IMPROVISATION
誰かの希望になりたい、夢になりたい、敗北を知り屈辱を食らった5人の男たち。
気持ちや考え方はみんな違う。
それでも音楽にかける想いは同じだった。
ここから始まる物語は、泥臭く、馬鹿だと後ろ指刺されたが誰よりも自分たちを信じたもの達の物語
これは、人生を掛けて「音楽」をやる未来の5人組ロックバンドの群像劇ストーリー
IMPROVISATION
「今日はありがとうございました……次が最後の曲です。本当に……人生って難しいですね……辛いし苦しいし嫌になることだっていっぱいあった……ある時は君たちの曲はつまらないねって言われ、またある時はこんなんじゃ売れないよいいの?とまで言われた。何度も……何度も何度も馬鹿みたいに言われ叩かれたでも俺って……いや、俺たちってただ音楽が好きなんですよ死ぬまで馬鹿やりたくって変わり映えの無い日常を変えたくって誰か一人でも多く感動させたくって……ほんとそんな思いでここまで来ましたそれもこれもみんなが俺たちに付いて来てくれたからです本当にありがとうございますまた、そのチケットという名の切符を持って待っててください必ず迎えに行くから改めて次が今日最後の曲です
夢を夢のままで終わりたくない
ただの妄想だったなんて信じたくない
そんな君たちから俺たちにくれた曲
俺たちを見つけてくれた曲聞いてください」
それは自分たちの可能性を信じた者の想い
歓声が会場の外まで響き渡った。
一曲目 「IMPROVISATION」
イントロ
「な――今日のテレビ見たか?」
「あ――……活動休止だろ?最近いきなり活動が活発になってたよな、やっぱ音楽業界って色々あったりするのかな」
横断歩道で待っている時に盗み聞きした男二人の日常会話。
「まさか、&Luckがな――」
凪は耳を疑った。たった今憧れが活動休止する事を名前も知らない二人に知らされたからだ。今人気絶調、若い世代から圧倒的な支持を得ていて顔を出さないスタイルを絶対にし歌で勝負している人それが&Luckだ。なんだったら昨日武道館でライブをやったようなレベルの人だから尚更だった。
「ふっ…んな訳…」
目線を向かいの家電量販店に向けた瞬間開いた口が閉じなくなった。
「ニュース速報です。先日、武道館で活動休止を発表した&Luckさんが休止前最後のライブを文京ドームで行う事を先ほど発表しました」
テレビから目を逸せなくなったそれと同時に心のどこかで何かが軋む音がした。
「あ…あ…あるぅぅぅぅぅ!?!?!?」
凪はこの後何をしようとしていたのかもどこに向かおうとしていたのかも何もかもが頭の中から消えていた。
Aメロ
「おい岩瀬、今日バイトだぞ、何してんだ。体調が悪くっても這いつくばって来い!!俺にワンオペなんてさせんな死んでも来い!!!!」
そうだ、バイトに向かう途中だったんだ。俺は現実逃避したくって家に蜻蛉返りしたんだ。
「……明後日路上ライブの日だ」
凪はバイトをしつつ歌手として活動しているフリーター。もちろん全く売れていないと言うよりどのようにすれば売れるのかが分からずにいた。そもそもなぜ売れたいのか?ただチヤホヤされたいだけなのか?世の中に自分自身が存在したと言わせたいだけなのか?もうなんのために歌手活動しているのかも分からなくなっている時&Luckを知った。初めて彼のYauTubeを見た瞬間それまで色々考えていたのが馬鹿らしくなった気がした。それからと言うもの彼を追いかけ続けた。ただただがむしゃらに走り続けたでもその目標が今消えた。
憧れ消えたらこんな気持ちになるんだな
この気持ちはあれだ推しのアイドルとか俳優が結婚をした時の感情と同じだ。バイトで商品をスキャンしてお客様から罵声を浴びさせられ路上ライブでは人も全く集まらずに心が折れかけたら&luck見て自分を鼓舞するのを繰り返してた毎日がいきなり崩れた。
「バイト…バックれよ、明後日の路上の練習するか」
憧れが消えたから俺も辞めるっていう理由にはならない。やり続ける事に意味があると思った自分勝手に&luckの意思を絶やさないと考え走り続けると決めた。
「マスター……やっぱ無理だよぉ……」
数時間前の意思とやらは何処へいつも路地ライブ後よく通っているBAR「VOICE」のマスター日南に弱音を吐いていた。
「憧れ消えても俺は走り続けるなんて口では言えるけど頭の中、活動休止とか引退とか辞めるとか色んな思いが出てきて…もぉぉーって感じで」
「ライブ前に来るなんて珍しいと思ったら席に座るなりずいぶん泣き喚くね。でも、&luckは活動休止だから、辞めるとか引退とかじゃないと思うよ凪が勝手に話を大きくしてるだけ」
「そうだけどさー、ほとんど辞めるに近いじゃん…推しの活動休止はファンにとっては人生の大打撃なんだよ…」
にこやかに笑いながら話すマスターを横目にため息を吐きながら弱音を言う自分が客観的に見ても幼く感じた。そんな状態を恥じることなく淡々と喋っている自分は時間が経つにつれ酔いも回ってきていた。
「ほら、もう遅いよ明日バイトでしょ店長に謝るんだって言ってたじゃん」
「うん…うん……帰ります……」
そう言いながら席を立ち店を出ていく瞬間1人の男とぶつかった
「……大丈夫?」
「う、すいません……」
どこかで聞いたことのある声。しかし凪の頭はライブと&luck、バイトの事でいっぱいだった考える余裕も無く早足で家に帰った。
「店長、バイトをすっぽかしてすいませんでした……」
「はぁ……もう過ぎたし許すしかねーけど次はないからな、ほんと気をつけろよ全く…………こんなやつがアーティスト目指してるとか考えられねーわ舐めてんな音楽を」
「はい……気をつけます…………」
バイトを初めて5年初めて無断で休んだ。いつもバイトに来る度に難癖をつけ頭ごなしに怒鳴る店長日常の細かなストレスが溜まりに溜まって俺がサンドバック状態になっていた。てか最後の一言いるか?とそんな言葉も出ないほどこの環境に慣れてしまっていた。明日路上ライブがある正直やるかどうか迷っていた日々散々怒鳴られ憧れが目標が消え行くあてを失った船のように人生という海を漂っているようだった。いつも歌う&Luckの「ベイビーロー」と「逃亡録」はマストで今流行りの曲を二曲。マストの曲はいいとして流行り曲をしっかりと歌えるように俺は練習をしていた。
「こんなこと続けて何になるんだろう」
俺はなぜ歌手として活動しているのか分からなくなりつつあった。
ライブ当日お客さんは片手で数えられるくらい
「今日はありがとうございます。次が最後の曲です。聞いてくださいベイビーロー」
ジャーン…
薄い拍手が響き渡った。
「改めまして今日はありがとうございました」
目標を見失ってから初めてのライブ緊張や不安は不思議となかったというより何かを諦めた感覚に近かったそう考えた瞬間
あ…無理かも…
凪の中で決めた夢という名の細い糸が切れた音がした。
Bメロ
昨日の路上ライブの時確信した。俺に音楽の才はない人を引き付ける物を俺は持ち合わせていないだと。
潮時かな
次のライブで終わりにしようと考えた凪はこの5年間は何だったんだろう有名になって世の中に自分の名を残して富と名声を貰って…その先は何があるんだと思っていたがまだスタートラインにすら立てていない自分の無力さが痛いほど知れた日々だった
俺は&luckを頼っていたんだ。
知らず知らずに憧れを勝手に頼っていた自分だけでは何もできない失敗が怖い踏み外すのが怖い臆病な生き物なんだと改めて知った。
凪は誰かにあやかることしかできなんだとこの薄っぺらい夢に浸りながら一人アコギをもって”最後の路上ライブ”に向かった。
「本日はありがとうございました。今日で俺の歌手活動を終わりにします。最後は俺が一番好きで憧れだった&luckの"千夜革命"聞いてください」
今日も相変わらず片手に数えられる程度だった自分の音楽人生のピリオドとなる日でさえこんなものだった。
場数を踏めば踏むほど惨めに感じてきた最後の曲が終わりいつもの薄い拍手も聞こえなくなったその時
「……ヒキコモリヒーロー……歌える?俺あれが一番好きなんだよね」
そこには一人の男が目の前で座っていた。
「は、はい!弾けます!」
初めてのリクエスト。ヒキコモリヒーローは俺が&Luckを知ったきっかけになった曲で知る人ぞ知る名曲だった。
凪は最後のライブだからか初めてのリクエストだからか今日一番全力で歌った。
「リクエストありがとうございます!改めて今日最後の曲です!聞いてください&luckからヒキコモリヒーロー!」
ジャーン
「ありがとうございます。今日は本当にありがとうございました。」
最後の路上ライブにして一番楽しかった悔いはないそう感じアコースティックギターをケーを閉めようとした瞬間「ガッ」とケースの隙間に手が入ってきた。そこにはリクエストをくれた男がいた。
「本当に音楽やめるの?」
なんでそんなことを聞くのかと疑問になりつつも答えた。
「俺には才能がないんですもっと身の丈にあった……」
「それは間違いだ。お前の声を聞いて通り過ぎる人たちがセンスないんだよ。輝くとか才能とか……天才とかそんなん考えたって自分の音楽が腐っていくだけだろ?」
何言っているんだこの人センス?感性とか人それぞれだろ俺はそんなことを思いつつもこの人の言っていることはなんだか引き込まれるようだった。
「俺はお前がこんなところで終わっていい存在じゃないと思っている。
お前にとって音楽ってなんだ?」
いきなりの疑問をぶつけられた。俺にとって音楽?
「わからない」
歌手をやっている人として一番良くない答え方をした。しかし男は笑いながら答えた。
「音楽ってわからないよな、どんな哲学よりわからないと思う100人いれば100通りの答えが出る。わからないもその一つだろうけど俺は音楽って自分の思いや考えを共有するためのコミュニケーションツールだと思っている。普段言えない言葉も感情さえも音として伝える。言語の壁さえも超えたコミュニケーションそれが音楽。自分を伝える最強のツールだと思っている」
「はぁ……」
男が淡々と話している自分の理論を凪は半強引に聞かされていた。
「そこでだお前俺のバンドでボーカルをやってくれよ
俺の船に乗れ見たことない景色を見してやる」
いきなりの誘いだったこんな自分に目をキラキラさせながら熱く語るそいつは直視できないほど輝いて見えた。
しかし凪はもう音楽を諦めていたここでまたその手を握ったら自分だけじゃなく周りに迷惑がかかってしまうとも考えていた。でも最後に歌ったヒキコモリヒーローはすごく気持ちよかったとも感じたそんな矛盾と葛藤の中でも答えは決まっていた。
「俺の音楽は終わったんです。今日は最後の悪あがきみたいなものでいつもはあんな風に歌え…」
「過去の自分に聞くな今の自分に聞け。この手を取るか取らないかYESかNOかだ」
凪は言葉を失った頭の中で自分が決めた事をこんないとも簡単に崩された。頭の中は真っ白で言葉が出なかった。しかし、男はまた笑いながら答えた。
「ま、今すぐ答えは出さなくていいっか人生がかかっているからな丁度一週間後1月18日午後4時に渋谷ハチ公前で俺を含めたバンドメンバーが集まるその時に来なかったらきっぱり諦める」
「また会おうな」
そう言い残し男は新宿の夜の街に消えてった。こちらの返事も聞かず台風のような人だった。これは神様が与えたラストチャンスなのかそれとも夢を拗らせすぎた自分の妄想だったのか凪は呆然とし頭の処理が追い付いていなかった。
「あ、名前聞いてない……」
時間として十数分くらいだった。これをどう捉えるかで自分の人生が決まると思った。
最後のチャンスか…………
直感でそう感じた「チャンス」誰しも惹かれる言葉。たった一週間でこれからを左右する答えを出せというのだ。凪は一生過去に囚われるか未来という名の首輪を着けられ引っ張られるかその答えを出すには時間が足らなすぎると感じた。
サビ
悩んだどうすればいいのか家族や友人に相談して解決することではないから尚更だった。それでも何か変わるとも感じていた。
「来てしまった」
俺は考えるよりも見切り発進する人生を選んだんだ。これを最後なんて考えずこれを機に俺の人生を描いていく。
それが凪の答えだった。16時30分を過ぎハチ公前には男が三人だけ立っていたそこにはあの男はいなかった。
「なんだただおちょくられただけだったか」
チャンスは平等なんて誰が言ったんだ。そんないい話があるわけがないとこの後どうするか考え始めようとした。
その時誰かが肩を組んできた。
「えーっと左からうちのバンドのギターリスト長瀬翔で真ん中が飯田大和、ドラマー、一番右にいるのが浅木遥斗、キーボーリストね」
そこにはあの時の男が立っていた。
「な……なんで」
「なんでって今ここにいるってことはバンドに入るってことだろ?だからメンバーを教えた」
男は当たり前だろ?と言わんばかりの顔でこちらを見つめていた。凪はその瞬間何か自分の道に光が刺したように感じた。
「さぁ来い凪次は俺らがスポットライトを浴びる番だ」
「あぁ……そうだな」
凪はこの前途多難な船に乗ることを決めた。ただ首輪を付け引っ張られるんじゃなく自分が世界の先頭に立つ存在になると。
「俺は日野燈、ベーシストでコンポーザーだよろしく」
「あぁ……ん?なんで俺の名を?」
「え、いやだって路上ライブでNAGISAって名前書いてただろ、偽名って感じでもないから本名なんだろうなって感じただけだ」
「あ、あ――……そうゆうこと…………よろしくお願いします燈さん?」
「おう、よろしく。ちなみに凪の方が年上だからタメ口でいいぞ」
「え、そ、そうなのか……年下にバンド誘われたのか……」
嬉しいのか悲しいのか凪は複雑な気持ちを持ち合わせたままハチ公前の残りの三人のメンバーのもとへ向かった。
一人の男を中心に集まった五人の男たち。
個々の考えやバラバラな思いが一つの目標に人生を賭けた物語
Dreamer主題歌「IMPROVISATION」youtubeで配信中⤵︎ ︎
https://youtu.be/SgWdoUk-R-k?si=UVIYjLu5caAtn70H