表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イルザは僕を殺したい  作者: Perseus7
イルザは僕を殺したい
7/23

6.『君のとなり』と『加速しだした運命』




ーー『嘘つき。大っ嫌い』とイルザに言われた時。ぼくはとても胸が痛かった。

その直後にキスなんかされて、ほんとう、甘いやら泣いてるやら柔らかいやらいい匂いがするやら人前やらそもそも殺されかかってるやらでもう訳がわからなくなったし。最低だって頭突きでもしてやりたかったけど、立ち直る前に息の根を止められるところだった。そこからきみは益々訳のわからない言動をして、平気で人を殺そうとした。嫌な笑みを浮かべて見せた。人の顔が分からないなんて初めて知った。それからひどく騙されて、怪我されて、殺したいなんて言われて、誓い直そうとしたら散々詰られて、腹の底から死にたいんだ、なんて叫ばれた。

嘘だと思いたかった。

イルザは光を避けるように立った扉の脇で、闇に紛れきれずに泣いていた。

ぼくを騙そうとして流した美しいだけの虚ろな涙とは違う。緑の瞳のまっ暗な翳に遮られていた傷が晒され、その深くえぐれた傷口が膿み、血が溢れ続けているのが見て取れた。


そんな傷ついたままで死んでしまおうなんて、馬鹿だ。


涙を流さぬまま泣いているきみを、どうして放っておけようか……!

「……イルザ」

静かに呼びかけると、死にそうな声が返ってきた。

「…………っ。……なぁに…」

少し引っかかったけど、置いておくことにした。

「きみは、どうしても死にたいって言うんだね」

「……君は、嘘つきなのにまた誓おうとするんだね」

「…そうだよ」

ぼくは息を深く吸い込んだ。

「ぼくはーーきみを愛している」

「…………?」

きょとん、とイルザは瞬いた。

「きみは、ぼくをもう愛していないのか?」

効果は劇的だった。

「えっーー」

イルザは微かに赤くなった。うわ、何これ嘘、と自分の頬を押さえる。動揺のためか目が潤み、だんだん林檎よりも真っ赤になっていく。「うそぉ」慌てて俯いた。

こんなに動揺するとは思わなかった。てっきり冷たく何それとでも言われると思っていたのだ。

にわかに自分も恥ずかしくなってきたが、無視した。

返事を待たないで彼の手を取り、跪く。

イルザが震え、怯えたように愛してないとわめき始めた。

温度の下がったその貌を見つめる。

「ぼくは君を救いたい。きみを愛しているから、そんなに傷ついたままじゃ、いかせられない。きみの死は救いじゃない。ただの終わりだ。悲劇の終幕。でもぼくは、そんなの認められない」


「ーーきみの運命はまだ止まらないって、信じてる」




嘘だと傷つけられた自分が喚き立てている。泣き叫ぶ。過去のように。また裏切られ、酷いことをされるんだ。それなら死んだほうがいい、今すぐ死ね、剣を奪って喉に突き立てるがいい!

ひと月分の平穏が作った思考力が吹き飛びそうになる。

心の残骸に過去が、渦巻く。恐ろしい記憶も、その前の温かい記憶も。すべてが混ざり、混沌として、訳がわからない。

諦めて思考力を手放すと、答えは心の破片が叫ぶ事しかなかった。


嘘でもいいーー信じたい。


君と歩む運命を得たかった。

古びた恋心は今や夜空の星よりも輝き始めて止まらない。

勝手に僕を微笑ませ、

勝手に手を握り返させる。

無意識の領域で操られたように口が動く。

「ーー信じるよ、エルザ。また再び」

青い目を大きく見開いて、君こそが救われたような笑みを浮かべる顔から目が離せない。

君は立ち上がり、僕の手を引いて、扉へ踏み出した。


一歩先に君がいる。


光の中に君は立つ。


僕も一歩踏み出してーー



君の隣に、立った。

これにて本編は終了したします。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

後で後日譚か何かを追加投稿するかもしれませんが、その時はまたよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ