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プロローグ:世紀のカリスマは、鏡の中で頭を抱える

「……うそ、だろ?」


それが、俺の新しい人生の第一声だった。


いや、正確には「人生」ではなく「第二の人生」だ。


数分前まで、俺は令和の日本を生きるごく普通のしがないサラリーマンだった。


営業帰りに居眠り運転のトラックに突っ込まれ、ガシャーンという激しい音とともに意識を失った――そこまでは覚えている。


いわゆる、巷で大流行している「異世界転生」というやつだ。 


チート能力を授かって、美少女たちに囲まれながらスローライフを送る。


そんな妄想を脳裏に浮かべながら、俺はゆっくりと目を覚ました。 


しかし、体を起こした瞬間に違和感を覚えた。 


ベッドがやけに豪華で硬い。 


天井が高く、クラシカルな装飾が施されている。


そして何より、部屋のあちこちに飾られている「赤い背景に白い円、その中に黒い逆卍」の旗。


「え、これって……」  


嫌な予感を胸に、俺はフラフラと立ち上がり、部屋の隅にある大きな姿見の前に立った。





鏡に映っていたのは、金髪のイケメンでも、エルフの美少年でもなかった。


きっちりと七三に分けられた油っぽい髪。


鋭すぎる三白眼。


そして、鼻の下にチョコンと乗っかった、あまりにも主張の激しい四角いちょび髭。


「ちょっ……おいおいおいおい!」


慌てて自分の顔を触る。本物だ。


つけ髭じゃない。さらに、自分が着ている衣服に目を落とす。


仕立ての良い、しかしどこか威圧感のある軍服。


左腕には、あの不吉な腕章が巻かれている。


脳内に、濁流のような「持ち主の記憶」が流れ込んできた。


男の名前は、アドルフ。


ここは1936年のドイツ。


そしてこの男は――数年後に世界を地獄の業火に叩き込む、人類史上最も有名な独裁者だった。


「なんでファンタジーじゃなくてガチの歴史なんだよ! しかもよりによってこのルートは詰み確定だろうが!」




鏡の中のちょび髭が、俺の絶望と完全にシンクロして顔を歪ませる。


このまま歴史通りに進めば、数年後には世界中を敵に回し、全方位からボコボコにされて地下壕で悲惨な最期を迎えることになる。


そんなバッドエンド、絶対に御免だ。


しかし、記憶を辿ると、すでにラインラント進駐などの危険なチェスピースは動き始めてしまっている。


今さら「やっぱり独裁者やめます、画家に戻ります」なんて言ったところで、周囲の狂信的な部下たちが許してくれるはずもない。


「……やるしかないのか」


俺は震える手で、鼻の下のちょび髭をそっと撫でた。


世界を敵に回して破滅するか。


それとも、現代の歴史知識チートをフル活用して、この狂った国をまともな方向に舵取りし、生存ルートをこじ開けるか。


「よし。世界大戦のシナリオ、力技で書き換えてやる」



鏡の中の20世紀最大の怪物が、不敵にニヤリと笑った――ように見えた。


こうして、一人の日本人サラリーマンによる、世界を揺るがす「ちょび髭生存大改革」の幕が開けたのである。

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