリーダーのヘンリーで構成されていた。


 巡回先の小さな区画につくと、子ども達が駆け寄ってきた。いつもの平和な日常だ。


「おじさん!またチョコちょうだい!」

「僕も僕も!」


食料の少ないこの地域の子ども達は、みんな食べ物をねだる。家で家族と分けるためだ。


「よしよし落ち着いて。みんな並んで、たくさんあるから家族の人数分もって行きなさい。」 ヘンリーがほほえみながら用意していたチョコレートをわたす。子ども達はお礼を言ってそれをとる。俺たちは一人一人に声をかけた。


子ども達の笑顔は、ここが戦場とは思えないほど明るかった。


「ありがとう!」

「おう、またな。」

「転ばないように気をつけろよ。」

「うん!今度遊ぼうね!」


そう言って、最後の子供が去っていった。

離れたところではまだ子供たちの声が聞こえている。


「ずっと、こんなに平和だったらいいのにな・・・」

ヘンリーが言った。


「まぁ、そうも行かないのが現実ってもんだろう」とオジーが答えた。


反対側の荒れ地の方を向いていた俺は、人がいないはずの向こうに人影が見えた気がした。


「ん?誰だあれ・・・なっ!オジー伏せろ!」俺が叫んだ直後、AK-47の乾いた発砲音がした。


オジーの頭上を銃弾がかすめる。


そして、敵兵が一気に現れた。人数は50人ほどだろう。


「隠れろ!」

ヘンリーが命令した。


途端に銃弾が俺たちに向かって飛んできた。


全員が近くの建物に隠れた。


「クソ!子供たちが危ない!」

ハドソンが言った。


「まずは、住人を守るぞ!応戦してくい止めるんだ!ケビンは無線で増援を呼んでくれ!他は応戦しろ!」

ヘンリーが言った。


「了解!」


俺たちはXM8を構えて応戦し、ケビンは無線機を取り連絡を始めた。


「HQ、聞こえるか?・・・HQ!・・・おい、聞こえるか!?」必死に呼びかけたが無線機からは無情にもノイズだけが聞こえていた。


「ダメだ!妨害されてる!」


「仕方ない・・・無線が使えるようになるまで、俺たちだけで何とかくい止めるんだ!」


ケビンもXM8をを構え、応戦し始めた。

その時だった。


「グハッ!」

何か機械の壊れる音と、肉がえぐれる音がした。


「大丈夫かケビン!」


そう言って俺がケビンの方を見ると、ケビンは肩を撃たれて無線機を壊されていた。


「・・・ってぇ・・・奴ら・・妨害が切れる前に無線機を・・・っああ!」


「わかったもうしゃべるな!早く止血をするんだ!」


「それと・・・奴らの兵・・装をよく見ろ・・」


「どういうことだ?」

俺はゆっくりとスコープを使って確認した。


「なっ!PMCじゃねえか!奴ら、どこに雇う金が・・・おいケビンしっかりしろ!ケビン!」


脈はなくなっていた。

必死に心臓マッサージで蘇生しようとしたが、ケビンは二度と目を開けることはなかった。


俺たちは応戦し続けた。目の前の敵兵の数は減ったものの、左右からも銃声が聞こえるようになった。さらに、遠くには増援もみえた。


「撃っても撃ってもキリがねえ!リロードする!ハドソン、カバー!」


「了解だトーマス!」


俺がリロードするためにハドソンと入れ替わった。

その瞬間!


グシャァ!


赤い肉片が飛び散った。


「ハドソォォォン!」俺は叫んだ。

だが、返事は返ってこなかった。


ハドソン頭に銃弾を受けていた。即死だった。



「クソッ!俺たちだけじゃ奴らを止められない!即時退却だ!」


「どうしてあきらめるんだヘンリー!」


「トーマス!奴らは並のPMCじゃない!ケビンやハドソンのやられかたを見たろう!奴らの中に凄腕のライフルマンがいるのは明らかだ!それも複数!このままだと、全員やられるのも時間の問題だ!」


「じゃあ逃げ遅れている住民はどうするんだ!」


「くっ・・・」

ヘンリーは悔しさでうつむいた。


「ヘンリー、俺が残って応戦する!ヘンリーとトーマスは本部に戻って増援をよこすんだ!」


「・・・だめだオジー!」

「ヘンリーなぜだ!」


「その覚悟があるなら俺も残る!」


「なっ・・・連絡はどうするんだ?」


「トーマス、お前は隠密行動が得意だったな。本部がある方向は敵は少ない。見つからずに本部まで行けるか?」


「できるが・・・大丈夫なのか?」


「お前を信頼しているからこそだ!頼む!本部知らせてくれ!」


「わかった・・・死ぬなよ!」


俺は建物の裏から出た。

その直後。


「RPGだ!トーマス建物から離れろぉぉ!」


俺は建物から100メートルほど離れて振り返った。


そして、俺は見てしまった。


爆音とともに崩れ落ちる建物、

そして裏から出ようとしたヘンリーとオジーが瓦礫に潰されるのを・・・


「オジィィィ!ヘンリィィィ!」


思わず叫んでしまった。

それがあだとなった。


「声がしたぞ!奴らの残りは近くにいるはずだ!」

敵兵たちは英語を話している。


足音が迫って来た。


俺はとっさに近くの民家に入り、床板を持ち上げ床下へと隠れた。


目の前の道を敵兵たちが走る音がする。


「大佐!民間人はいましたが、敵兵は見あたりません!」


隠れている家の前で2人が立ち止まった。


「バカヤロウ!家の中も探せ!民間人は殺せ!俺はこの家を探す。」


クッ感づかれたか?


隊長らしき男が入って来た。


足音が近づいて来る。

そして!


「そこか!」


男がライフルを俺のいる床に向けて連射する。

肉が飛び散る音がした。


撃たれたのは俺ではなく、近くにいたネズミだった。


「ふっ。これだけ撃てば奴も生きてはいまい。」


床板の穴からみえた男の顔は、ゲルマン系の白人のようだった。

男の顔は笑っていた。


「街の制圧を完了しました!誰1人残っていません!」


「全員帰投しろ!」


男が命令する。


敵兵たちが帰って行った。


男も家を出ようとし、立ち止まった。


「悪かったな米兵さんよ。俺たちは戦場でしか快楽を得られないんでな。少しは骨のある奴と戦えて楽しめたよ。じゃあな。」


そう言い残して、男は帰っていった・・・




俺は死体の転がる街を本部へと歩きながら泣いていた・・・


守るべき民間人や仲間が殺された悲しみ、悔しさ、怒り、マイナスの感情が渦巻き、俺は押しつぶされそうだった。


そして、あの男の笑った顔と言葉が頭の中に響いていた。


『俺たちは戦場でしか快楽を得られないんでな。』


あの男はいったいなんなんだ!

戦場で快楽だと?

人を殺してなぜ快楽が得られるんだ!


俺は多くの戦場をくぐり抜けてきた!

だが、人を殺して快楽を得たことなんてない!

得られるわけがない!


戦場で快楽を感じるとすれば、それは仲間を守りきれた時、罪もない人々を守りきれた時、そしてその瞬間だけだ!


だが俺は戦闘を終えるたび、罪の意識にさいなまれる!


奴に罪の意識はないのか!?


俺には奴の心情が理解できない・・・



本部のあるキャンプに着いたのは夕暮れ時だった。


涙は既に枯れていた。


部隊のテントに入ると、エドガー少佐がこちらに走ってきた。


「トーマス!Dグループで戻ってきたのはお前だけか・・・他はいったいどうしたんだ!」


少佐が肩を揺さぶる。


「・・・にました」


「・・・なんだって?」


「全員死にました!」


「そんな・・・そんなバカな・・・」


少佐は崩れ落ち、地面に手をついた。


「いったいなにがあったんだ・・・わけを聞かせてくれ!」




俺は全てを話した。

無線が妨害されたこと、グループが壊滅したこと、民間人が殺されたこと、そして・・・あの男の言葉。



「そんなことが・・・すまなかった・・・本当にすまなかった!」


少佐は酷く落ち込んでいた・・・




後日、4人の遺体を持って、俺たちの部隊は帰国した。


葬式では、俺は遺族にあわせる顔がなかった。


帰国して5日後、俺は逃げるように軍を辞めた。


少佐は一瞬引き留めようとしたが、事情を知っている少佐は俺が辞めるのを黙って見届けた。

AK-47が2024年に存在しているのだろうか・・・?


ここで、今回の執筆で参考にした事件、事実を紹介します。


・ベトナム戦争のゲリラ


・イスラム過激派に少女が撃たれた事件


・イスラム過激派がプラント襲撃、人質を取った事件


・ペルシャ湾の海賊に対する防衛のために、企業がPMCを採用している事実

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