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ZERO 追章  作者: 森 神奈


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灯火の明かり


荒れ果てた海岸。砂にまみれ、波に押し流されるまま横たわった美咲は、遠くで響くサイレンの音にうっすらと意識を取り戻した。目を開けると、見知らぬ景色――赤い屋根の建物、広い道路、そして耳に届く意味不明の言葉。


「ここは…どこ?」


弱々しくつぶやくと、医師が微笑みながら答えた。


「アメリカだよ」


身体は全身打撲で痛み、服も靴も流されてしまっていた。手元にあるのは、濡れたカバンの底に残るほんの少しの現金だけ。周囲の人々は親切で、手振りや片言の英語で美咲に説明してくれる。


日々は戸惑いの連続だった。バスの乗り方、スーパーでの買い物、文化の違い…。しかし、少しずつ慣れ始める自分を感じる一方で、「なぜ私だけ…」という罪悪感が胸に重くのしかかった。家族も、友達も、もう誰もいない。孤独は深く、時に涙が頬を伝った。


ある夜、街を歩いていると突然停電が起きた。周囲は暗闇に包まれ、心細さが胸に押し寄せる。そんな中、一軒の家の窓辺にろうそくの灯がともっているのが見えた。家族や友人たちが笑い声を上げながら集まっている光景に、美咲の胸はぎゅっと締めつけられた。


「失ったものは大きいけれど、ここにも確かに灯火がある」


その光景が、胸の奥底に温かいものを灯す。小さな光でも、人は前に進む勇気を得られるのだと、美咲はそっと思った。


翌朝、美咲は小さなカフェでアルバイトを始めた。オーナーがにこりと笑い、言った。


「灯火みたいに明るい笑顔だね」


美咲はカップを手に取り、湯気越しに街の明かりを見つめる。まだ見知らぬ土地で、頼れる仲間もいない。けれど、ここでできることがある――そう感じる心に、ほんの小さな希望が芽生えていた。


そして美咲は、そっと微笑む。


はもう一度歩き始める――ZEROから、新しい日々へ。

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