[2]魔王の目覚め
やっと書けた星原ルナです(汗)執筆が進まず、悪戦苦闘しておりました(泣)今回は通常よりも文字数が多めの、約5000字です。
魔王サタンが、目を覚ましたのは、月が出ている真夜中のことだった。目覚めた地は――――廃墟と化した城跡。
何故、目覚めたのか? 自分は封印されて眠っていた筈。などと考えながら、両手両指を動かし、夜空を見つめている。ゆっくり体を起こし、ぐるりと周囲を見回した。風で揺れる草木、夜しか咲かない珍しい花、光り続ける虫。数百年で変わってしまった光景を目に焼き付ける。
そして、気が付いた。自分の封印が解かれたのだと。証拠に、封印に使われた壺が割られていた。
けれども、何故――――?
考えても考えても、検討がつかない。分からないという理由が、サタンを深く悩ませる。
直後、低い男の声が、耳に木霊した。
「目が、覚めたか……サタンよ」
「――――!! 誰だ!」
サタンは声が聞こえた方向に体を向ける。サタンが振り向いた先には、一人の男が、立っていた。
「…………? あなたは……?」
起きたてなのか、所々、ぼぅーとしながら話しかけたサタン。
サタンが目覚めた地こそ――――、人間界とは異界の地、魔法界と呼ばれている世界。魔法を日常的に使って生活している世界。
サタンらがいるのは…………魔法界にある五つの地方の内、天空と四季の中央地方、アネル地方だ。
サタンは意識が鮮明になっていく内に、今までの記憶を思い出していった。
「あなた様は…………もしや、大黒神様ですか……!?」
大黒神と呼ばれた男は、ニヤリと不敵な笑みをこぼす。
「ああ、そうだ。久しいな、サタン。嬉しいよ、私は……こうしてまた、君に会えたことに」
――私は生きているのか。そうか。封印から目覚めたのか、私は。
サタンは心中でつぶやくと、大黒神に向けて、おそるおそる質問する。
「大黒神様…………私は生きているのですか……? あれから、どれくらいの月日が流れたのですか……?」
サタンが言った直後、彼と大黒神の間を、風が優しく通り抜けた。
「君は生きているよ、確かにね。そして、現在は……あれから三百年の年月が流れた」
大黒神が事実を告げた瞬間、サタンは呆然と目を見開かせる。
「さん、びゃく……ねん……? そんな、に……ですか……?」
「ああ、そして、君を封印した魔法聖戦士達は……何度も生まれ変わって、今も生き続けている」
大黒神の言葉に、サタンが話しかける。
「何をおっしゃっておられるのですか……?」
大黒神が何を言っているのか解らず、サタンは茫然と彼を見続けた。
「忘れたとは言わせない……あの忌々しい出来事を忘れたとは……なぁ、そうだろう? サタン」
大黒神がそう言って煽るが、サタンはまだ意識がぼんやりとしたままつぶやく。
「あの、出来事……………………」
「やれやれ、これは時間かかるな……致し方ない」
大黒神は独り言のように呟いたかと思えば、呪文らしき言葉を小声で言った。瞬間、大黒神の足元に、魔法陣が姿を現す。
当の本人であるサタンは「何を言っているのだろう?」と小首を傾げていた。
これから何が起こるかも、知らずに。
大黒神が自身の右手を額につけ、もう一度何かを呟いた時、サタンの周りを風が舞い始め、サタンの記憶を思い出させていく。
数秒後、サタンの記憶は完全に蘇っていた。そして、言う。
「あの、魔法聖戦士か…………!」
「やっと、思い出した様だな……サタン」
サタンの言葉に、大黒神は満足そうな顔で話した。
サタンは瞬時に真顔になり、静かに話し始める。
「ええ、これも大黒神様のお陰でございます。ありがとうございます。大黒神様…………私は、今一度、あなた様にお仕えしとうございます」
「……よかろう。忠誠の証として、力の一部を与え、お前の体に証を刻みつけよう」
大黒神がそう言った瞬間、辺りに輝きが出現し、臣下の儀式が始まった。
「我が、サタンは大黒神様の臣下となり、生涯忠誠を誓います」
サタンがひざまづき、頭を下げながら詠唱するようにつぶやいた。草木や花々が輝いていき、サタンと呼応していく。
「忠誠の証だ。受け取るが良い」
大黒神は、自身の魔力を一部を与え、サタンの体に証を刻みつける。焼けるように熱い証を――――。
臣下の儀式が終わった時には、サタンの首筋には、髑髏に似た紋章が刻まれていた。サタンの体内に、大黒神の強大な魔力が入り交じり、サタンの力を強めていく。
「これで、お前は私の臣下となった。サタン、期待しているぞ」
大黒神はそう言うと、サタンの前から姿を消した。そして、サタンに『あること』を言い残す。
『長の城に、お前の魔力の半分が封印されている。そこに向かい、力を取り戻すと良い』
サタンは一度目を閉じて、再び瞼をあけ、心中でつぶやいた。
――力を取り戻す、か……。
*
「ふふっ……大きくなってね、お花ちゃん」
サタンが目覚めた頃、同じアネル地方では――――。
長の城にある中央の間。タスコス・デエス・グレイジェルが、中央の間にあるバルコニーで鼻唄を歌いながら、自身が育てている花の水やりをしていた。バルコニーにはバルコニーの柵に沿われる形で、花壇が設置されており、様々な花がバルコニーを飾っている。
中央の間は主に式典などに使用される為か広さは充分すぎるほど広く、内装は生活が感じられないくらいの豪華絢爛な飾りが施されていた。柱一つ一つにも、細かな彫りが入れられている。派手と見て取れる内装だ。
そこに、荒々しく走る足音が聞こえてくる。足音の大きさは段々と大きくなっていく。
「タスコス様――――!!」
タスコスの名前を叫ぶ声と共に。
数秒後、一人の兵士がタスコスの元に駆けつけた。
「大変でございます、タスコス様!! 緊急事態でございます!」
「あら、どうしたの? 緊急事態って?」
声をかけられた当の本人はというと、喋りながら、未だに花に水をあげている最中である。
兵士を兵士Aとしよう。兵士Aはタスコスの様子に口を半開きにしたまま、タスコスの様子を眺めていた。すぐさま我に返り、跪くと、報告を始める。
「魔王サタンの封印が何者かの手によって解かれ、サタンが復活した様でございます」
兵士Aの報告に、一瞬驚いた様で、一度水やりの手を止めた。兵士Aに目を向けると、言う。
「なんですって……? サタンの封印が、解かれた……!?」
兵士Aが落ち着いた声色で言い放った。
「いかが致しますか、長様」
そう、タスコスこそが、この魔法界の長。この世界で一番地位が高く、世界を統率する者だ。長は争いや戦争が起こらないように見守り、世界を統率していく役目がある。
兵士Aはさらに報告を続ける。
「近くにいた、他の兵士達が封印が解けたとの知らせで、城の跡地に向かったのですが……既に封印が壊され、誰もいなかった様でございます」
「ならば、急いで追うのです。魔王の封印が解かれたと民の者が知れば恐怖に怯えるでしょう。事実が知れ渡る前に見つけるのです! そう遠くには行っていない筈です!」
先程とは、打って変わった言葉遣いのタスコス。表情も統率者らしく、たくましく凛々しい顔立ちに変化していた。
「はっ! 直ちに知らせます!」
兵士Aが『長の命令』を皆に伝えようと動いた、その直後である。
「だ、誰か……助けてくれぇ〜〜!!」
誰かの助けを求める、悲痛な声が木霊した。どうやら、男性の声の様。
「何か起こった様ね……行きましょう!」
タスコスが兵士Aに声をかけると、兵士Aは「はっ!」と返事をし、走り出したタスコスの後を追う。
数十分後――――タスコスは兵士Aを連れて、倉庫がある扉の前までやってきた。そこには、扉の見張りをしていた兵士二人が、うめき声を上げながらうつ伏せで倒れている。
タスコスはすぐさま兵士の一人に駆け寄った。
「あなた達、何があったの!? 一体どうしたというの!?」
「急に……襲われて…………うぐっ」
兵士の一人は二言三言言葉を発すると、そのまま意識を失う。
「急いでこの二人を医務室へ運んでもらえるかしら? 医務室に着いたら、兵士達の手当するように回復担当の魔術師に……」
タスコスがその場から動こうとした時――――!
突然、兵士Aがゆっくり倒れ込む。兵士Aの体から、小さい雷のようなモノが見えることから、状態異常にかかった様だ。おそらく麻痺状態になったのだろう。
「――――!!」
タスコスは兵士Aの様子に、大きく目を見開かせ、無言で驚いた。直後、タスコスの背中に衝撃が走る。魔法銃に撃たれたような、激しい痛みが伴った。同時にタスコスも、兵士Aと同様、麻痺状態に陥る。
――まさか、この攻撃は…………!
タスコスは痺れに耐えながら、荒い息遣いで、少しずつ立ち上がった。
「さすがは魔法界の長。立ち上がれるとは……相変わらずの強さだな」
殺意と怒りに満ちた、低い男の声。タスコスが昔、幾度も聞いた、聞き覚えのある声だった。
「そちらこそ、相変わらず……不意打ちが好きなのね…………魔王・サタン」
魔王・サタンは、不敵な笑みをこぼしながら、魔法で体を宙に浮かせていた。サタンが見つめる先はもちろん、タスコスである。
タスコスは魔法陣を発動させようと動きかけたが、サタンからの魔法による射撃攻撃によって、魔法陣発動が阻まれた。
「くっ……!」
「悪いな……まともに相手している暇はないんでね。早めに用は済ませてもらう」
サタンはそう告げた直後、部屋へと侵入する。
――しまった! 狙いは……あの壺に封印されている魔力!?
タスコスが〝その事〟に気づいた時には、既に遅し。サタンが部屋に侵入した後だった。
サタンが侵入した部屋は、サタンの魔力が封印されている壺を守る為に作られた特別な部屋で、一日中兵士二人が見張りをしている。部屋の広さは、壺を守るには広すぎるくらいの広さだろうか。
サタンは平然と部屋の奥に進んでいく。そこには、魔法陣に守られた壺を、一日中守っている兵士二人が、侵入者に取られないよう見張っていた。
「ちょいと失礼。壺に封印されている、俺の魔力……返してもらう!」
サタンの言葉に対して、兵士二人が即座に反応する。
「誰だ、貴様!」
「まさか、侵入者か! 壺の中は渡さん!」
サタンは歩み寄りながら、兵士二人の首筋に手刀を入れ、見張りを一瞬で気絶させた。見張り担当である兵士二人は、その場で倒れている。
「急いでいるんでな、失礼!」
サタンは気絶している二人にそう告げた後、魔法陣の近くまで近づき、何度も攻撃を繰り返した。数秒後、魔法陣は破壊され、壺の守りが消え失せる。
その瞬間、サタンに呼応した壺が、数秒もたたないうちに、一瞬で粉々に割れた。割れた壺からは、光の球のようなものが姿を現し、サタンの中へと吸い込まれていく。サタンが力を取り戻した瞬間だった。
「サタン、そこまでよ!」
麻痺状態から回復したタスコスが部屋に突入したが、
「タスコス、いずれまた……」
と言い残してサタンはニヤニヤしながら姿を消してしまう。
――大変なことになったわねぇ…………。
タスコスは歯噛みして、力強く拳を作ると、サタンが去った部屋を見つめた。
異世界のシーン、書きなれていない為なのか、書き終わるまで時間がかかってしまいました……(汗)
次回は今週末までに書き終わりたいです……頑張ります。