第6話 告げられた真実
※本話はダリア視点とロベルト視点です。
ロベルトが何を選び、何から逃げ続けたのかが描かれます。
扉の前に立っていたのは、王太子妃――いや、すでに周囲からは王妃と呼ばれ始めているリリアンの妹で、リリアンの補佐官のカロリーナ。
「正式に決まりました。
あなたは――側妃として迎えられます」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
理解したくなかった、が正しい。
「……陛下は、ご自身では、言えないそうです」
それだけで十分だった。
すべてが、腑に落ちてしまうほどに。
「国のために必要な判断だと、
そして――それを拒む選択肢は、あなたには与えられていません」
淡々とした口調。
感情を交えないのは、彼女なりの配慮なのだろう。
ダリアは、ゆっくりと息を吐いた。
「……承知しました」
声は、不思議なほど静かだった。
「お伝えください。
私は、与えられた役目を果たします」
カロリーナは一礼し、踵を返す。
扉が閉まる直前、ほんの一瞬だけ、彼女の表情が揺れたように見えた――気がした。
だが、もう確かめる術はない。
こうして、ダリアは
ロベルトの口からではなく、王宮の判断として、未来を告げられた。
ーロベルト視点ー
――遅すぎた。
それが、最初に浮かんだ言葉だった。
無表情で、静かに部屋を出ていくダリアの背中を見た瞬間、胸の奥が強く締めつけられる。
以前なら、彼女は振り返った。
呼べば、少し困ったように、それでも嬉しそうに微笑った。
だが今は違う。
あまりにも静かで、あまりにも遠い。
「ダリア……」
名を呼ぶ声が、ひどく弱々しく聞こえた。
王太子として人前で発する声とは、まるで別物だ。
彼女は立ち止まらない。
振り返りもしない。
――行かせてはいけない。
そう思うのに、足が動かない。
頭の中に、リリアンの声がよぎる。
『王家のために必要なのよ』
『感情で動く立場じゃないでしょう』
『あなたは、王太子なのだから』
分かっている。
分かっているはずだった。
だが、分かっていた「つもり」だっただけだ。
ダリアが、何を望んでいたのか。
何を恐れていたのか。
どんな気持ちで、あの離れにいたのか。
何ひとつ、真正面から見てこなかった。
守ると言った。
側妃に迎えた。
それで十分だと、どこかで思っていた。
――違う。
それは、王太子としての「配慮」だっただけだ。
一人の男としての覚悟ではなかった。
ようやくそれに気づいた時には、もう遅い。
ダリアの声が、脳裏に蘇る。
『王家に関わらない平民に生まれたかった』
あの一言が、胸に深く突き刺さる。
王家であること。
王太子であること。
それが誇りだったはずの肩書きが、
初めて、呪いのように重く感じられた。
彼女はもう、何も求めていない。
責めもしない。
泣きもしない。
ただ、完全に心を閉ざしている。
――取り返せない。
その事実だけが、静かに、確実に、ロベルトを蝕んでいった。
声をかける資格も、
手を伸ばす権利も、
もう自分にはない。
それでも、胸が痛む。
王太子としてではなく、
一人の男として。
失って初めて、
どれほど大切だったのかを知る愚かさに、
ロベルトは、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
ここから、物語は静かに崩れていきます。
次話もロベルトの内側が続きます。




