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第3話 ロベルト視点


 ――間違えたのは、いつからだっただろう。


 そう考えるたび、胸の奥が重く沈む。


 王としての責務。

 正妃として選ばれたリリアン。

 そして、側妃として迎えたダリア。


 すべて「正しい選択」だったはずだ。


 少なくとも、誰もがそう言った。

 宰相も、重臣たちも、王家に連なる者たちも。


 だから、私は従った。


 感情よりも国を。

 愛情よりも秩序を。


 それが王だと教えられてきたから。


 ――けれど。


 夜、ひとりになると、ダリアの顔が浮かぶ。


 あの日、側妃の話を告げたとき。

 彼女は泣かなかった。


 ただ、一瞬だけ目を伏せて、

 それから小さく笑って「承知しました」と言った。


 あの笑顔が、今も胸に刺さっている。


(本当に、それで良かったのか……?)


 リリアンは完璧だ。

 政治の才も、判断力も、覚悟もある。


 彼女が正妃であることに、異論はない。

 むしろ、彼女でなければ国は保たなかっただろう。


 だからこそ――怖い。


 彼女は、迷わない。

 感情で揺れない。

 そして、私よりも王として正しい。


 会議の場で、私は席に座っている。

 だが、決定を下すのはいつもリリアンだった。


 意見を求められることはある。

 しかし、それは確認でしかない。


 否と言える空気は、もうない。


 私は、王でありながら、

 いつの間にか“王である役”を演じる存在になっていた。


(ダリアに会いに行きたい)


 そう思っても、足が動かない。


 理由をつけてしまう。

 公務がある。

 正妃に断りを入れていない。

 今は、控えるべきだ。


 ――本当は、怖いだけなのに。


 ダリアの前では、私は王ではいられない。

 弱く、迷い、何も決められない男に戻ってしまう。


 それを見せる勇気が、もうなかった。


 守ると約束した。

 側妃として迎えると誓った。


 それなのに。


 彼女を守るために、

 私は彼女から距離を取っている。


 こんな矛盾が、あるだろうか。


(私は……王失格だ)


 そう思った瞬間、

 胸の奥に、ひやりとした感覚が広がった。


 前世の記憶は、まだはっきりとは思い出せない。

 けれど、同じ失敗を、

 同じ後悔を、

 また繰り返している気がしてならなかった。


 選べなかった。

 抗えなかった。

 誰かに決めさせて、逃げた。


 その結果、誰かが泣く。


 私はまた――

 同じ場所に立っている。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


第3話では、

王でありながら選ぶことができなかったロベルトの視点を描きました。


正しさを選び続けた結果、

何を失っているのかに気づけない。


それもまた、ひとつの弱さです。


次話では、

物語を少し離れた位置から見つめる視点へ移ります。


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